2011年11月3日 15周年記念講演

「心臓手術後の生活」について

相模原協同病院心臓血管外科部長

藤崎浩行 先生

最近なぜかわからないが動脈瘤の患者が非常に多い

 こんにちは。相模原協同病院心臓外科の藤崎と申します。私は先ほど南淵先生から過分な紹介をいただいたんですけれども、出てきて、こんなやつかよと思われたらちょっと残念ですので、申し訳ありませんが、最初に謝っておきます。
 今ご紹介いただいたように、相模原の橋本の駅のそばにあります相模原協同病院というところで心臓外科をやっております。南淵先生とは以前の大和成和病院、その前の湘南鎌倉病院でもそうですけれども、全部トータルすると大体7年ぐらい一緒に仕事をしてたんじゃないかなと思っています。
 相模原協同病院というのは橋本の駅前にある病院で、簡単に病院の成り立ちというのをご紹介しておきます。農協の病院です。来年は創立65周年ということになっていまして、いろいろと記念行事というのを考えているみたいです。ベッドの数が350ぐらいありまして診療科は20あります。大体一通り全部あるということです。特に「がん拠点病院」ということになっていまして、放射線治療施設とか緩和ケア病棟とか、がん治療には特に力を入れている病院です。
 最近はやはり循環器の患者さんが増えてきたかなという感じです。大体一日に毎日外来の患者さんが1000人ぐらい来られて、もし一度でも来られた方は相当待たされるんじゃないかなと思います。非常に待たされるという評判を聞いておられるのではないかと思います。いろんな意味で農協というのはちょっと親方日の丸というか、半分公立みたいなところがありまして、なかなか思ったように効率よくいかないという残念なところがあります。
 私自身は、今スタッフは2人だけで循環器センターということでやっています。年間に200件ぐらいの手術をしています。そのうちの半分ぐらいが心臓とか大血管の手術です。相模原の北部、特に緑区というところは非常に広大な面積で昔の津久井郡というところです。かなり山奥で、なぜかわからないんですけど動脈瘤の方が非常に多いんですね。先ほどもありましたが、今年の8月は腹部大動脈瘤の方が8人ほどいまして、おなかの動脈の手術ばかりやっていました。そのうちの6人が津久井郡の方で、今までどうしていたのかなというぐらいの感じでやっています。
 外来のほうの手術は月・水・金とやっています。あとは週に2回ほど火曜日と木曜日は協同病院の外来をやっています。外来では手術を受けられた方、これから手術を受ける方を持っています。それ以外に週に2回ほど、近くの市役所のそばにある相模原中央病院で主に一般の循環器の外来をやっております。こちらはまだこれからそういう心臓病とか脳卒中にこの人たちはなっていくのかなという、糖尿病があったり、コレステロールが高かったり、血圧が高かったりという方を診ているという感じです。

病気ときちんと向き合う患者は優等生です

 最初に、こんなふうになった方、そしてこれからなっていくであろう方ということで、診療の内容にすごく違いがあるのかということをお話しさせていただきますが、そんなに違いはありません。言っていることもほとんど同じようなことを言っています。その中で私のほうから見てても、つき合いやすいというか、扱いやすいと言ってしまっていいのかわからないのですけれども、いわゆる優等生――病気ときちんと向き合っていただいて、少しでも元気な時間を長く保とうと思ってらっしゃる方と、どうもいまひとつ向き合っていないなという方がおられます。
 一番がっかりするのが、胸のポケットにたばこが入ったまま診察室に入ってこられる方。これは冗談と思われるんですが、1日に30人いると必ず1人はいます。私は最初は「これ、やめましょうよ。さすがに循環器の先生に失礼じゃないですか」と言ってたんですけれども、現在は言うのをやめました。もういいやと思って。もうどうしてもたばこを吸いたいんだったらそれはどうぞお吸い下さい。その代わり手術は何度でもさせていただきますという気持ちで、もう注意するのはやめています。
 病気といかに向き合っているかというところをずっと考えていますが、外来の患者さんと話していて、最近1年、半年ぐらい前からふと気がついたんです。学生時代にアルバイトで塾で教えたりしたときに、出来のいい生徒と、どうも出来の悪い生徒と2種類あるわけですね。向き合わない患者さんというのは基本的に落ちこぼれと一緒なんです。
 例えばコレステロールが高くて、血圧も高くて、糖尿病があるという方は、落ちこぼれで言うと国語もできなくて、算数もできなくて、英語もできないと同じなんじゃないかなと(笑)。そういう方に、血圧検査のデータを見せて、「こんなに悪いじゃないですか、頑張らなければ駄目じゃないですか」と言うと、だんだん病院に来なくなってしまう。どうせ行ってまた怒られるんだろうなと思って来なくなっちゃう方がいて、そういう方にはとにかく検査の結果はともかく、「よく来ていただきました」と思うことにしています。お薬が切れて1カ月間なかったという人にも、「ちゃんと来なきゃ駄目じゃないですか」ということは絶対言わない。「よく覚えて来てくださいましたね」と言うしかないだろうなという感じです。
 生徒も塾とか学校に来なくなると確実に非行の道に走っていくというのが多いと思うんです。それと同じで気がついて来られたときはかなり具合が悪くなってしまって、緊急の手術をしなきゃいけないとか、最悪になると、足を切断しなきゃいけないとかそういう状態になってしまいます。そういうふうにどうもこの人は病気と向き合ってないんだろうなというか、そこから逃げることしか考えてないという方はよろしくないのかなと思います。

