2005年5月8日総会にて(藤沢市民会館)

考心会アンケート調査に対する感想

倉田 篤先生

藤崎浩行先生

岡本暁子看護師長

深津より子看護師長

術後の後遺症対策「病診連携」で   倉田 篤(大和成和病院心臓外科医)

 今回のアンケートの中には、手術を受けられた患者の皆さんが、色々な後遺症に悩まされているということが浮き彫りにされています。約半数の方が傷口に痛みがありますし、3割近い方がしびれやむくみを訴えておられます。それとケロイドですね、ケロイドを取り除く手術をしたけれどまたケロイドになったという患者さんもいまして、執刀した医師としては誠に申し訳ないと思っています。
 一番最たるところは脳梗塞というところがありました。手術後に脳梗塞になって身体にマヒがある方が約1割いらっしやいます。南淵先生もおっしゃっていましたが、我々が考えている以上に脳梗塞による後遺症で悩んでいらっしゃる方はたくさんいると思います。また年齢的にも、やはり手術を契機としてなりやすい状況になっているのではないかなという方々もたくさんお見受けするわけです。
 実際に私たちの手術による合併症として、脳梗塞は手術期1ケ月以内を手術と関係があるととらえております。実際、外来で2ケ月、3ケ月たってから梗塞を起こし、それもだんだん進行するという方も中にはいらっしゃるのです。今日この場にもいらっしゃってない方もたくさんいらっしゃると思います。
 藤沢の駅からここまで歩いて来れない方、マヒになってつえをつかないと歩けない。それ以来電車に乗れなくなった。近所も散歩できない。術後、心機能を改善させるためには運動療法がいいのは分かっているし食事療法もやっている。ただ歩くことができない私にとって何ができるんだ、と皆さんはそういうことばかりをおっしゃるわけです。心臓外科医がこれに答えられることは全くないのです。本当に歯がゆい思いです。僕らは今後、これについて本当に考えなければならない問題だとは思うのです。
 例えば「介護保険」という問題とか、「病診連携」という言葉を耳にします。介護保険一つをとりましても、これは医者のやる仕事ではありません。意見書に皆さんが何を要望するかということを書いても反映されていることはほとんどありません。意見書の最後に必ず書く欄があります。うちのコーディネーター、ソーシャルワーカーオフィスが、皆さんからアンケート調査をして内容をそこに書くわけです。ケアマネジャーがどこまでそれを取り入れているのか、全くこちらのほうには伝わってきません。皆さんの意見がそこに反映されていない。実際には社会問題にすらなっているわけです。
 また病診連携ということでも、結局は我々の外来は2ケ月、3ケ月に一度になっています。皆さんとお会いできて3ケ月たって、3時間待たされて5分以内に診療が終わって帰っていくわけです。こんなバカな話はないのはよく分かっているのです。でもその現状で最高の医療をやろうということで必死になっているのですが、病診連携がもしうまくいくならば、皆さんの力になれるのは例えば町の開業医さんなんです。隣にいるお医者さんに親子3代診ていただいていて、私が生まれたときから何が好きでどんな病気をしたということが全部わかっている。それが70歳になって、次の孫の代までまた診てもらっている先生がいたら本当に素晴らしい話です。そういう先生との連携がもし取れるのであれば、私たちは最大の努力をし、情報を提供し、また情報交換をしながらやっていく道ができたらと思っています。
 ただそれは一外科医ができる問題ではなくて、社会が変わらなければいけないことも当然ですし、また、病院として取り組まなきゃいけないこともたくさんあるんだろうなと感じた次第です。言い出したら切りがないことばかりですが、非常に有意義なアンケート調査だったのではないかなと思いました。今後ますますの皆さんのご健康をお祈りしておりますが、また外来で会える日を楽しみにしております。ありがとうございました。

リハビリで大切な筋力トレーニング  藤崎浩行(大和成和病院心臓外科医)

