白澤卓二(順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授) 2008年5月25日総会

100歳まで元気に生きるために

 皆さん、こんにちは。南淵先生と私は「主治医が見つかる診療所」で仕事を一緒にしたことから、今日こちらに寄せていただきました。私の今日のお話は「100歳まで元気に生きるために」というタイトルです。
(画像放映)

 ギネス記録を持つ世界で最も長生きしたカルマンさん

 始めにこの人の顔を皆さんによく見ていただきたい。カルマンさんというフランス人の女性です。どうしてここに出したかというと、これまでに最も長生きした人というギネス記録を持っています。122歳まで生きました。1875年にフランスのアルルという町で生まれ、1997年に亡くなりました。引き算しますと122歳ということです。これは120歳のときの誕生日の写真で、『Nature(ネイチャー)』という科学総合誌の表紙を飾りました。
 120歳にもなりますと超有名人ですので、誕生日に世界中からマスコミが来ました。日本のNHKもカメラを抱えてこのフランスのアルルという町に行きました。今日、貴重な画像を持ってきました。120歳の誕生日のインタビュー風景を皆さんと一緒に見ていきたいと思います。注目していただきたいのは、そしゃく力です。120歳のときの食事風景が出てきますが、すごくよく噛めています。
(放映開始)

 

 ナレーション ジャンヌ・カルマンさんが住んでいた街です。「長生きの秘訣は何ですか」と聞かれたカルマンさんはこう答えていました。
「長生きの秘訣は病気をしないことです」。
 さあ、ここで第3の謎です。カルマンさんはどうして120歳まで生きられたんだろうか。調べてみると、カルマンさんのご両親も長生きをしていたことがわかりました。お父さんは90歳、お母さんは93歳まで生きていました。
(放映終了)
 白澤先生 これですね。ほとんど白内障で見えませんが、食事が来ると黙々と噛んでるということです。このぐらい噛めるうちは、頭もしっかりして死なないというようなことがわかりました。今日はこのカルマンさんの少し若いころのエピソードに戻ってみたいと思うんです。皆さんにこの真ん中の写真に注目していただきたい。これは娘のイボンヌさんとお母さんのカルマンさんのツーショットの写真です。イボンヌさんが20代、カルマンさんが40代後半の写真です。皆さん、よく見てください。この左側が娘さんで、右側がお母さんのカルマンさんです。ということは、右側がお母さんのカルマンさんで40代の後半、若く見えるんです。こちらが40代後半のカルマンさんの横顔です。すごく若々しいですね。この写真を撮ってから、お母さんのカルマンさんは80年間生きるのに対して、イボンヌさんは大体30年生きてないんです。

 100歳で元気な人は、40〜50代でアンチエイジングしてい

 カルマンさんは85歳でフェンシングを始めました。えっという感じですね。40歳でアンチエイジングしてたというふうに仮定して、85から40引いて、45歳でフェンシングをしたと言われると驚きますよね。ですからいかにカルマンさんがアンチエイジングしてたかというようなことがわかります。人間、急に90、100になって元気で前向きになるということはないんです。ですから100歳で元気な人というのは、40、50、60、ここら辺ですごくアンチエイジングして、その結果として長寿とかサクセスエイジングになっているということなんです。つまり中年、高齢期、こういうのが非常に大事で、そこを通過して100歳で元気だということになるわけです。
 先ほどのビデオの中にカルマンさんのご両親が長生きだったという話が出てきました。父親は90歳、母親は93歳ですので、当時とすれば長寿の家系に生まれたということです。そうしますとカルマンさんは長寿遺伝子持っていたんだろうという話になるわけです。実はこの遺伝子ですが、遺伝は体質です。親からの遺伝が寿命にどのくらい関係してるかという研究データがあります。

 寿命に関係するもの=遺伝要因は25%・環境要因は75%

 これを見てください。双子です。一卵性双生児、双子のそれぞれの寿命をプロットしてるデータです。ですから、きんさんと、ぎんさんのことを思い浮かべてもらって、1人が105歳、1人が107歳で亡くなるとここにプロットされる。つまり同じ年で亡くなった場合はこの対角線上に来るんです。もう一方、こちらは二卵性双生児です。同じようにプロットしてます。こちら側は遺伝子がほとんど同じ。こちら側は遺伝子は兄弟とか姉妹ですが、育った環境は全く同じだと考えてください。
 従いまして、この対角線からどのぐらい離れているかということが、2人がどのぐらい寿命が違うかということを表すわけです。コンピューターに入れて、こちら側の総和から、こちら側の総和をマイナスすると、環境要因が出てきます。逆にこちら側からこちら側をマイナスすると、寿命を決めてる遺伝要因がコンピューターで計算できます。計算してみますと、こんな数が出てきました。つまり遺伝要因は4分の1、25%にしかすぎないということです。
 ですから最近私は、本の中で、40を過ぎてからのクラス会で自分がふけてみえたのは親の責任にしちゃいけない、と書いているんですが、その理由はこれなんです。25%は40歳ぐらいまでを使い切ってしまっているということです。そうしますと、あとの75%というのは環境要因です。ほとんど自己責任の世界ということです。これを見てください。これは一卵性双生児です。片方はたばこを吸います。明らかに環境要因です。ですから遺伝要因は全く同じでスタートしたんですが、生活習慣が違うとこれだけルックスに差が出てくるということから考えても、環境要因が75%ということはうなずけるということなんです。