内科の先生は患者が養生をきちんとしないと怒る

 医者の問題もありまして、患者さんが自分の思ったように薬飲んだり、養生をしないと怒る先生というのが非常に多いんじゃないかなと思います。行ったらどうせ怒られるだろうと思うと、特に内科の先生というのは非常にまじめなのです。我々には手術という最終手段があります。心臓病に関して手術をするというのは最終の手段です。その手段を持っているということです。かなりそういう意味では楽に考えています。どうしても駄目だったら手術すればいいやというわけですね。裏を返せば普段日々の診療をまじめにやってないということにもなる。
 「血圧をちゃんとしなきゃ駄目じゃないか」「糖尿病をちゃんとコントロールしなきゃいけないじゃないか」ということを言われて、「好きなことは」と聞かれたら、「やってください」と言うんです。「お酒はどうでしょう」と奥さんが一緒についてきて、「主人、ちっともお酒やめないので何とか言ってください」と言っても、「大丈夫ですよ。また詰まったら何度でも手術しますから」というような答えしかしないんです(笑)。
 内科の先生はそこで自分がもし手術が必要な状態になってどこに送るかということになると、やっぱり送る側の責任というか、紹介する側の責任というのがどうしても出てきますので、何とかそういう病気にならないように、これ以上悪くならないようにと非常に一生懸命診てくださって、その患者さんにお説教されるんです。それが「あの先生とはウマが合わない」ということで、口当たりのいいほうに流れていってしまうことがあります。これは欠点というか、善し悪しかなと思います。
 とにかく外科の外来というのはそういうことでやっております。口当たりがよくて、そこに来てると、実は大事なところを見落としているという可能性もあります。

