病院を選ぶこと、病気を知るということ  後藤 均(東京都)

 私は1999年5月に解離性大動脈瘤で手術を受けました。この病気は調べてみますと大変理不尽で怖い病気だということが分かりました。原因はよく分からないのですが、大動脈がある時突然、ビリビリッと剥がれてしまうという病気です。
 私の場合も5月のある日、家でビリビリと剥がれまして、最初は何だかよく分からなくて、やたら痛いものですから救急車で近くの総合病院に運ばれました。最初はよく症状が分からなくて、食中毒でしょうといわれました。ところがその後採血をしているうちに実は大動脈解離だということが分かりました。
 そのときは非常に運が良かったんですが、寝ていただけで何もしないで退院出来て現場に復帰することができました。結局私の場合は一年三、四か月したところで、その病院の先生が、動脈瘤になってきたので手術をやった方がいいでしょうと言われました。その病院にも心臓血管外科の先生がおられるのですが、ある病院に一人いい先生がおられるので、そこでやられてはどうかと言われました。その時に出てきたのが南淵先生のお名前でした。
 それで昨年の11月に南淵先生の所に伺いました。私も自分なりに勉強しました。手術にはいろいろなやり方がありますが、私の場合は「ベントール」というやり方です。南淵先生は手術に関して率直かつロジカルにお話をされました。オペでは人工心肺を使いましたが、機械が回っている間に血流はどうなるのか、術後に弁不全はどうなるのかなどというあらゆる「リスク」についての説明もありました。
 オペ前はその「リスク」のことで不安になり、落ち着かないこともありましたが、よく考えると、どういうリスクがあるかをきちんと知ることで、次第に冷静に病状を判断し分析する余裕が出てきました。 
 リスクとは何がリスクか分からないのが一番不安なわけで、仮にある手術が危険度が高いといっても、それをきちんと説明していただければ、その段階である意味ではリスクではなくなるわけですね。私自身、正直に先生からお話をしていただきまして、これだったら大丈夫とオペを決断したわけです。
 私の経験にもとづき、賢い患者になろうということで一ついいお話をいたします。私はある外資系のコンサルティング会社に勤めていますが、先日パリに行った時にビジネスのやり方として大変面白い話が出ました。大きい四角を4等分しますと、右があまり急ぎでないもの、そして左が急ぎのもの、そして上が重要なもの、下があまり重要でないものという具合に4つに分けた時に、どういうことになるかという話です。
 結論から言いますと、重要でないものはやらないわけで、重要なものをやるんですが、基本的には重要だけれどもすぐやらなくてもいいようなものを大きくしていこうという考え方に立とうと思いました。今日すぐやるというのが多いと、絶えずストレスとかプレッシャーにさらされます。たえず追いかけられてしまう。重要だけれどもすぐやらなくてもいいようなものを大きくしていくということは、これはまさに自分の健康管理なわけです。
 私がいま、手首で図れる血圧計を持って、毎日朝夕に血圧を図っています。一ケ月に一回先生のところに行きますが、その時、それをグラフにしてお見せすることにしています。これは退院してから毎日欠かさずやっています。それに何を食べたか、その日、喉が痛くなかったかというような項目を作って毎日つけることにしています。これを長い間やっていますと、実は自分の血圧が高くなる日というのがどういう日だったかがわかってくる。つまりそうしたことを絶えず把握していくことによって、すぐやらなければいけないことを減らしていく、そしてもっと長い目で見れることを多くしていこうと思っているわけです。
 最後に、ロジスティックスについてお話いたします。外務省で捕まった方はロジ担といいますが、これはロジスティックスを担当するという意味で、何かと申しますと、こういう会場に何気なくきて何気なく帰っていきますが、実は表面に出ない裏のところで、会場を確保したりお金を払ったりしています。旅行に行って、バスに乗って食事をしてという当たり前と思っている事柄の裏に、色々な方がいて、軍隊用語では兵站というわけですが、要するに補給であるとかそういうことをやってくれている方がおられます。思い起こしますと、私も3週間入院していまして、実は色々な方が私を支えてくださった。ある時は看護婦さんであったり、ヘルパーさんであったりしたわけですが、皆さんの助けがあったからこそ、こうした場に立てるわけで、これも皆様のお蔭ということで感謝いたしております。(2001年10月8日・藤沢市民会館)