真実にせまるドラマ  南淵明宏(大和成和病院心臓外科部長)

2003年5月26日 

 TBSドラマ「ブラックジャックによろしく」
 心臓手術がドラマで再現された。TBSの「ブラックジャックによろしく」というドラマである(5月9日放送)。私は心臓病の部分の3回分を監修をさせていただいた。
 マンガの原案の段階からお手伝いさせてもらったので「ドラマもお願いします!」ということになり、心臓手術のシーンでは演技指導をおおせつかった。
 監督は熱心にもまず私の実際の手術風景を見学に来た。
 ドラマのシーンは左冠状動脈主幹部99%閉塞という危険な状態にある患者に心拍動下でバイパス手術を行い、最中にVfになってしまうという、身につまされる展開だ。
撮影の前日も翌日も大和成和病院ではドラマと「似たような患者」の手術があり、ドラマの展開はまさに「縁起でもない!」状況である。
Vfになってあわてて除細動するカウンターショックの「音」を録音させてくれとも頼まれたが、思わず「明日の手術で実際に起こるかもしれないよ!」などと口が滑ってしまいそうになった。
 番組ホームページの書き込みを見る限り、作り手のメッセージはそれなりに伝
わっているように思う。
当初は大学外科の医局員総出の温泉旅行で全員が「教授万歳!」とやるシーンなど「誇張しすぎ!」などという医療関係者の声も聞かれたが、作り手の真摯な姿勢が回を追うごとに受け入れられてきたように思う。
2年程前、出版社の方が「近々医療もののマンガを週刊誌で連載したい。」と取材に来た。ある大学病院の内科は同じ大学病院の心臓外科の存在を全く無視しており、毎回大学病院内科の研修医が私の病院まで患者の資料を持ってきて病状を説明し、患者が送られてくる。
私の周囲の心臓病を持つ患者さんは、学閥や無知、偏見などの医師社会のしこりの渦に巻き込まれ、波頭を乗り越え、なんとか解答を見出している現状だ。その話が原作マンガのヒントになったようだ。
昨年6月にはマンガが単行本になったが、売上は500万部を超えたそうだ。もちろん私のネタは一部分であるが、医療現場を正面から描こうとする熱意に加え、新人が直面する社会構造の矛盾、など一般社会にも普遍的に共通する問題意識を「こんなんでいいのか?!」と正面から直球勝負で苦悩する主人公の気持ちに共感する人が多いのだろう。そして何よりもリアルさである。ドラマでも監督以下スタッフの「ER」を越えようとする情熱が窺えた。
 ドラマは作り物であり、実録ではない。しかし真実のメッセージが伝わらなければドラマにはならない。そのための演出が「作られた」手術室の現場なのであるが、メッセージの真実さを証明するためには「作られた」手術室が限りなく本物でなければならない。そしてわかりやすいものでなければならない。虚構の織り成す真実、逆説的ではあるが、言い得て妙である。
演技指導で招かれたスタジオでは、何かを伝えよう、何かを生み出そうとする番組スタッフ全員の熱気に圧倒され、感動した。手術室のシーンでは大和成和病院手術室の現役ナースが淵南記念病院のナース役を演じている。これ以上のリアルさはないし、こんなリアルなドラマは今まで聞いたことがない。
作り物のドラマを通じ、手術室での執刀医、看護スタッフらの偽りのない本物の緊張や恐怖、そして情念を表現していただいたと思う。
5月9日の放映を見る読者はどのように感じるであろうか。ぜひ感想をお聞かせ願いたいものだ。(EOF)