人間というのはどうしても楽な方に流れてしまう

 もう一つは一夜漬けの患者さんがいます。何とか血液検査の結果だけは良くしようと。例えば診察の前の数日間だけちょっとお酒を控えてみたり、糖分を控えたり。それから採血がありますよという日だけ食事をしないで病院に来てしまったり。そういうふうにすると、例えばコレステロールが高い場合は、中性脂肪という数字は数日間、甘いものとか脂ものを控えれば高くは出ません。確かにそのときの血糖値は高くは出ないのですけれども、ただ、見る人が見ればすぐにばれます。
 ほかの数値、例えばヘモグロビンA1cという数字を見れば、普段養生してないということはすぐわかります。コレステロールの値も、最近はトータル、総コレステロールの数字だけではなくて、いわゆる悪玉コレステロールがどのくらいあるのか、善玉コレステロールがどのくらいあるのかを厳密に見るようになってきてますので、治療の方法がかなり厳密になってきて、こうしたほうがいい、ああしたほうがいいということで出ています。普段ちゃんと養生しているかどうかはすぐにわかります。
 例えば糖尿病の患者さんが初診で胸が苦しいということで来られて循環器の外来に回ってきました。最初の数値は本当にひどいです。血糖値も300とか400とかありました。ヘモグロビンA1cもすごいことになっていまして、尿糖も4プラス。これは大変です。コレステロールもすごい数値になっていて、肝機能もとにかく異常値は赤で出るんですが、赤ばかりという感じで「これは大変ですよ、ちゃんとやらなきゃいけないですよ」と言ったんですけれども、60代の方でした。
 「食事も制限しなきゃいけないですよ」と言いますと、「先生、そんなこと言うけど」と、隣に奥さんが心配されてついてきているんですが、「私よりこの人のほうが食べているんです」と言われる。「奥さんの話じゃないです。奥さんから診察料をもらってないですから、別に奥さんはどうでもいいんです。あなたの話をしてるんです。何で奥さんの話しをするんですか」とだんだん頭に来まして、「もうやめましょう。これ以上お話ししても無駄ですから」と。要するに自分がちゃんとやっているということをすごく言いたいんですね。だけど「もうやめましょう。とにかくお薬出しますから2週間ぐらいしたらまた来てください」と言って、多分来ないだろうと思いながら当たりさわりのない薬を出しました。
 そしたら今度来られたときは非常にうってかわっていました。たまたまなんですね。糖尿病の出した薬が非常によかったのです。もともと便秘もあったらしいですけれど、「非常に通じの調子がよくなった、お薬が合った」と喜んで来られたのです。これからまじめにやっていきたいからということでお話をして、それからずっと外来へ通っていただいて半年ぐらいで、異常値が全くなくなるような状態で見違えるような感じになりました。お薬もそんなには出してないです。
 そのときについていた、まだ20歳ぐらいの看護師さんが「さすがにひどいですね。お父さんがあんな人だったら嫌です」とか言っていたのです。それが次に来たときには状態が変わっていましたので、「こんなだったよ」と言ったら、その看護師は「よかったですね。自分に向き合えたんですね」と言われて。20歳の女の子にそういうことを言われる60代はどうなんだと思いますね(笑)。基本的に最初の話に戻りますけど、人間というのは楽なほうに、どうしても流れてしまう、いいほうに流れてしまうというのは間違いないんじゃないかなと思います。

勉強しない子に勉強しろと言っても駄目、患者も同じ

 それからもう一つ、動脈硬化性の下肢動脈閉塞症。足の血管が詰まって歩けなくなっちゃうという病気があります。心臓病も大変ですけれども、歩けなくなってしまって筋力が落ちてしまうと、非常に困りますので大変だろうなと思います。自分自身はそうやって歩けなくなっちゃったら嫌だなというのはあります。必ず自分の外来の患者さんには、検査を行います。動脈硬化の検査ということで年に2回です。あと脳卒中も嫌ですから首の頸動脈の超音波の検査、それから足の血管の詰まりぐあいの検査を必ず年に1回やっているんです。
 それをやられてない方、心配だなという方がいたら、自分の主治医の先生、どこでも機械があると思いますのでやっていただくといいと思います。その機械は血液の流速というのが測れます。流れるスピードが2000cm/sec。数字はどうでもいいですけれども、2000という数字を超えるとかなり高い確率で心臓の病気が発症してきます。そういう方がいて足の血管が詰まったら困るだろうなということで今まで一生懸命治療してはいたのですが、どうも最近違うなということに2年ぐらい前から感じ始めています。
 血管が詰まって歩けないから困るでしょう。ところが100メートル歩いて足が痛くて歩けないという方が10人いたとしたら、7人ぐらいはあまり困ってないのです。自分で病院には来ない。どう考えてもこれは歩くのが遅くておかしい、足も冷たくておかしいからということで家族の方が連れてきます。
 治療の一つとして、例えば手術をしたとしても術後にきちんと歩いていただかないとその手術の効果は長続きしないので、「ちゃんと歩いてくださいますか」と手術の前に何度も確認するんですが、あまりちゃんと歩いてくださらない。ちゃんと歩いていても駄目になってしまう場合もあるんですが、そうやって術後に運動するかしないかでも全然手術の結果が違ってきます。
 まず100メートル歩けなくなった自分に困ってないのです。もういいやとあきらめちゃっている部分があって、そうなってくると、そういう方は手術をして人工血管を入れますと非常に足がむくみます。重たくて痛いのです。そうするとリハビリの人にも歩かせるように言うんですが、結局、今日は気分は乗らないから歩きたくない。もう一つは、やろうと思ったけどこんなことを言われながらやりたくないと言うんですね。要するに勉強しろと親に言われたら勉強しない子供と一緒のような言い訳を、いい年された方がおっしゃるのです。
 そうなってくるとどうしたらいいのかと思います。病気というか、ご自分の状態というものを知っていただいてどうしたらよくなるのか。あともう一つは、こういうことを自分がしたいんだという何か楽しいことですね。散歩を毎日しなさいと言われても、楽しいことが何もないのに散歩をするのは飽きますし、どうせ長続きしません。食べることが楽しいと思うように、体を動かすことが楽しいという方向を見つけていただくのが大事じゃないかなと思います。それがない方というのは、だんだんと元気がなくなってしまう傾向にあります。

