2004年5月16日総会にて(グリーンホール相模大野)

  

 心臓病は忘れたころにやって来る

   山中 修
   国際親善総合病院・内科医

 プロの患者になるために
  今日は、心臓病の患者さんが「患者のプロになれ」ということで、患者さんがどうやって病気の置かれた環境をよく認識して、これからどういう形で付き合っていったらいいか、ぜひプロになっていただきたいという意味で、お話をさせていただきます。
 動脈硬化がどうしてできるかというと、内皮細胞というのがあって、LDLという悪玉コレステロールですね。悪玉が内皮細胞障害で中を通り抜けていく。つまり内皮細胞というのは、水道管でいうと「さび止め」です。このさび止めがはがれると悪玉が入っていく。
 それにマクロファージです。単球というのが中に入っていって、これを手助けするわけです。このLDLという悪いコレステロールをばくばく食べ始めるわけです。これだけじゃなくて、下から平滑筋細胞と呼ばれるのがぬるぬると出てきて、これが「私も一口ご相伴にあずかりたい」と、悪玉のコレステロールを食べにきます。
 そうするとここに、にきびのような非常にみずみずしい脂肪の塊ができます。にきびができると周りに炎症が起きる。炎症性侵出物、液体成分がたまってきて、非常にフレッシュな塊が合流してくるわけです。あんまり合流し過ぎると、にきびがはじける。はじけた結果、中からぐじゅぐじゅと出てきた物質に対して血小板がくっつきます。 このぐじゅぐじゅと出てきたものから血栓が閉塞されて心筋梗塞になる。今、心筋梗塞のメカニズムというのは、ほとんどこれであろうということになっています。つまり内皮細胞がやられて、中に粥腫ができて、粥腫が破綻して血栓ができるという道筋です。
 でも、粥腫が新しければまた戻ってきます。ソフトプラークは退縮するんですね。だから皆さん頑張って内科治療で粥腫を退縮させる努力をしなければなりません。内科治療というのは食事療法、運動療法です。皆さん、今日の話を聞いて一生懸命、歩いていただく、食事に気を付けていただく、薬物を使うのは僕らですが、禁煙していただくのは本人ですね。  
 ここに冠状動脈バイパス後の長期経過観察例の検討というデータがありますので持ってまいりました。バイパスの問題点というのは、短期成績はバイパスのうまい人がやれば手術の死亡率は非常に低い。生活の質も上がりますからいいんですが、長期というのは、どれだけの人が、生き残っているかという問題です。
 患者側の要因は10年たつと何が変わるかというと、年齢が変わります。年齢というのは動脈硬化の一番の危険因子です。残念ながら若返る人はいません。遺伝子と性別が変わらなくて年齢を取っていくので、生活習慣がよっぽど変わらなければ、内科治療をやってないに等しいということになります。
 皆さん、「虚血性心臓病は忘れたころにまたやってくる」思ってください。こういう注意をしてないと患者のプロにはなれません。静脈使用のバイパスには有効期限があります。運動療法とか内科治療をやってないと、もともとの血管の末梢に梗塞がくれば何の意味もなくなります。ですから、つないだ血管も大事、もともとの血管の末梢も大事ということです。
 それに心臓の手術をしたんだからもう大丈夫とは決して思わないでほしいということです。心臓の手術をしてもバイパスの保証期間は静脈グラフトの場合は10年、12年です。動脈グラフトもまだデータが分からない部分があります。動脈グラフトはその末梢に新しく病変が起き得る可能性があるということも認識していただきたいので、やっぱり内科治療が重要です。
 静脈グラフトでいうと、その短所は開存率が悪いということが分かってまいりました。欧米では1年で82%開存していました。それが10年で約半数強です。内胸動脈は90%通っているということで、静脈グラフトは10年で効力が約半分強ぐらいです。内胸動脈を使った手術だと心臓の事故は少ない。しかし伏在静脈を使ったのは多い。でもどうしてもやっぱり使わなければいけない環境で使う場合もあります。ただし、それは一番メインの血管には使ってないですね。
 静脈グラフトに対する考え方としてPTCAという風船でやる方法もありますが、静脈に風船をやると再発狭窄率が約50%あります。だから風船はこれぐらいの信頼性しかないと思ってください。ということはこうならないために、まずは転ばぬ先の内科療法がいかに大事かということです。動脈グラフトを使っている場合は安心していいかと思いますが、静脈グラフトは6〜7割の開存率なので、特に「高脂血症運動療法」が必要です。
 これはスタチンといってコレステロールを下げる能力があります。どんな薬でもいいんですが、とにかくコレステロールを下げることをやっていれば、血圧は下がります。糖尿病も良くなります。コレステロールを意識して、食事療法、運動療法をやりましょうということです。
 皆さん、内科治療って何だと思いますか? 内科医にお任せするのが内科治療ではありません。「患者さんがプロになってほしい」実は今日僕はこれを一番言いたいんです。薬を飲むのも患者さん。食事療法をやるのも患者さん。運動療法をやるのも患者さん。そして適切な指導をやるのが内科医です。だから、ほとんどは患者さんがやるということです。これでプロにならなければどうしようもない。どれだけ偉い教授に診てもらおうが何だろうが、自分でやらなきゃしようがないのです。ぜひ心臓を守っていただきたいと思います。