 アンケートを見せていただいて、自分はいろんな観点から見たときに感じることがありました。最初に「自覚症状はどのような時に起こったか」とあります。その自覚症状が起こってから病院に行って1回目の受診までにどのくらいの間隔があったかということは、アンケートになかったように思いました。
 我々は常識として知っていることですが、心臓病の方は自分が心臓病であることを否定したがるという傾向があります。要するにその前にどういう生活をしていたかということを見ても分かるように、心臓病になる方はどちらかというと体に自信のある方、自分の体の健康に任せて体のケアしていない方が多いのです。そうなると自分がちょっと胸が苦しいといっても、「こんなのは大したことない」といって、なかなか病院に行きません。
 この間も救急蘇生のことで申し上げたのですが、病院の中で心臓病の方が亡くなるというケースは非常に少ない。去年は450件ほどの手術をさせていただきましたが、3%ぐらい亡くなった方がおられます。要するに否定したがる、無理をするという方が、心臓病という大きな病気になり大変なショックを受けて手術を受けられるわけです。手術を受けた後、自分がまた健康を取り戻して立ち直っていくことは結構大変だろうなと、中にはうつのような状態になってしまわれる方もいます。それを乗り越えて生活していかなければいけないと思います。
 そういったときにリハビリテーションというのは元通りの生活に戻していくうえで非常に大切です。この中で圧倒的に多いのは散歩です。散歩はもちろん大事ですが、はっきり申し上げて散歩だけでは足りないです。リハビリの中で「レジスタンス・トレーニング」という言葉を使いますが、筋力トレーニングですね。歩くことは大事ですが、それ以外に筋力トレーニングをしていかないと駄目です。特に上半身、下半身の筋力がだんだん落ちていくと、足が上がらなくなりつまずいて転んで太ももの骨を折ってしまうということがあります。ある程度、自分で筋力をつけていかないと、どんどん老化していってしまうのです。
 これは手術をしたときでも、普段からよく歩いている方、トレーニングをしている方は、手術後の立ち上がりも非常に早いのですが、普段、運動をしていない方は2〜3日寝たきりになった後に「さあ、歩こう」となると、それだけでも大変です。ですから、普段からこういう筋力トレーニングが必要です。簡単なのはダンベル体操とか、腰に不安がないんだったら、少し重りをつけて歩くとか、プールの中で歩くというのが非常にいいと思います。
 心臓手術、あるいは狭心症、心筋梗塞になったリハビリテーションの料金は、1日550点算定で5500円です。ところが脳卒中のリハビリテーションは平均180点で、大体200点ぐらいしか算定されません。要するに心臓の手術という高いお金を払って皆さんは元気になったんだから、前よりもっと元気になってくださいといっているわけです。だからリハビリテーションに対して高いお金がついています。
 次に仕事のことです。勤めていた方が辞めちゃった。これは体力的な問題もあるし、いい区切りだから「辞めた」という方もあると思います。仕事を辞めてしまったということは、心臓の手術をしても元気にならないと思われてしまうようで非常につらいわけです。心臓外科というのは医療の中でも非常にマイナーな業界です。ところがお金に関しては莫大なお金がかかっています。1人の患者さんを手術するのに平均200万〜300万円のお金がかかっている。これはほかの医療の患者さんに比べたら単価としては驚くほど高い。病院の中ではVIP患者です。そういう高いお金がかかっているにもかかわらず、医療を行なったことが社会に返ってこないことになると、心臓外科に対する評価、風当たりは非常に厳しくなってくると思います。
 心臓外科を取り巻く医療ミスがあります。去年もいくつか新聞記事になりました。東京医大も新聞に載りましたが、皆さんはああいう記事を見て「ああ、よかった。ああいう病院で手術を受けなくて自分は運が良かった」と思われたと思います。こういう問題は本当に氷山の一角で、もっとこういうことがあちこちであるということを我々は知っています。学会も変わらなきゃいけない。ある学会の理事が「学会も変わらなきゃいけないんです。学会がこういったことを変えなきゃいけないんです」とおっしゃっていました。南淵先生が「具体的にそれはどこの学会がやるんですか」と言うと、その学会の理事の先生は答えてくださらない。ということは、まだこういう質の管理に関してはだれも手をつけていないという状態です。
 要するに心臓外科医というのは、自分たちで質を良くする努力をちっともしていない。しかも患者さんを手術しても全然元気になっていない。みんな仕事を辞めちゃうし、寝たきりの人も多いということになると、ますます心臓外科医に対して風当たりが強くなっていくと思います。そういう意味では、考心会の皆さんには非常に期待したいことなんです。
 我々は医療としてはプロですけれど患者のプロではないのです。どんなふうに痛い思いをして、どんなつらい思いをして、どんなことが大変だったか。あるいは手術をしてどんなことが良かったかということは、患者になってみなければ分かりません。
 「だれに、どういうふうにして手術する場所を選択したか」という項目の中に、手術をした人に勧められたというのがあります。その前のところはだれのことを指しているかというと南淵先生です。受付の待合室で、私の外来のときにすでに手術を受けた方とこれから手術を受ける方が待っていることがあります。そのときに「藤崎先生の手術を受けたんだけれど、とってもよかった」と言っていただくと、その後、非常にスムーズに話をすることができます(笑)。この中にも私が手術をさせていただいた方が何人かいらっしゃいますが、「南淵先生もいいけれど、藤崎先生や倉田先生も若くていいわよ」と言っていただくと、我々もまた少しは飯の種が増えるかなと思っています。
 日本人は、自分が病気になった、手術をしたことをとかく隠したがる傾向があります。こんなに胸に傷があったら温泉には行けない、プールには行けないという方が多いです。日本の有名人でも例えば最近話題の橋本龍太郎という人は心臓手術を受けられていますが、自分が心臓の手術を受けたとは前に出て言おうとはしないですね。
 海外ではカリフォルニア州の知事をしているアーノルド・シュワルツェネッガーは大動脈弁置換を受けていますが、自分に全くハンディを感じさせません。そうしたハンディキャップを負っていることを積極的に肯定しています。「心臓の手術をしてこんなに元気になった。手術をして生きているということはこんなにいいことなんだ」ということです。
 こういう立派な会があるわけですから、皆さんからもっと発信していただければ、私たちにはとってもすごく追い風になります。そういうふうにしていかないと、「東京医大であんなことをやっていて自分はそうじゃなくてよかった」とその程度で終わってしまうと、我々の業界自体がどんどん、しりすぼみになっていくんじゃないかなと今、すごい危機感を持っています。そういったことでアンケートの中で感じたことを言わせていただきましたが、今、申し上げたようなことを考心会にも期待したいと思います。