身だしなみは大事、身だしなみで患者の状態が分かる

 私も今度『心臓病との闘い2\再発にそなえて』に書かせていただきました。その中の一つに「身だしなみ」というのがあります。女の人の場合には身だしなみ、おしゃれをするのは非常に大事なことだと思います。外来に来て手術の後ではなかなかおしゃれもできないわけですけれども、手術が終わった後にちょっと元気になってくると、皆さんおしゃれをしてきてお化粧もして、そういうふうになってくると本当に元気になったんだなということがすごくよくわかります。
 その方が今度はお化粧をしてこない。あれ今日はどうしたのかなというと、大抵何かあるんです。突然ご主人が亡くなったとか、何かすごく大きなダメージがあるようなことがあったりして。やっぱり身だしなみということが大事になります。女性の場合にはそれがよくわかるんですが、残念ながら男性の場合、だらしない人が多かったりして、ズボンのチャックの開け閉めがよくわからないという方もいます。たまに外来で2回に1回ぐらい、「チャックぐらいは締めたほうがいいんじゃないですか」と注意をさせていただくようなことがあります。やっぱり身だしなみというのは大事だなと思います。

日本人は自分の飲んでる薬がどういうものか理解していない

 もう一つは薬です。私はオーストラリアで仕事をしたことが1年ほどあります。そのときにすごくびっくりしたのは、オーストラリアの患者さんはみんな自分が飲んでる薬を知っているんですね。血圧の薬はこれで、糖尿の薬はこれでと、自分で薬の名前は全部言えます。言えない方を見つけることはちょっと難しい。
 日本の場合は、特に内科の開業医の先生から紹介されてくる場合の薬の量は明らかにこれはちょっと多過ぎるだろうというのが確かにありますが、何を飲んでいるか全くわからないというのは非常に困ります。私が一番困るのはワーファリンという薬です。「バファリンというお薬ですか」と聞きますと、バファリンとワーファリンが一緒になっているんですね。発音として「バファリンですか」「?」。「ワーファリンですか」「ワッファリンです」と。全部一緒にしてるんですね。ワーファリンとバファリンは確かに両方とも血液をさらさらにする薬に違いないんですけれども全く作用は違います。これから例えば何か治療をしようと思ったときに、「ワーファリンですか、バファリンですか」「いいえ、ワファリンです」と言われて(笑)。同じことをおっしゃる方が、ほんと一人じゃないですよ。
 我々が処方せんを書いてお出ししている薬というのは基本的に毒だと思っています。毒と一緒です。飲み方を間違えたらひどい目に遭います。そういう薬が結構あります。例えばこの中に心房細動を持っていらっしゃる方がいて、ずっとワーファリンを飲んでいる方もいるかもしれません。新しく去年からプラザキサというお薬が出てきまして、これはワーファリンみたいに毎月採血をしてチェックをしなくていいのです。非常に脳梗塞の予防効果も高い。
 人工弁のためワーファリンを飲んでいる方がいらっしゃるかもしれないですが、そのプラザキサというのは採血をしなくていい。しかも飲んでも12時間で作用が消えます。例えば何か病気になっても12時間切ればすぐにその薬の作用は消えますから、そういういろんな意味で我々としては使い勝手のいい薬です。ただし、腎臓の悪い方は絶対飲んではいけません。
 ところが、ワーファリンの面倒くささになじんでしまった人は、これがいいということで飲まれて、全国でも数人の方が腎臓が悪いのにプラザキサというお薬を飲んで結局出血がとまらなくなってしまう方がいます。脳出血とか、あるいは消化管出血で亡くなって、最近また注意書きが回ってきたりして。そういうふうに我々が出している薬は効果も高いですが、逆に使い方を間違えると非常に怖いという薬があるということを覚えておいてください。

