2002年11月3日講演会にて(藤沢市民会館)

医者の技術は個人についたもの

肩書きや地位と技術に大きな落差

    富家 孝

    医師・ジャーナリスト

 日本は今様々な業界で大きな変化を迎えています。年功序列、終身雇用も終わった。既得権の商売もこれからは全部なくなってしまいます。天下りもなくなる、いまがちょうど時代の変わり目で、医療の世界も全部これから変わっていく時代の始まりだと思います。
 私は15年前に手術室にビデオをつけろと書きました。最近それがやっと具体的になって来ました。この4月から症例数によって診療報酬も3割カットなど、色々な動きが分かっています。
 今日はマスコミの方もいらしてますが、人脈と情報は個人についたものですね。医者の技術もまったく同じで、大学とか病院についたものではなく個人についたものです。
 最近、ある都内の大学で心臓外科の教授選挙がありました。1時間の手術を15分でやる日本でもビッグ3に入る先生が11票しか入らなかった。もう1人は都内の有名大学出で、人柄はいいがほとんど症例無名に近い先生ですが21票入りました。南淵先生のように有名で優秀な先生が負けたのです。従って我々の業界では、あそこの大学で心臓手術受けても駄目よということが常識になっています。
 技術というのは個人についています。特に心臓外科は巧みさというかうまさがすべて物を言います。肩書きでは駄目ですね。しかし、いまだに教授が上手いとか、部長が上手いと思っている方がたくさんおられます。肩書きや地位ということと技術には大きな落差があるのです。
 今日は医療事故のお話をしておきたいと思います。日本には1200万人の患者がいますが、0・4%が医療事故で亡くなっています。医者の技術の未熟さ、医療機器の操作の失敗で、手術後にでっちあげの病名をつけられ、真相はほとんど分からないまま4万8千人の患者が死亡しています。
 医療事故の被害者は最初は現状回復です。あの世に逝った子を返して欲しい。そのうち現状回復してもしようがないということで損害賠償を求める。しかしお金もらっても亡くなった子は還ってこないわけで、次に本当のことが知りたいというようになってきます。拉致問題もそうでしょう、雪印もそう、東京電力も全部本当のことが知りたいというのがいまの流れです。この情報化社会で本当のことが知りたい、だから私はビデオ・録音を義務づけろということを申し上げているわけです。
 よく皆さんは解剖したいと仰います。でも解剖は全部医者の指導でやっている。どういうことかというと病理解剖しかやっていない。この病理解剖はやっても何にも意味がないのです。病理解剖は実は簡単に言いますと身内の解剖です。たとえば県立病院がある、済生会病院がある。そこの医師は大学からパッケージで来ています。院長、副院長、そして消化器の部長といったふうに、あのポストは先輩、こちらは後輩というようにパッケージで来ている。従って病理の医者もみんな身内なんです。絶対はっきり出て来ない。グレーゾーンなわけですね。
 皆さんが求めなければいけないのは法医解剖です。神奈川県の場合は、県警察医ですが、東京都、大坂府は監察医務医というのがあります。みなさんがどうしても死因に納得いかなければ、死亡診断書を受け取らずに解剖に持っていって下さい。解剖は司法解剖です。
 司法解剖は大学の法医学教室に電話して直々に司法解剖をお願いしたいと言います、もしくは警察に行く。この警察も地元は絶対駄目です。例えば東京ですと芝警察と慈恵医大は仲が良い。当たり前のことですね、地元でいろいろな事件があるとお世話になったりしているからです。従って地元署に告発しても全く意味がありません。東京なら警視庁の本部へ持っていかなければ駄目です。
 私は皆さん方がこういう会を作られて非常に意味があると思っています。これらから医療もいろんなことが全部分かってきます。どこの大学出られてどこで何例手術されてその先生の情報が全部分かった上で患者になって医者にかかるという時代がやってきます。
 これまで医者はもっとも既得権が多い仕事でした。皆さんご存知の通り、医者は世襲制が92%です。皆さんの知り合いで息子さんが医者になっていない人はいないでしょう。そして昔から患者がお金払ってありがとうございましたと言って、帰りに自分の病気のことを聞くと怒られたりしました。手術も6時間と言ったのに何で8時間もかかったのだろうと疑問に思っても聞けなくて、こういうことでずっときたわけです。
 でもこれからは皆さんの力で医療も完全に変わってくる。情報開示もこれから徹底して来ます。医者も患者も情報を共有するという時代が当たり前になってきます。私が15年前に手術室にビデオを設置せよと書いたら、友達の医者が「手術は見せるものではない」と言ってきました。私は人に見せられない手術だったらやめろと言いたい。どうかみなさん、医療過誤は割合身近に多いんだと言うこと、特に技術は本人についていて地位とかポジションではなく、本当に上手い人はその個人が動いているということをよく肝に命じていただきたいと思っております。

(この講演内容は幹事会の責任で概要をまとめたものです)