 環境要因で大事なのは「食事」と「運動」と「生きがい」です

 そうしますと、遺伝要因というのは親を代えるわけにはいかないので、自分ではいかんともしがたいんですが、こちらの環境要因というのは何かという話です。この環境要因というのは生活様式ということになってきまして、私はこの生活様式の中で非常に重要なものを今日は三つ順番に話していきたいと思います。比較的、簡単な項目になります。
 食事と、運動と、生きがい。どうしてこの三つをいつも強調しているかというと、元気な100歳の人を研究していきますと、この3点セットが三つともいいんです。この三つがそろってないと大体100まで元気に生きられません。ですから生きがいがしっかりしてない人というのは大体100歳まで行けないんです。生きがいというのは、90、100になって急に出てくるかといったらそうじゃありません。やっぱり60、70、80で生きがいがないのに、急に90になって「生きがいが出てきた、前向きに生きる」ということはないですね。ですからやっぱり中年ぐらいから、こういう生きがいというのを目指して生きていかないといけないということがわかります。
 食事の話からしていきます。まず食べ過ぎはメタボになって短命で終わるよ、と簡単に言うとこういう話ですが、いろいろな動物にダイエットをさせると、実は寿命が長くなることがわかります。ミジンコが1.7倍、サラグモのダイエットが1.8倍、グッピーが1.4倍。いろいろな動物でやってもどの動物も寿命が伸びるので、恐らく人をダイエット、要するにカロリー制限しても寿命が伸びるだろうと思われますが、人を実験するわけにはいかないので、どのぐらいのダイエットをしたらどのぐらい伸びるか、これはわかりません。でもダイエットをすれば恐らく伸びるだろうと思います。
 皆さん、おうちに帰って、「白澤先生が今日、グッピーが1.4倍になるから、あなた、今日はビール、小瓶にしてください」と言っても、お父さんは納得できないですよね。そういうお父さんのために今日はこのデータを持ってきました。アカゲザルを実験しました。こうなると人にかなり近いですからリアリティーがあります。どういう実験かというと、アカゲザルに成長期が終わるまで普通のえさを食べさせて、成長期が終わったら二つの群に分けました。普通のえさをそのまま食べさせた分と、それからこちら側のアカゲザルはえさをカロリーだけ70%にした、カロリー制限群のサルです。これを17年間比べ続けた実験です。
 そうしますと、髪の毛に色つやがあって皮膚が若々しい。ちょっとこれ色が悪いので、白髪がありますね、こっちは白髪がないんです。皮膚も弾力があるということで、これはアメリカのデータですが、非常にお金がかかる実験をアメリカの3カ所の研究所、大学でやっています。今日はウィスコンシン大学のワインドラック教授のデータを持ってきましたので、いかに若々しく見えるかというのをお見せしたいと思います。
(放映開始)
 ナレーション 人に近いアカゲザルを使って15年前から実証実験が行われています。ビタミンなど栄養は保ちながら、カロリーだけを30%減らしたえさを与え、普通のえさを食べさせたサルと比較しています。左がカロリー制限をしたサル、右は普通のえさを与えたサルです。2匹とも人間の年齢に換算すると、およそ70歳。しかし、カロリーを制限したサルは毛並みにつやがあります。白髪や顔のしわも少なく、若々しく見えます。
(放映終了)
 白澤先生 それでこちら側のサルがちょうど体重が60%ということは、この普通のえさを食べたサルの体重の40%は成長期が終わって、余計に食べた分のカロリーが体の脂肪細胞になってついているということです。もう少しわかりやすく言いますと、皆さんが20歳のときの体重を今の体重と引き算してもらって、例えば15キロと出たとします。そうするとそれがこの差だということです。成長期で終わってダブついた分をいまだに持っているということになります。

 カロリー制限で長生きできるか? 極端な制限は危険 

 じゃあ、カロリー制限をどんどんやれば長生きになれるのか。そうじゃないんです。ここにちょっと出しましたけど、極端なカロリー制限は危険と書かれています。どういうことかというと、ちょっと登場してもらったピーター・ボスさん。50歳と書かれてますが、アメリカのカロリー制限協会の人で、見た目はがりがりという感じです。がりがりに見えるということは皮下脂肪がほとんどないということで、皮下脂肪というのは断熱効果もありますから、その断熱効果がある皮下脂肪がなくなったということは、寒さ、暑さが骨身にしみるということです。
 テキサスに住んでいるピーター・ボスさんは、夏でもカーディガンを手放せません。ですから文字どおり、その暑さ、寒さが骨身にしみているわけですが、それはあまり心配していません。ピーター・ボスさんは何を心配しているかというと、このデータなんです。ピーター・ボスさんの骨密度はイエローゾーンに入ってしまったということです。ですから転んだときに骨折しちゃうかもしれないことを心配しているんです。85歳の女性が心配すれば、年のせいですねという言葉も出てくるんですが、50歳の男性がこれを心配しているのは異常です。従いまして、カロリー制限することによって骨の代謝がうまくいってないということになるわけです。ですから極端なカロリー制限は危険と書いてあります。
 一方、うまくいっている人のほうも紹介しておきます。これは聖路加病院の日野原先生の若き20代の写真です。こちらが50代の写真。注目してもらいたいのは体重です。日野原先生は20代は60キロ、50代で63キロ、今もこんな体重です。つまり半世紀以上にわたって、御年96歳になりましたので、60キロから65キロを、狭い5キロのウインドーの外に一度も出てないということです。
 先ほどのアカゲザルと同じような体重経過を示している。どのぐらい食べたらいいかという結論はなかなか出ないんですが、体重がこういうふうに若いころの体重からプラス5キロ内外を保っているというのが一番うまくいっているケースで見れるパラメーターだということです。
 去年、『100歳まで元気に生きる食べ方』という本を出しました。「この本のエッセンスを私は実践して元気で95 歳(今は96歳になりました)突破、日野原重明」という帯を書いてもらいました。これに推薦という字がちょっと小さくありまして、私の名前もここにあるんですが……。去年、8冊、本を出しましたが、この本だけすごく売れました。ということは恐らく皆さん、日野原先生の本だと思って買ったというふうに思われるんです。(笑)
 レジか、おうちに帰ってから違う人が書いた本だと、気がつかれたと思うんです。でも自信持って言えることは、日野原先生のほかの本を見ても、先生の医学的なデータはあまり書かれていません。この本は私が日野原先生の体を調べた生データが解析されているという唯一の本でございまして、何が書かれているかといいますと、食生活では老化はとまりませんと書いてあるんです。