サプリメントを飲むのは自由ですが、さしたる効果はない

 もう一つ、よく聞かれるのが「サプリメントはどうなんでしょうか」ということです。確かにサプリメントは悪くはないと思います。けれども例えばこれを飲んだらお肌がつやつやとか、骨の痛みが取れますとかいって、これを一緒に飲んでいいでしょうかと聞いてきます。基本的にお金に余裕があるんだったら全然構わないと思います。でも高いですよね。そもそも処方せんなしで買える薬というのは基本的に毒にも薬にもならないから処方せんが要らないのであって、効くということ、効果というものを宣伝しているのはやらせに決まっています、あんまり信用しないほうがいいんじゃないかなという気はします。
 こういうことを言うと、「この薬はほんとに効くんです。お医者さんはこの薬を飲んで患者さんが来なくなると困るから効果がないと言っているだけなんですよ」と、サプリメントの会社の人が言うことも決まっているんです。基本的にこれは国立の動物実験ですけれども、薬とかを全部安全性を調査しているところが、ほとんどのサプリメントを全部動物実験をして、さしたる効果なしと判断しています。
 皇潤を飲んでもヒアルロン酸は大して増えません。皇潤という一つの商品を攻撃すればそれにかかわっている方を僕が攻撃してしまうことになって申し訳ないんですが…。しかし、動物実験で効果がないから人間に効果はないかというと必ずしもそうではないと思います。やはり薬というものをどういうふうな経緯で自分が飲むに至ったかということは大事だと思います。これを勧めてくれる人がいて「ほんとによく効くのよ」と言われたら、やっぱり飲むと効くような気がしてしまう。こういう心理的なものというのはすごく大事だと思いますので、別にそのサプリを全部否定するつもりはないんです。飲むのは全然自由だと思います。特にこれを飲んだから薬との相互作用で、すごい危険な状態になるサプリメントは基本的にはないと思います。

運動や筋力アップは楽しみと結びつけると長続きする

 じゃあ現実に膝が痛い、腰が痛いという方はどうしたらいいでしょうか。これに対しては本当に腰が痛くて、膝が痛くて、整形外科の先生と、サプリと、はり、きゅうと、マッサージをはしごしている患者さんが非常に多くて、月に何枚かは「この方はそういうマッサージが必要です」というか診断書を書かされます。それがないと保険が通らないからです。別にサインするだけですから手間でもないので構わないですが、本当に大変だなと思います。
 以前に自分も腰を悪くしたりしたことがあって、ぎっくり腰で1週間つらい思いをしました。手術で立っているのもつらくてこの世の終わりみたいになって、これが毎日続くと大変だろうなと思うんです。じゃあ膝や腰がどうして悪くなっちゃうのかと言いますと、ほとんどが筋力の衰えから来ると思います。筋力が落ちてくるからですね。筋肉や骨が痛くなるというのはあまりないと思うのです。周りを支えている骨や筋肉が弱ってくることによって、ひざや腰が痛くなる。これはだれもが言っていることです。そういった意味では普段から筋力をどうやってつけるのかということを、本当に日課にしていただければいいなと思います。それが楽しみと結びつけばいいかなと思っています。

