2006年5月21日総会にて(大和市保健福祉センター)

大和成和病院心臓外科  藤崎浩行

心臓リハビリの進んでいる米国

 皆様、きょうは天気が急に暑くなっちゃいました。ここも随分暑いなと思って、こういうときは脱水になるといけません。ここを出たらすぐに水分を取るようにしてください。きょうはちょっとした集まりに出て、海外の先生とお話をする用事がありました。
 前回、この会のときは海外に行く直前で、「リハビリテーションを見てきます」という話をちょっとだけさせていただいたので、そのご報告をしなければいけないのです。結論からいいますと、「アメリカって心臓外科医にとっていいな」と思って帰ってきました。

 どこがいいかというと、アメリカの医療はいろんなところで、皆さんは新聞で見られてご存じだと思います。「アメリカはいい。唯一の欠点はお金のない人がまともな医療を受けられない。アメリカでは何の健康保険も持ってない人が4千万人いる」とよく報道されています。ただし、ちゃんと普通に社会生活を営んでお金があれば、手術だけでなくて、もちろん変な外科医はいませんし、その後のリハビリテーションです。
 リハビリテーションで何が違うかというと、そういうことをする場です。皆さん、おうちに帰って「元気が出ないけど、元気を出していくためにどうしたらいいんだろう」と悩まれることがあると思うんです。ちゃんと病院の中にプールがある、歩く練習ができる、筋力をトレーニングする場所がある、そこにちゃんと専属の人がいてトレーニングをしているというシステムでした。
 日本に帰ってきてみると、世の中は全く逆の方向に進んでいます。心臓リハビリテーションは3階でやっていますが、もう受けられた方もいると思います。保険点数が今年の4月から半分になっちゃいました。要するに術後の方にリハビリテーションをやっても、あまり病院にとってはおいしくない話になってしまう。本当は手術をしただけじゃなくて、その術後をどうやってちゃんと過ごしていくかというのはとても大事な話ですが、医療費抑制ということなのかどうか分かりません。何でそうなったのか理由は分からないですけれど、非常に下がってしまいました。
 私自身が卒業したのは三重県の三重大学です。三重県は名古屋のちょっと南のほうです。三重県は学生にとっては非常に人気のない大学です。私自身も卒業してすぐにこっちに出てきたので何も言えないのですが、100人卒業生がいて毎年10人以下しか大学に残らないことが何年も続いています。お医者さんがすごく少なくなってしまって、NHKで特集を組まれるぐらいです。南島、伊勢志摩のほうは全然、病院に医者がいないのです。自分の同級生もほんとに死に物狂いで働いています。伊勢志摩のおいしいものも、きれいな景色も見る暇がない状況で働いています。
 最近、三重大学のホームページを見たら、すごく驚くべきことが二つありました。一つは、大学病院には麻酔の先生が少ないのですが、募集記事が載っていて「麻酔科の経験を問わず」とあります。これがうそだと思ったら、三重大学医学部附属病院のホームページを開けて、右上の「臨床麻酔部医師募集中」を開けてみると、「麻酔科の経験を問わず」と書いてあります。
 きのう、また同級生のメーリングリストがあってそれを見ていたら、三重県で医療に関する特区をやろうとありました。医者不足を何とかしようという特区です。医学部の6年間というのは、大体5年間でカリキュラムは終わるのです。6年間の最後の1年間はどっちかというと国家試験の勉強ばかりしています。ちょっと要領のいい人は5年目で、もしかしたら国家試験に受かるかもしれない、そういう人たちはいるだろうと。
 三重県は何を考えたかというと、三重県に限っては国家試験を5年生から受けられるようにしようと。国家試験に通ったら、6年生の医学部学生の段階でも三重県に限っては医者で働いてもいい特区にしようと。これはあり得ない話なんですけれども、そういう特区申請をしようと三重県庁でまじめに議論されています。僕の同級生なんか本当に気の毒です。武藤先生も三重県の出身なので、「どう思う、先生」ときのう話をしたのですが、そのような状況です。
 こういうふうに心臓外科に関しては、さっき南淵先生が言ったように、いい方向に行っているような気はします。これはなぜかというと今まで心臓外科の数が多過ぎただけであって、今までぎりぎりでやってきたところはこれからもっと悪くなるかもしれません。小児科や産婦人科はもっと悪くなるかもしれません。例えば神奈川県は全然例外じゃなくて、小田原市立病院は小田急線ですぐそこですが、里帰り分娩はお断りです。小田原の方がいるかもしれないですが、例えば娘さんが東京やどこかへ嫁いで、「お産だったらこっちの小田原市立病院があるから来なさい」はお断りです。もうはっきりと病院のホームページに書いてあります。神奈川県でもそういうふうになってきました。
 今、南淵先生が「いろいろ状況が良くなってきた。してやったり」と言っていました。10年前に南淵先生は「大学病院はあほだ」とか「ばかだ」とか、同じことを一生懸命に言っていました。「何を言ってんの、このおっさんは」と思っていた時期があるのですが、本当に世の中はだんだんそういう状況になってきたなと最近思っているのです。ところが見ていると、もっと悪くなっちゃうんじゃないかという側面もあるのです。
 現場で働いている側からすると、世の中の状況が悪くなってきて、だれが一番被害を被るかというと患者さんです。必要な医療が受けられない状況が起きてしまいます。そういった人が1人でも少なくなればいいなとは思うのです。そのためにはだれが何を言っているのか、政治家が何を言っているのかということを、1人で言っていてもしようがないと思うのです。南淵先生みたいに、みんな声がでかいわけでも、体がでかいわけでも、口がうまいわけでもないですから、1人で言っていてもしようがない部分はあるかもしれませんが、これだけの大きな会で、どんな方向に行くべきなのかとか、そういったことを考えていただきたいと思います。これはもしかしたら、皆さんのお子さんやお孫さんが必要な医療を受けられなくて悲しい目に遭うという、皆さんが現実的な被害者になる可能性は十分にあると思います。
 すごく悲観的な話で本当に申し訳ないのですが、きのう、自分の母校の大学病院のホームページを見て本当に悲しくなっちゃったんです。唯一の義理は成績の悪い私を卒業させてくれたことだけなのです。ただ、良くなってくる部分もありますけれども、そのとき1回悪くなる部分もあるかもしれない。そこを皆さんも、医療の部分だけですけれども、世の中をしっかり見ていただきたいなと思っています。(拍手)