 エイジングにはスピードがあり速くも遅くもできる

 つまり皆さんの体を構成している70兆の細胞の一つ一つは、エイジングが、徐々に老化のプログラムが進んでいるんですが、それにはスピードがあるということです。エイジングにはスピードがあるということで、そのスピードは遅くもできるし、速くもできる。間違ったものを食べれば速くなるし、ちゃんとしたものを食べれば遅くなる。つまりどういうものを、どういうふうに食べるかによって自分自身でエイジングスピードをコントロールできるんだと、そういう話です。
 そこでここにある赤ワインがあります。今日のお話は体をさびつかなくするために、こういうものを食べたらいいというお話です。昔からいわれているビタミンCとか、ビタミンAとか、ビタミンE以外に、最近注目されているのはこのポリフェノールというものです。ブルーベリーとか、ストロベリーですね。
 じゃあ、どんなものが体のさびつきを抑えてくれるかというと、ここに書いてある、「ヒトケミカル」がいいんだということです。今日、初めてこの言葉を聞かれる人もいるかもしれません。このヒトケミカルというのはギリシャ語です。前半の「ヒト」は植物というギリシャ語です。「ケミカル」は化学物質。つまり、植物の化学物質ということです。
 ですからここを見てもらうと、こちら側に日本茶の葉っぱがあります。こちら側に化学物質エピガロ・カテキン・ガレートというのがあります。つまり日本茶の中に入っているこのエピガロ・カテキン・ガレートは、体のさびつきを予防してくれる化学物質、抗酸化化学物質だということです。そういうふうに対応を見ていくと、このブドウの中にレスベラトロールが入っていると、こういう対応になっているわけです。
 じゃあ、どのぐらい、こういうヒトケミカルが世の中に存在するかというと、5千種類から1万種類もあるだろうといわれています。たかだか、この表の中には20個ぐらいの化学物質しか示してないので、もう100分の1、千分の1の世界しかここには出てないということになります。じゃあ、どのぐらいわかっているかというと100分の1もわかってないことになるわけです。わかっているというのは、こういう作用が論文になっていると、そういうような意味です。

 ブロッコリーには300種類のヒトケミカルがある

 皆さん、抗酸化食材というとポリフェノールだけだと考えている人も多いんです。ところが見てください。トマトの中に入っているリコピンはちょっと構造が違います。これはカロテノイドという構造です。ここにフェノール基という亀の子のようなものが二つあって、この亀の子のような構造が二つあるもの、これは三つあります。ポリフェノールです。
 ですからこのクルクミンというのはポリフェノールなんですが、このリコピンというものには亀の子がありませんので、これはポリフェノールじゃないですね。ただし、ポリフェノールの10倍ぐらいの抗酸化能力があるということで、必ずしも抗酸化能力があること、イコール、ポリフェノールじゃないということがわかるわけです。
 時々、「おもいッきりイイ!!テレビ」に私も出て、ブロッコリーがいいということを言うことがあるんです。そのときには、ブロッコリーの中にはこのサルフォラファンという化学物質があるからいいんですよと言っています。そういうテレビ番組を見ますと、皆さん、もうブロッコリーの中にはサルフォラファンしか入ってないように思われる方がいるかも知れないんですが、実は違うんです。ブロッコリーの中には何と200種類から300種類ぐらいのヒトケミカルがあるといわれています。その中の1種類にすぎないということです。ですから皆さん、ブロッコリー入りのサラダを食べるということは、ヒトケミカルが500種類も600種類も口の中に入ってくるということです。
 一方、サルフォラファンというサプリメントがあります。これはサプリメントがミリグラム単位でカプセルの中に入っていますので、サラダを食べるのとは全然訳が違うということです。従いまして、忙しくてサラダを食べられなかったから、サルフォラファンのサプリメントを飲んでおこうという人がいるんですが、それは全く違うことをやっていることになりますので気をつけていただきたい。
 朝を食べないサラリーマン、これが一番よくないです。いま言った、ビタミンとかポリフェノールを1日に最低量取ったほうがいいということで、その最低量を入れたビューティーミックスという野菜ジュースをつくりました。ミニッツメイドが売り出しているんですが、アンチエイジングサイエンスという会社です。
 このコマーシャルを最近ちょっと流しています。6秒コマーシャルです。ちょっと見てください。ヒデコさんというのが出てきます。彼氏も出てくるんですが、ヒデコさんと彼氏の年の関係というのがこの6秒コマーシャルを理解するのに非常に重要です。でも、正解なしにちょっと最初見ていきたいと思います。こんなコマーシャルです。
(放映開始)
 ヒデコ こら、未成年。
 彼氏 20歳ですよ。
 ナレーション 3年後、ヒデコは言うだろう。
 ヒデコ 飲んでてくれてありがとう。
 ナレーション なぜなら、お相手は。
 彼氏 20歳。
 ナレーション さびるな、ヒデコ。野菜と果実の健康レシピ、ミニッツメイド。
(放映終了)
 白澤 今のわかった人いますか。シーンとしてますね。結構難しい。じゃあ、正解を言います。ヒデコさんの彼氏は20歳なんです。だからすぐに結婚できないので、3年、彼氏が年取るまで待ってなきゃいけない。だから3年後、結婚するまで自分の体がさびついてお嫁に行けなくなったら困ると考えたヒデコさんは、今日からこのビューティーミックスを飲んで体がさびつかないようにしてお嫁入りしようと思ったわけです。3年間、飲み続けたヒデコさん、ウエディングドレスを着ているヒデコさんが、3年前のヒデコさんに向かって「あなたの決断は正しかった、体さびついてないわ」と自分の過去を褒めてるという宣伝だったんです。
 今日は3回流しましたけど、ある講演会で4回、5回流して、後の質問のときに、「もう私、40年前にお嫁に行ったので、私はこれ、飲む必要ないんですね」というコメントが出てきたんですが、そういう人のために今日、これを持ってきました。