 生活習慣病について話をしますと、体質遺伝、ガンもそうですが、残念ながら命をもらうと同時に、そういうものももらっちゃったんだということを認識していただきたい。その上に積み重ねていくものは、自分でコントロールできるものだということです。運動不足、不眠、生活習慣の改善云々ということは、これは自分が注意すべきことですね。
 先ほど出てきたBMIです。標準体重というのは約160センチというと、100引いて0.9掛けると54キロが望ましい。BMIという表現は、これよりどれぐらい太っているか、やせているかということを表現するわけです。つまり、160センチで60キロの人だったら、60÷1・6、それをまた1・6で割ると23・4。これぐらいだったらまだいいだろうということです。僕らの再発防止の数値は厳しくて恐縮なんですが、BMIは21以下、LDLは100、HDLが50以上、善玉です。
 先ほど出てきたように、週4回以上の運動をやる。有酸素運動がよろしい。有酸素運動というのは無理しないということです。気持ちいいなというぐらい。うっすら汗ばんで、気持ちいいな。脈を取る必要性もないんですけれど、脈拍を取ってみると100から120ぐらいをうろつくぐらいの運動療法がよろしいということになります。そういう運動ををやりますと先ほどから申しておりますが、粥腫が退縮します。
 よく「薬だけじゃだめですか?」と質問されます。だめです。HDLも下がってしまうんですね。ところが運動療法と食事療法で体重を落とすと、高血圧も良くなる、不整脈もなくなる、心臓が丈夫になって心不全も良くなる、コレステロールも下がる、糖尿病も良くなる。さっき言った「さび止めはがれ」の内皮細胞の機能が全体として上がってくるということで、食事療法と運動療法と薬剤をうまく組み合わせることによって、HDLを上げてBMIを減らす。これで完ぺきというわけです。
 どうやったら下がりますかということですが、僕らの病院は「超内科療法」と名前をつけてやっています。どういう指導方法かというと、「見えるものの油は一切やめよう」ということです。揚げ物はもってのほか。せいぜいオリーブオイルでドレッシングをつくってかけるぐらいはいい。普通の油で揚げたものや、いためたものは極力やめて、青魚の油を取っていただきたいということです。
 実は僕、これ1カ月やって5〜6キロ落ちているんです。自分でやろうと思えばできるんだということです。体重が落ちると歩くのが楽しくなります。犬を連れて、犬が嫌がるぐらい朝晩散歩しています。おなかがすいた、つらいなと思ったら、納豆を食べて野菜ジュースを飲むということをやっていますが、そこまでやると1カ月で6キロ減らせられるんだということです。
 穀物類は糖分となってエネルギーとなりますが、消費しなければたまっていきます。炭水化物は8割。油を取るのであればオリーブオイルか魚の油。野菜ジュースはいいけれどバナナはカロリーが多いので果物としては、あまりお勧めできない。間食はノンカロリー。間食したいと思ったら、野菜ジュースを飲んで、納豆を食べているということです。
 結論ですが、日本食を食べて、目のあるものに誘惑を受けずに、余分なカロリーはやめましょう。よく歩いて脂肪を燃やそう。BMIが21。狭心症、心不全の場合は安全な運動処方が必要ですので、上原さんにご相談ください。
 「プロになれ」というのはどういうことかというと、自分の置かれたところをよく知っていただいて、生活習慣病に気をつけると同時に、食事療法、運動療法をしっかりやっていただくということです。皆さんは心臓病で命を南淵先生に1回もらったわけです。ということは心臓では、ひょっとすると1回死んだかもしれない。だけど1回助かった人間はどうだろうかというと、意外とそういうことに注意していますので、脳梗塞になりにくい、一病息災というやつです。心不全にもなりにくいということで、よく注意していらっしゃる。
 ましてや、ここに出てこられる人というのは相当注意している人です。そういう人たちはこういうことに気をつけて元気に運動療法をやって明るく楽しくお過ごしください。
 僕は研修医の教育委員長とか、病診連携の責任者みたいなものを国際親善病院でやっていました。プロの患者としてどういうかかり方がいいかというと、「いいかかりつけの開業医の先生を持っていただく」というのが一番です。それも患者さんがいっぱいいる40代から50代ぐらいの内科医の先生がいい。特に紹介状を大きな病院にすぐ書いてくれる先生、そういう先生が自分の領域をよくわきまえていて、早期発見をしてくれます。
 僕は人間である限り、一番は人間のプロでありたいと思いますし、それからこういう職業を選んだので、医師である限りは医師というのをプロでありたいと思います。その次にやっぱり循環器内科というのを選んで、循環器内科でプロとして25年やってきたわけですが、もう一回原点に戻って、内科医とそれから医師ということを自分でやってみたくなったという理由で、今フリーターをやっている山中のお話でございました。どうも今日はありがとうございました(拍手)。

(この講演内容は幹事会の責任で概要をまとめたものです)