術後や家族とのかかわり大切  岡本暁子(大和成和病院看2F護師長)

 集計結果から看護師として感じたことは、術後の不安や悩みについて、その相談相手が担当医や家族であり、看護師がほとんど入っていなかったことがとても残念でした。アンケートの時期が術直後と退院後とでは、データが違うとは思いますが、術後、患者様の一番そばにいるにもかかわらず、援助者、介助者にとどまり、不安や悩みの相談役になれなかったことが、本当に残念でした。
 患者様が不安や悩みの解決策と考える中に、医療者との友好な関係や情報提供などが、大きな数字を示しているように、看護師の術前術後のかかわりについて、考えて行かなければならないと思います。まずは、1年前より始めている入院療養計画書による術前術後の経過説明が、患者様の不安解決に役立っているか、退院後の生活に困らないように行っている退院指導が、役だっているかどうかを評価し、改めて行かなければならないと思います。また、心臓疾患をもつ患者様やご家族への不安を軽減するという意味でも、ご家族への緊急時の対応法の指導も、今後の課題として考えていきたいと思っています。
 「手術は大変だったけど、良い入院生活だったよ」と言ってもらえるように、このアンケート結果をいかしていきたいと思っています。

「相談相手誰もいない」をゼロに  深津より子(大和成和病院看護師長・コーディネーター)

 このアンケートは、基本的なデータ、手術後の経過、現在の生活についてなど、データとしてかなり詳しく、看護師の学会で発表してもいいような、すごく素晴らしい内容です。これを企画実施し、まとめに携わっていただいた役員の方、会員の皆さん、本当にご苦労さまでした。
 私自身このアンケートからたくさんのことを学びました。内容は患者さんとお話しする際に、また、現在入院されている患者さんがこれから退院して元の生活に戻ろうとするときに、こういう不安とか悩みを今後抱えていくだろうなということを的確に示していて、とても勉強になりました。
 アンケートを通して44%の方が再発の不安を抱えていらっしゃるということがわかりました。これから私たちは、手術を終えて退院していく方が今どんな不安や悩みを抱えているかを再認識し、看護師や医師もそういうかかわりをしていかなければいけないと改めて認識させられました。
 この中に、「不安や悩みの相談相手として」という項目がありました。配偶者および家族が一番多いのですが、「誰もいない」という回答も4%ありました。477人のうちの17人は少ない数字だとは思いますが、誰もいないというんではなくて、私たちはこれをゼロにしていかなければいけないと思いました。
 この「誰も相談する相手がいない」と答えた方に対して、病院の立場としては本当に申し訳ないと思います。今後どんな小さなことでも構いませんので、電話1本なりくださればと思います。
 今は3人に1人の方がガンや心臓病、糖尿病だったりします。医学が進歩して命を永らえる時間が延びましたが、ただ長く生き永らえるだけじゃなくて、上手に年を取るとか美しく年を取っていくことを考えたときに、今日は皆様のお一人おひとりの元気なお姿を拝見して私たちも元気をたくさんいただきました。
 本当に1歩も2歩も先を行かれている先輩の皆さんに、年を重ねることとか、病気をすることでしか見えなかったたくさんのことを、私たちは皆さんと身近に接することで、自分1人の人生では経験できないたくさんのことを教えられて、ぜいたくな時間をもらっていると思っています。
 最初のころは1ケ月に心臓手術が10例前後あればというときから始めて、今は月に45〜46件前後という大所帯になりました。若いスタッフも増えましたので、外来とか病棟で多少粗相をすることもあると思いますが、お叱りもいただいて心配なことがありましたら、いつでもお電話していただき、私たちを気軽に利用していただきたいと思います。