 野菜ジュースを週3回以上飲んでる人はアルツハイマーになりにくい

 シアトルに住んでいる日系の米国人2千人を対象にして、アルツハイマー病になりにくい食事は何かという疫学調査をやったんです。そうしたところ、このスタディーは実は日本茶がアルツハイマー病を予防するんじゃないかということを想定して行われたんですが日本茶は出なかったんです。ビタミンCも出なかったんです、ビタミンEも出なかったんです。唯一出た食事のポイントはこれだったんです。野菜ジュースを週3回以上飲んでいる人は、週1回未満の人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが76%も低くなっているということだったんです。
 ですから野菜ジュースを毎日飲む習慣というのは大事だということがわかりました。これは10年間追い続けた追跡調査でこういう結果が出てきましたので、この結果は重いということで、40年前にお嫁入りした人も今日から飲んでくださいという話です。
 私はいま、ジュースも重要なんですけれど、毎日毎日の食事が非常に重要だということで、自分の食事も見直すということで料理教室通いをやりました。最初はお邪魔虫だったんですが、料理教室は高いので、途中から元を取ろうと変な考えを起こしまして、アンチエイジングフレンチというのを創作してみました。
 そのきっかけをちょっとお話しします。ここに出した、「子牛のすね肉の煮込みマレンゴ風」と書いてありますね。マレンゴというのは北イタリアの小さな村です。何でこんな村の名前がソースの名前になっているかというと、ナポレオン1世がトルコ遠征をしたときに、このマレンゴという村で戦勝祝いのおぜんをつくれという命令が下ったわけです。調理人が村じゅうを駆けずり回ったあげくの果てに鶏がいたので、チキンの料理にしようと決めました。じゃあ、チキンのソースを何にするか。普通、パリのフランス料理だとこってりしたフレンチソースをつくるんですが、そういう材料がほとんどない。見たらオリーブがあって、あとかんきつ類があったので、オリーブとかんきつ類でソースをつくったんです。それがこのマレンゴ風というソースです。

 アンチエイジング・フレンチ「トマトと柑橘類のサラダ」

 通常、パリの食材というとノルマンディーとか、ブルターニュとか、日照が非常に悪いところのものを使ってますので、先ほど言ったヒトケミカルの濃度が低い。ところがこのマレンゴのものは日照がいいもんですから非常にヒトケミカルの濃度が高い、アンチエイジングな料理ができたということです。ナポレオン軍は凱旋帰国してパリに帰ります。パリに帰るときにいろいろなギリシャの食材とか、トルコの食材とか、イタリアの食材を持って帰るんです。
 ですから一時的にフランス料理がアンチエイジングになったんです。ですからそれを「アンチエイジングフレンチ」と私は名前をつけまして、麻布のレストランでこれを解説つきで出してみました。そしたら非常に人気があって、1年半、ロングランしました。でもこれだけ出してるわけにいかないので、シュンギクの季節には有機シュンギクのポタージュをつくってみたり、そういうものを次々につくっていったんです。
 そうしたところ、70個もメニューがたまったので1冊の本にしました。名前も『アンチエイジング・クッキング』という本です。その本の中から、トマトとかんきつ類のサラダを1個紹介しておきます。ポイントは、かんきつ類は非常に抗酸化濃度が強い。スーパーマーケットで選ぶときに、日照がいい南国産のもののほうがヒトケミカルの濃度が高いんです。ですから産地に気をつけなさいという話です。
 それからいろいろ色彩豊かな、色が違うとヒトケミカルの種類が違うので、いろいろな色を使ったほうがいいですよということです。それから油です。これはエキストラバージョンオリーブオイルを使っているんですが、この油をけちっちゃいけないという話です。それをちょっと紹介したNHKの夕方のテレビ番組を見ていただきたいと思います。
(放映開始)
 ナレーション 麻布にあるレストランです。ここはアンチエイジングレストラン。どんな料理が食べられるんですかね。入り口にある野菜を見ると野菜中心なのかな。大勢いらっしゃってますよ。お客さんは30代の女性が中心です。若い層でもアンチエイジングへの関心が高まっているんですね。
 ウエイター 失礼いたします。こちらは青森県で採れました紫ニンジンといいまして、非常に食物繊維豊富なお野菜でございます。この酵素の力でおなかの中がよくなりますので、どうぞお召し上がりください。
 ナレーション これは雑穀を詰めたカボチャです。野菜や果物を中心に、調味料まで体によい食材にこだわった創作料理が店の特徴です。老化を引き起こす原因の一つは体が酸化することだといわれています。酸化を防ぐ作用のある野菜や果物をふんだんに使ってます。
 お客 体の中からなんで、表もありますけど、やっぱり体の中からつくらないと。
 ナレーション 老化を防ぐ食材が認知症などの病気を予防するという研究結果も出ています。医師の白澤卓二さんはこの研究所でネズミを使った実証実験を行っています。体の酸化を防ぐウコンなどに含まれるクルクミンの成分を与えて老化の度合いを調べています。ちょっと見てください。これは老化が進んだネズミの脳です。老人斑と呼ばれて認知症の原因といわれています。
 一方、こちらは5カ月の間、クルクミンを与えたネズミの脳です。老人斑はほとんどありませんね。
 白澤さんは研究結果を基に、フランス料理のシェフと一緒に老化を予防する料理のレシピをつくりました。これが白澤さんがレシピでつくった料理です。野菜や果物の皮の下に含まれている、体の酸化を防ぐ成分を使うというのがポイントです。このサラダはオレンジの皮をトッピングしてみました。こちらもサツマイモとドライフルーツを皮ごと使っています。肉や魚の料理には野菜を添えて、使う油を工夫するなど、バランスよく栄養を摂ることが老化予防に役立つといいます。
(放映終了)