普段から身体を鍛えている方は術後の回復も驚くほど早い

 自分がすごくびっくりしたのは去年の11月、1年前です。60代の女性の方が急性大動脈解離でそのまま死んじゃうかもしれませんという病気になってしまいました。相模原協同病院でその手術をやりましたが、手術はうまくいき元気になって1週間ぐらいで退院されたんです。
 今年の夏、外来に来たときに真っ黒な顔をしてまして、「どこへ行ったんですか」と聞いたら、「3月ぐらいにフラダンスの発表会があるからハワイに行っちゃった」。そして10月に来たときにも、真っ黒な顔をしてたものですから、「どこへ行かれたんですか」と聞くと「山へ行きました」。「高尾山ですか」「いいえ」。「大山ですか、どこですか」「北アルプス、2泊3日の縦走」と聞いて、もうびっくりしました。血圧の薬も飲んでて、よく周りの人が連れていったなと思いました。周りの人はお友達ですが、ほんとによく連れていったと思いました。
 その方は本当に前向きです。とにかく手術のときにもご本人は意識があったので、「これからあなたを手術しますが、このお話しするのがあなたとこの世では最後かもしれません」というお話をしてから手術をしたんです。だから自分が助かって元気になったということがすごくうれしくて、とにかく生きている間にやるだけのことはやろうという、お金もあるわけですけれども、そういう方もいます。
 だから普段からフラダンスをやっていたというのはすごく大きいと思います。やってみるとわかるのですが、あの同じ姿勢で続けるって結構たいへんなんです。外来で「フラダンスってどうやってやるんですか」と聞いて、まず立ちの姿勢を教えてもらいました。格好悪いですよね。自分でも見る限り、この姿勢は格好悪いなということはすごくよくわかるのです。でもあの姿勢を維持するためには相当筋力をつけていると思いました。
 だから、術後の回復も早かったです。退院までもすたすた、階段リハビリもどんどん上がっちゃってリハビリの人がびっくりしてたんです。そういうふうに普段から体を鍛えていること、動かしていることが、自分の楽しみに結びついていれば本当にいいことだなと思っています。だからもしも何か手術をした後、「運動をしなさい」とか「食事に気を付けなさい」といわれるのが苦行のように感じておられる方がいましたら、そういう方もいるのだということをヒントにして楽しみを見つけていただけたらと思います。

人間の身体の中で取り替え可能な臓器というのはそんなにない

 あとは心臓治療ということです。私が心臓外科の仕事を始めて15年ぐらいたっています。その間治療はものすごく進歩しています。患者さんは再手術のことを心配される方が多いんですけれども、手術前から、例えば「生体弁にしますか、機械弁にしますか」という話をして、ワーファリンを一生飲み続けるのか、それとも10年たったらまた手術になっちゃいますよというところを、どっちか選びなさいというのは結構究極の選択だなと思うんです。
 そのときに自分は気楽にするつもりで言っているんですが、人間の体の中で取り替え可能な臓器というのはそうはないです。脳は絶対取り替えません。足も義足というのがありますけれども、かなり不自由だと思います。目は多分取り替えても見えません。義眼は見えません。けれども、例えば人工の弁とか人工血管というのは相当性能がいいと思います。一回取り替えて、人工弁が入っているわけでも、普段の生活に弁が今こういうふうに動いているということを意識しなくても普通に生活はできているのではないかと思います。
 そういった意味では究極の話、心臓をそっくりそのまま取り替えてしまう心臓移植という治療もあるわけです。これからもどんどん進化していくということは、心臓病に関しては、いま現在、我々がやっている治療はそんなに悪くはない。本当に今までと同じような生活が9割方はできるようになると思います。
 何を言いたいかというと、あまりそこを気にしちゃうと本当に萎縮して、毎日毎日、小さくなって生きていかなきゃいけないですから、もっとやりたいことをやっていいですよというふうに思ってしまうときがよくあります。例えば5年先、10年先に、もう一回取り替え可能なときということは、例えば電気製品でも何でもそうです。電気製品と心臓の手術を一緒にしてはいけないのかもしれないですけど、5年保証、10年保証してくれる電気製品はそんなにないと思います。どうやって元気に、特に心臓の病気のことを心配しないで生きていくかということはやっぱり日々の健康管理しかないんじゃないかなと思います。
 もちろん体を動かすということは大事です。ただ、疲れをためるということはよくないだろうと。自分も今48ですけれども、若い人と何が大きく違うかというとやっぱり回復力です。一度がぐっと疲れますと、それを回復するのに、夜中に徹夜で手術をしたりするとやっぱり2、3日。今までだったら徹夜で手術してその明けで1時間ぐらい寝たら、もう一回、5時間6時間平気で手術できたんですが、最近はちょっとつらいなと感じることがあります。回復力がそれだけ落ちたんだろうなということだと思います。
 だから疲れをためる。自分が60、70になっていったときにはもっと回復の時間というのはかかるんだろうなと。そういった意味では疲れをためないということは、疲れたなと思ったらその場でゆっくり休んでいただくということも大事です。ただ、何もしないでじっとしていると、どんどんどんどん弱っていっちゃう場合があるだろうなということも一つあると思います。

