2001年10月8日(藤沢市民会館)

伊藤隼也(いとうしゅんや)

写真家
フォトジャーナリスト
医療事故市民オンブズマン・メディオ副議長

医療事故の現状と被害者救済の難しさ

 ご紹介いただきました伊藤です。私は写真家として20年ほどカメラマンの仕事をやっておりますが、ある日自分の人生が突然変わってしまうような事件に出会いました。それは今から7年前、当時71歳だった父親が、東京の大学病院で突然死をしたことです。その時、病院に色々なことを尋ねたり、不信に思っていることを聞くわけですが、彼らは何も答えてくれませんでした。説明もしてくれない。こんなことでいいのかという思いが、いまやっている医療事故を考えるきっかけになったわけです。
 日本の医療事故の現状を考えてみますと、2000年に医療過誤訴訟提訴件数は過去最高の767件発生しています。そのうち患者の勝訴率は46.8%で過去11年で最高となりました。アメリカではニューヨーク州の調査結果を97年の全米入院患者数に当てはめると、9万8千人が医療事故で死亡しているという計算になります。日本に当てはめると、交通事故死亡者が年間約1万人ですから、これを遙に越える医療事故死亡者がいると推定できます。
 なぜこのように医療事故が多いのかと申しますと、それは医療事故を繰り返す構造というものがあるからです。
 第1は日本には医療事故の公的報告制度がありません。つまり個々の医療事故やミスを検証する第三者機関がないわけです。ヒューマンエラーは100%防ぐことは出来ませんし、診療の質に起因したミスもたくさんあります。出会い頭の事故ばかりでもありません。従って医療行為はもともと危険という基本を外してはいけないということをまず抑えておく必要があります。
 第2は医療情報の不透明性です。カルテ開示の法制化がなかなかなされない。ガイドラインを出してはいますがこれは法的拘束力がありません。南淵先生のように自主的に基準をつくって公表している医者や医療機関も徐々には増えてきましたが、まだまだと言ったところでしょう。また、手術成績など重要な医療情報が非公開で、手術後の生存率も病院間で差があります。
 第3は日本の医療は個人の意識とは裏腹に、組織ぐるみで隠蔽するという体質があることです。大学病院でも総合病院でもこうした隠蔽体質が支配的ですから、これまで医療事故はほとんど表に出てきませんでした。
 第4は医師免許制度の問題です。日本には医師免許更新制度がありません。つまり一度医師の免許を取得すると、生涯通用いたします。医師の技術や経験不足、過去に医療ミスがあっても免許上は何ら問題がないわけで、医師の質的保証がまったくありません。医師免許には運転免許のように減点主義や更新手続きがまったくないわけですね。医道審議会があっても、刑事罰を受けないかぎり行政処分はいたしませんし、処分も軽いのが一般的です。それに医師会がミスを繰り返す医師を指導しても、医療行為の停止権限がないためまったく効果がありません。
 5番目はマンパワーの不足が上げられます。例えば看護婦さんだと、欧米の先進国と比較して低水準の法規制で3対1といわれています。
 第6は臨床軽視の医学教育を指摘することができます。これは研修医による医療ミス、大学病院での専門に偏った教育、救急病院の当直医に研修医が多く、医師自身も不安だいうことがあります。それに日本の大学病院では臨床経験を積まないで、論文を書くことだけで助教授や教授に出世していくという構造があります。つまり大学の偉い先生方は臨床という現場の経験が少ない方が多いというのが実態です。
 第7は医療機関評価が不正確だということです。日本医療機能評価機構という組織がありますが、2001年4月19日現在、この日本医療評価機構の認定病院数は469機関あります。しかし、設備や衛生面での基準が主で、医師の評価基準は含まれていません。
 最後は医療界の常識と一般社会の常識の乖離という問題です。日本では現場の医師はプロとしての自覚に乏しく、医療界における常識が社会の非常識になっているため、医療改善の阻害要因になっているというわけです。
 このように、医療を取り巻く環境が急激に変化する中で、患者が医療事故により被害に遭うケースは後を絶ちません。しかも患者や遺族が事実の解明や被害の救済を求めても、責任を回避し真実を明らかにしようとしない医師や医療機関が数多く存在します。
 結局、事故の多くは真実が明らかにされず、救済もされないというのが現状です。被害者ができることは裁判という手段で、真実を追求するという方法しかありません。しかし、裁判は事故との因果関係を医療に無知な被害者側が立証しなければならないという苛酷なものです。被害者の経済的・精神的負担は想像を絶するものがあります。身体を傷つけられた、場合によっては生命を奪われた被害者は二重、三重の悲しみを味わい、挫折を余儀なくされています。私たちはこのような現状を危惧し、被害者の支援と患者のための医療制度の確立を目指して「医療事故市民オンブズマン・メディオ」を立ち上げました。
 最後に医療事故を防ぎ、患者が被害に遭うことのないようにするにはどうしたらよいかと申しますと、お任せ医療はやめるということです。良い医療を受けられるということはこれまではまったく運任せでした。これからはお任せ医療はやめ、患者が医療機関や医師、病気について積極的に情報を収集して病院や医師を選ぶということをしていくことが大切です。患者が医療を変える、患者が病院を淘汰するということですね。つまり一人ひとりが医療の質の向上に向けて活動していくことが医療の改革につながるのだと思います。  

医療事故市民オンブズマン・メディオ

 医療事故市民オンブズマン・メディオは、医療の質の向上、患者の権利の確立、医療制度の改善を図る、患者・市民・医療関係者・弁護士などの人々によって構成される非営利団体(NPO)です。オンブズマンとはスウェーデン語で「行政観察官」を意味します。会には1医療事故を監視する。2医療事故の被害者を支援する。3医療情報の開示・公開を推進するという3つの目的があります。入会資料、申込書の必要な方は、考心会でもお預かりしていますので会長(頓宮)までお問い合わせ下さい。なお医療事故市民オンブズマン・メディオの事務局は〒163-8012 新宿区西新宿6-21-1 アイタウンレピア808 です。TEL・FAX03-5358-2255番 

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