 長生きの秘訣はインスリンを上げない朝食にあった

 白澤先生 講演会をやってて、一番多い質問が「先生、何食べているんですか」です。講演の内容とは関係ないんですが、余りにもその質問が多いので、家内に私の1週間のメニューをレシピつきで書いてもらいました。そして『ずっと若く生きる食べ方』(集英社)という本を去年、出しました。私はメタボ専門外来を病院でやっているんですが、その患者さんに「私からだまされたと思って、この1週間食べてみなさい」というふうに出している食事になります。ちょっとのぞいてみたいと思います。火曜日の夕食です。これは豚しゃぶです。豚しゃぶを食べて、ここにデザートがついて632キロカロリーで抑えられてるということです。つまり脂身が少ないところのお肉はそれほどカロリーが行かないということがわかります。
 朝食をちょっとのぞいていきたいと思います。えっと思うかもしれないですが、朝食も500、600カロリーあるんです。つまりカロリーを分散させているということなんです。朝500キロカロリー、昼500キロカロリー、夕食に700キロカロリーで1日1700か1800キロカロリー、こういうようなトータルのデザインになっています。おかゆの中に鶏肉をちょっと入れてます。これは焼きリンゴです。リンゴは皮の直下にポリフェノールがあるので、皮をむくと一番アンチエイジングの要素がごみ箱に入ってしまいます。皮つきでクッキングするようなことをやっています。
 もう一つ、去年の年末にこういう本を出しました。『長生きの秘密はインスリンをあげない朝食にあった』と。皆さん、こう言うと、インスリン、糖尿病のホルモンです。それがどうして長寿と関係してるんですか、どうして朝食なんですかという質問を受けるんです。ここをもう一度読んでみたいと思います。若さを保ち、老化を防ぐホルモン、インスリンを元気にする。インスリンって糖尿と関係なく長寿と関係してたんだねという話です。これはあまり知られてないんです。
 どういうデータかというと、これは下が年齢、上がインスリンが効きにくいということです。つまり上に行けば行くほどインスリンが効きづらいということです。ここ20代、40代、50代、ここは90代、100歳ということです。そうなりますと、一見すると90歳になるとインスリンの効きがよくなるというデータです。ですからこれを最初に見ると、あっ長生きになればインスリンがだんだん効くようになるから長生きすればいいんですねという結論になるんですが、実はそうじゃないんです。
 インスリンの効きの悪い人はみんな90代で死んでいるんです。だから、ここにいるのは最初から効きがいい人です。このことを裏づけたのは100歳以上で病気を調査してみます。そうしますとほとんどない病気が二つありまして、それは糖尿病とパーキンソン病です。パーキンソン病の人と糖尿病の人はほとんど100歳まで生きられないと、そのデータから結論づけているんです。日本全国に1600万人ぐらい糖尿病がいて、100歳人口も3万人になっています。割り算すると全然いないということから、糖尿病、要するにインスリンの効きが悪い人が長生きできないことがわかります。

 インスリンの動きを良くする食事「ネバネバ食品」

 調査をしてみました。これは介護予防をやっている200人です。これはほんとは赤い点と黒い点があったんですが、全部黒く見えますね。200人、これは血中のインスリンを調べてます。そこでこの下にある部分、下にインスリンがあるということはインスリンの血中濃度が低いということですが、インスリンの血中濃度が低いということは、インスリンの効きがいいので、たくさんインスリンを分泌する必要がないということです。ですからこれは低ければ低いほどいいんです。ここを見てください。日野原重明と書いてあります。日野原先生のインスリンの濃度ってすごく低いんです。ですからすごくインスリンの効きがいいということなんです。
 一方、半分以上の人はインスリンの効きが悪いグループになります。ですから恐らくここ200人ぐらいいると、100人ぐらいはインスリンの効きが悪い人がここにもいるということになります。じゃあ、この人たちはもう駄目かというと、そうでもないんです。実はこのインスリンの効きをよくする食事があるということです。これを出してみました。納豆です。リンゴ、バナナが出てます。ここを読みますと、納豆やメカブなどのねばねば成分には糖分を包み込んで吸収を遅くする働きがあると書かれています。つまり、ねばねばしたものを朝、食べていればいいという話になるわけです。それ以外にも、バナナ、リンゴ、カリウムを含む食品などがよい。こういうものを組み合わせて朝食をつくってあげればいいんだということです。
 そこでつくってみました。オクラ納豆。これは実は三浦敬三さんという100歳になって山スキーを滑ってた人も毎日これを食べてたんです。それからはちみつヨーグルト、シラスおろし、根菜たっぷりのみそ汁、コマツナの煮びたし、温野菜のサラダ。こういうのを30朝食分、30日分つくりました。要するに1カ月もつという感じの数でつくって1冊の本にしたということです。