相模原市の循環器救急は内科系2・5次になっている

 もう一つは緊急事態ということです。何かあったらどうしましょうということですね。先ほども何かありましたら、この地区の方は協同病院に行ってくださいと言ったんですけれども、相模原市の場合ですが、これはどこでもそうですけれども救急医療というのがありまして、特に夜間です。正直ひどいです。
 1次救急、2次救急、3次救急と分けているんです。まずその程度だったらメディカルセンターへ行ってくださいと。相模大野のほうにあります。我々のこちらのほうからの言い分でいうと、もうさばき切れないというのが現実です。特に内科2次救急というのがあります。内科系の患者さんの救急車を受けますよという日は、ひどいときになると病院に救急車が10台ぐらい並びます。救急車で来たからと早く診てもらえるだろうと思ったら大きな間違いで、もうこれ以上無理ですとお断りしなきゃいけないこともあります。相模原市は70万人の人口です。70万人ってどのくらいかというと島根県の全人口と同じです。そういった意味で本当に現実的にこれは無理とお断りせざるをえません。
 循環器に関していいますと、「何じゃそれ」と思われるかと思いますが、2・5次というのがあります。内科系の2次救急をやっている病院は相模原市に幾つかあります。内科系の2次の救急をやっている病院に、心臓の調子が悪いんじゃないかと思って行っても、これはもっと専門のところで診てもらわなきゃいけないと。要するに内科の先生でも循環器が専門の先生が常に当直しているとは限らないわけで、内科系2・5次というのがあるわけです。
 ところがこの内科系2・5次ですが、例えば私たちの病院は月に半分ぐらい、相模原市の内科系2・5次循環器救急をやっているんです。これは循環器適用ではないと転送されます。循環器ではないと判断したらまたもとに戻していいということです。なぜかといいますと、本当の循環器、その2・5次の日には必ず1個ベッドを空けておく決まりになっているのですけれども、そのベッドを埋めてしまうと次から救急対応になりませんので、循環器でないと判断したら断っていいということです。
 ということになるとどういうことかというと、救急車を呼んで、まず受け入れ病院を探すのにひと苦労。見つかったら見つかったで行ってみると、また「これはもうちょっといいところへ行ったほうがいい」と。そこへ行ってみたら、また「ここに来るほどではないからまた戻ってください」ということになる。本当に情けない話ですけど日常茶飯事やっています。
 次に3次というのがあります。これは北里だけです。北里の救命救急センターが3次救急を担っています。ここは常にすべてを診てくれるのかというと、これがまたそうではありません。北里で例えばこれは心臓の手術が必要だと。けれども手術室は埋まっていてこれはできませんよということになると、私たちのところへ送られてきます。北里から転送で来ます。大体二ヵ月に1人ぐらい来ます。
 ということは、3次を受けるならおれたちは4次かいという話になります。4次救急という日本語はこの国にはありませんので、そういうことは言わないですけれども、患者さんから見たら「何じゃそりゃ。そっちの都合で勝手に患者を右、左へ送るんじゃない」、自分だって怒るだろうなと思っちゃうんです。ただ、現実はそういうところです。
 全国に幾つか政令指定都市があります。我々の市も去年なりましたけれども、市民病院を持ってないのは残念ながら相模原市だけです。ということで、夜中に何かあったら救急車を呼べばいいんだというふうには、申し訳ないですけど思わないでください。調子が悪いなと思ったら、普段の健康管理をきちんとしていただいて、ちょっと変だなと思ったら早めのメンテナンスをお願い致します。
 きついことを申し上げましたけれども、我々は患者さんをよくして「命をもらった」とか本当にありがたいことを言っていただくことが多いんです。本当にそういう元気になった方を見て、我々も、私自身も、頑張ってよかったなと思っているわけです。そういうふうに元気になった方がいるからまた頑張って手術しようと思えるわけで、そういった意味では本当に共存の関係だなと思います。またこれからもこういう会にも参加していただいて元気に暮らしていただきたいなと思います。簡単ですけれども、これで終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)