 若くきれいに生きる食べ方10カ条をまとめてみました

 食事のこつというのを10カ条にまとめてみました。家内はお鍋を持って、私は本を持ってます。若くきれいに生きる食べ方10カ条をまとめてみました。食事は1日3回、腹7分目から8分目を心掛ける。少なめに1日3回ちゃんと食べてください。食べる順番は、野菜、魚、肉、ご飯の順。ご飯を先に食べちゃ駄目ですよ。どうしてかというと、血糖がすぐに上がるので食物繊維から食べてくださいというメッセージです。
 野菜、魚、お肉はたくさんの種類を食べてください。お肉もいろんな種類がありますので、豚肉、牛肉、鶏肉、何でも食べてくださいよということです。お肉と魚は1日置き。お肉はなかなか食べない人がいるんです。見るとお肉が噛めないんです。ですからお魚になっています。そういう人はちゃんと口の中を治していただいてお肉を噛めるように咀嚼力をつけてもらって、月・水・金がお魚だったら、火・木・土はお肉にする。1週間トータルで1対1になる人が一番長生きです。
 5番目。油はけちらないでくれということです。油と豚肉は高ければ高いほど健康にいい。ちょっと乱暴なルールですが、だからスーパーマーケットに行ったときは、油の売り場と、お塩の売り場と、それから豚肉の売り場ではけちらない。これが大事になります。
 乳製品は毎日取る。目安は牛乳200ミリリットル。最近、ベストセラーになった本に、日本人に牛乳はよくないんだみたいな本がありますが、私どもが秋田県の南外村に15年間調査を続けて、そこで牛乳を飲んでる人と、飲んでない人を分けてみますと、牛乳を飲んでる人のほうが介護になりにくいということがわかりました。別に牛乳じゃなくてもヨーグルトでもいいんですよ。1日、毎日1本200ccと書かれていますが、飲んでる人のほうが介護になりにくいことがわかってます。
 ハーブ、スパイス、こういうものは非常にアンチエイジングなヒトケミカルがたくさんありますので、なるべくこういうパンチをつけた味が調理のポイントになります。和・洋・中というのはスパイスが結構違うんです。ですから、和・洋・中、何でも食べるといろいろなスパイスとかハーブを使うようになります。

 1人暮らしの男性が一番あぶない「コンビニ弁当」

 家族や友人と楽しく食事をする。1日に1回は30分ぐらいかけて食事をしてくれというメッセージです。私ども、板橋区の3千人の血液を調べて、アルブミンが低い人たちを低栄養状態といっているんです。板橋区に住んでいる女性の4%、男性の9%に低栄養の人がいらっしゃいます。何でこんなに男性に多いかというと、よくよく見てみますと、一人暮らしの男性が一番危ないということがわかりました。その人たちの食事をのぞいてみますとコンビニ弁当です。ですから多分、コンビニ弁当と缶ビール買っておうちに帰るわけです。テレビつけるとプロ野球をやってるという状況を思い浮かべてもらって、それで「どか弁」しているわけです。巨人が負けたりすると、5分ぐらいでやけになってぼーんと食べちゃったり、ほとんどそしゃくしてないだろうというような感じで食べてるわけです。
 そういうのを30分かけてそしゃくしているのはどう違うんだという質問も来るんです。そしゃくをすると、脳の前頭葉の血流が増えるということがわかっています。これを毎日1回やりますと、脳のアンチエイジングを毎日やっているということになりまして、脳のアンチエイジングを30分、毎日10年間続けた人と、そうでない人は認知機能に差が出てくるということがまず一つです。それからかむとだ液がかなり分泌されまして、だ液の中には重要な免疫物質がかなりありますので、免疫の風邪をひきにくくしているということです。ですから栄養とは別に、非常に重要な問題がここにはあるんだということで、家族や友人と楽しく食事をするということです。

 バランスボールを使ったメタボ撃退法 

 運動のことも今日はお話ししていきたいと思います。去年、『日経MJ』の1面にこういう記事が出ました。これは私が面倒見ているレストランで、上にスタジオが出てます。これはバランスボールです。メタボの患者さんです。15人集めてここにメタボの人、20回、3カ月指導しました。ほとんどメタボの人、これだけでよくなったんです。
 ここにいる中尾和子さんというボールを指導してくれた人は、実は南淵先生が出ている「主治医が見つかる診療所」に出ていただきました。ちょっとこの番組を見ていきたいと思います。
(放映開始)
 ナレーション メタボリックシンドロームと運動について研究している、フィットネスインストラクター、中尾和子さん。地元京都を中心に海外でもフィットネスの指導を行っています。
 中尾 普段の生活の中で変えることがたくさんあります。ちょっと変えるだけ。そうすると体は反応して変わっていくんです。だれでもがメタボから脱せられる。
 ナレーション 簡単にできるメタボ撃退の運動法を中尾さんに教えていただきます。(拍手)メタボ撃退、内臓脂肪、内臓運動は基礎代謝を高め、内臓脂肪を減らします。まずは、いすの座り方。
 中尾 これ、小さく座るってすごく大事なんです。偉そうにどたっと座らはる人、おるでしょ。これ、あきません。できるだけ、ちいそう座ってもらうんです。
 ナレーション いすに意識して小さく座るだけの運動。通常、座るときはリラックスした状態で深く腰掛けますが、それを改め、いすの半分くらいまでに小さく座ります。そのとき、おしりの余っている肉をしまい込む気持ちで座ること。小さく座ることは内臓脂肪を減らすのにどのような効果があるのでしょうか。
 中尾 これ、どういうことかというと、骨盤の底にある骨盤底筋群という何重にもなってますが、この筋肉を収縮させるんです。これが勝手に働くんです。奥の深いところに腹横筋があります。これがこの小さく座ることで反応するんです。もうこれだけで変わります。
 ナレーション いすに小さく座る、これだけでインナーマッスルといわれる体の内側の筋肉、例えば骨盤底筋群や腹横筋を増やすことになり、基礎代謝を高めるのです。そしてさらに内臓脂肪を減らす効果的な運動法があるといいます。
 いすの前のほうに小さく座ったら、おなかを引っ込めて背もたれにつかないところまで、上半身を後ろに倒していきます。この状態でもおなかに力が入りますが、さらに手を前に上げて体を左右にひねってみましょう。これがいすに座ったまま、簡単にできる腹筋運動です。
 草野 効果的な運動時間というのは、どの程度やればいいですか。
 中尾 時間というのではなく、どれだけ意識するかということです。座ろうとか、おなか引っ込めようとか、1回だけでも姿勢、姿勢と思うだけで、ほんとに腰痛改善された方とか、あとはメタボを解消された方が非常に多いです。
(放映終了)
 白澤先生 ポイントはフィットネスジム通いをしろということではなくて、日常生活の中で改善をしていくということなんです。つまり、いま言った、座る、歩く、立つ、あと呼吸法です。こういうところを指導に入れているということです。ですからそれぞれのメタボの人の自宅にこのバランスボールを送りつけているんです。1例をお見せします。
 この人、コンピュータープログラマーです。ウエブデザインをやっている32歳の男性で一番メタボがひどかった人です。この人にコンピューターの仕事をするときに、いすじゃなくて、このバランスボールの上で仕事をやりなさいと指導しました。175センチ、32歳の男性。体重が85キロ、CTスキャン撮りますと、この内側が内臓脂肪なんですが204平方センチメーター。メタボの基準が100平方センチメーターになりますので、2倍の脂肪をおなかの中に蓄えていることになります。
 3カ月間、その指導をしまして、体重は75キロ、内臓脂肪が何と100です。メタボの基準の下限になったので、ほとんどメタボを脱却したということになります。腹囲も98センチから84センチ、85センチになりましたので、まずこの人の表情が変わりました。それから奥さんが、夫が別人になったと。ズボンが全部はけなくなったと思いますので、本人もほとんど別人に変身したと言ってます。これも日常生活が変わったと。この人はさらに3カ月たってCTを撮りますと68になったんです。すごく行動変容が固定化したということなんですが、ボディースキャンを撮っておりまして、このおなかの出た部分がこういうふうにぺしゃんこになったということで、見た目にも別人になったということです。

 1日1万歩歩く人にメタボ症候群の人はいない

 そこで日常生活を変えるためには、日常生活をモニターしなきゃいけないんです。ライフコーダーというのを使って日常生活をモニターしてます。これは単純な万歩計じゃなくて加速度が見れるようになっているので、どのぐらいの強度の動きをしたかというのがわかります。つまり歩いたものと走ったものは違ったパラメーターでこの中に入ってくるということです。
 これで2週間、私がぶら下げますと、1日平均9400歩ぐらい歩いていることがわかりますが、この9400歩、歩いている分は消費カロリーにして313キロカロリーです。そうすると私の基礎代謝は1700キロカロリーなので、この313を足すと2000キロカロリー、ここで2400キロカロリーを食べてしまうと400キロカロリーが余分な分として体に蓄えられることになるわけです。
 そこでどのぐらい動いたらどういう病気を予防できるかという表です。これは平均1万歩歩いている人の中にはメタボリック症候群の人はほとんどいません。つまりメタボリック症候群を予防しようと思ったら、1万歩、歩きなさいということです。
 少し下を見ていきたいと思います。骨粗しょう症の予防、6000歩で出てますので、骨粗しょう症を予防するためには6000歩、毎日歩くことが必要だということがわかります。うつ病の予防。これはうつ病になると家の外に出ないんです。ですからこういうものをつけていくと4000歩行かないんです。逆に4000歩行かない人の中にうつ病がかなりいるということで、うつ病のスクリーニングに使えるということがわかりました。
 本来、外に出てジョギングをするのが一番いいだろうと思われますが、自然の中に入って歩くということも勧めています。
 今、出ている『クロワッサン』に漫画家の倉田真由美さんの生活を追いかけてみました。こんなのを4日間、ぶら下げてもらったんですが、何と8300歩、歩く日もあれば、1200歩の日もあるんです。つまりこの日は外に出てないんです。何とその日は31キロカロリーしか燃えてないんです。だからだんだん太ってしまうということになるわけです。こういうむらがあるので、こういうのは定期的に外に出るほうがいいよということで、これは走る指導を入れたということです。

 マニュアル化できない「いきがい」\環境がいかに大事か

 最後は、生きがいです。これはマニュアル化できないので、この運動をやれ、この食事をしろというわけにはいかないんですが、一度、養老孟司さんと一緒にこの問題を考えました。生きがいを持ってないといけないということで、高齢期になりますと非常にうつの人が増えてくるということです。環境がいかに大事かということを一つ、データを持ってきました。
 豊かな環境でネズミを飼育してあげると、脳に激しく刺激が入ってくるというデータです。ドイツのマックス・ベル・ブリュック研究所のゲルトケンパウマン先生のデーターです。
(放映開始)
 ナレーション それではどうすれば神経細胞を増やすことができるのだろうか。ドイツのマックス・ベル・ブリュック分子医学研究所のゲルトケンパウマン博士は、生活環境が大きく影響していると考えている。博士は中高年に当たるマウスを遊び道具などの刺激の多い豊かな環境と、食事以外の刺激のない貧しい環境で飼育した。そしてそれぞれのマウスの脳で海馬の神経細胞を詳しく調べた。赤く見えるのが新しく生まれた神経細胞だ。豊かな環境に暮らすマウスには、貧しい環境で暮らすマウスの5倍もの神経細胞が新しく生まれていたのだ。
(放映終了)
 白澤先生 この注目した海馬という部分は、アルツハイマー病で一番最初に壊れる部分です。ですからこの部分が完全に壊れてしまうと、朝、食べたものを覚えてられないんです。つまり短期記憶が入るところです。そこの細胞が豊かな環境に置くことによって増えるということは、認知機能が低下し始めた人には朗報です。ですから環境つくりがいかに大事かということがわかります。

 人肌に近いブナの木に抱きつくと癒される

 そこでアンチエイジングツアーというのを考えました。環境をつくっていこうということです。「世界一受けたい授業」の白澤卓二教授がプロデュースするデトックスと若返りの旅。飯山というところでこのデトックスのツアーをつくりました。千曲川です。こういうゆったりとしたところに行きますとこれだけで全然いいんです。毎日、毎日、地下鉄のラッシュアワーにもまれているサラリーマンにとっては行くだけで効果があるという感じですが、「阿弥陀堂だより」のロケ地になりました。
 このロケ地に私も行きました。これはブナなんです。ブナってすごく人肌に近いんです。私もちょっとブナに抱きついてみたんです。非常にいやされました。ほおをここにつけると、何かいやしのものがほおを伝わって体の中に入ってくるような感じで、スギなんか抱いちゃ駄目ですよ、ちくちくして痛いので。これ人肌に非常に近いということと、ぎゅっと抱きしめても嫌だと言わないんです。そこがポイントだということがわかりました。
 小池真理子さんに話を聞きますと、後半の人生はときめきがないからおばさんになってしまうといっていました。だからときめきが必要ということで、ときめくことがないと心を使ってないから心が老化するんだというんです。心が老化する、心って悲しんだり、喜んだり、感動したり、人を思いやったり、そういうチャンスがないから心を使ってないうちに人のことが思いやれなくなる、それは心が老化したんだろうというようなことです。

 エベレストを発見できれば、それが皆さんの人生目標だ

 最後になりましたけれど、何も異性に対してときめくだけが人生の後半戦のチャレンジ目標じゃないということです。三浦雄一郎さんはいまエベレストに登ってます。これは5年前に登ったときのもので、65歳で決意、70歳で息子の豪太さんと一緒に同時登頂しようということです。サウスポールというところから登って、登頂したときのものです。
(放映開始)
 三浦 夢はやっぱり、やれば達成、実現するものだとわかった。地球上で一番高いところに来ました。
 豪太 はい、お父さん、おめでとうございます。みんなこっちへ。
 三浦 やった、やった。よし。とうとうやった。
(放映終了)
 白澤先生 どうして三浦さんがこのエベレストに行ったかという理由がこの後、出てきます。三浦さんは今回もサウスポールというサイドから登っているんですが、サウスポールを滑って下りるんです。ここ、滑れる人は三浦さんだけなんですが、その理由は1970年、パラシュートつきでここを滑りました。そのときにこの岩に救われたんです。この岩がなかったらクレバスの中に落ちていたということで、命を救ってくれたエベレストに今回も行っているということです。
 人生の目標というのはそれぞれの人の目標がありますけれども、先ほど90、100になって急にチャレンジ目標が出てくるわけじゃないと言いました。確かにそうなんです。ずっと人生の後半戦を追い求める、チャレンジ目標がある人というのは、最後まで続けられるということなんです。
 ちょっとこれ見えにくいのですが、皆様に今日、お配りしたパンフレットの、今日、サウスポールというところを通り抜けて、三浦さんはいま8000メーターのところにいます。あさって登頂しようという感じで、今日はここら辺を登っているはずです。エベレストは8800ぐらいありますので、多分いま登っていると思うんですが、8000から8300のところを登っているんです。明日、その8300からアタックしようということでやっています。
 75歳になりました。このときは70歳だったんですが、ここからこの間に心臓の不整脈が出て、私が主治医をやっていた立場もあって、「もう山はやめなさい」と10回ぐらい言ったんですが、山をあきらめられないということで、三浦さんは二度も心臓の手術をしたんです。カテーテルアベレーションという手術ですが、それで不整脈を抑えて、今回また登頂にチャレンジしているということです。
 ですから皆さんにエベレストに登れと言っているわけじゃなくて、皆さんの心の中に恐らく自分の、皆さんのエベレストというのがあって、それを発見できればそれが皆さんの人生のチャレンジ目標だということで、人生後半戦、そこに目指してラーニングしてもらいたいということです。ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手)
 幹事会より 白澤先生の講演は映像・画像を用いて構成したもので、お話のみでは伝わりにくい面もありますが、講演要旨を幹事会の責任でまとめさせていただきました。