2005年5月8日総会にて(藤沢市民会館)

大和成和病院心臓病センター長  南淵明宏

考心会のアンケート調査を集計して

 今日はお忙しいところをお集まりいただきまして、大変にうれしく思います。今回、皆様よりご協力いただきました考心会のアンケート調査の集計結果がまとまりましたので、その結果に関して発表させていただきます。それではライトを落としてください。
 考心会の会員731人の調査対象者の中から477人の回答がありました。アンケートは多岐にわたるわけです。そこから得られた、「興味がある」内容は、皆さんが手術の後、またそれなりに思い悩んでいらっしゃる実情であり、不謹慎なことを言ってはいけないわけです。しかしながら皆さんにとりましても、あるいはここにいらっしゃらない全国の心臓手術をお受けになられた後の方、あるいは「これから心臓手術を受けようかな、やっぱりやめておこうかな、怖いからやめようかな」と思っていらっしゃる方に、ものすごい意味があると思います。次のスライドをお願いします。
 これは黄色が男性で、男性のほうが多いのです。これは血液型で、A型、B型、AB型、O型です。学会等でいわれておりますところの心臓病。血液型は、日本列島に住んでいる人間の血液型の分布に等しいような、これも学会等の結果に等しいような結果です。次をお願いします。
 心臓手術の治療を受けた年代は、50代、60代、70代です。やはり60代の方が非常に多いということです。平均年齢は、バイパス手術だけですと大体67〜68と我々大和成和病院のデータがあるわけで、それを反映しております。次をお願いします。
 だれと一緒に住んでいるかという国勢調査のようなものもあります。配偶者と一緒に住んでいらっしゃる方が圧倒的に多いですね。「兄弟」はあまりないですね。「その他」は何でしょう。犬でしょうか、分かりません。(笑)次をお願いします。
 心臓の手術後の経過年数。ちょうど私は大和成和病院にきて9年目ということで8年たっているわけです。それ以上の方、前の病院で手術をさせていただいている方も入っていて大体均等な気がします。最近1年間という人も結構いらっしゃるということです。次をお願いします。これはアンケートに答えていただいた477名の方です。
 心臓病にかかる前の生活環境ということです。過労もストレスもなく普段と変わらない生活だったが半分近くです。「イエス」と答えた人が赤。過食過飲が多く食事の時間も不規則だった、割かし自分としても生活が乱れていたが31%です。残業や休日出勤など一生懸命働いていましたという人がこれぐらいということです。人間関係でも悩みが多かった。だから上の三つが「それなりに非常に体に負担がかかっていました」、一番下が「割と平穏に生きていたんです」という感じです。次をお願いします。
 「心臓病にかかった理由」は、いつも皆さんに説明させていただいているように医学的には……これは運でしかないですね。病気になるというのは理不尽なものです。ところが人間は、自分では「何で病気になっちゃったんだろうな」と理由をいろいろ考えるわけです。だれかのせいにしたいといえるのかもしれません。もちろん精神的ストレスということも医学的にはいわれていますけれども、ストレスを測る方法はないわけです。皆さんのお考えの中では、ストレスとか食事のアンバランスも割と思ったより均等にあります。大体このストレスが一番多いかなと思ったんですけれども、運動不足とか肥満とか、それなりに合理的に考えていらっしゃる。あるいは先祖、親、兄弟などの心臓病。要するに「遺伝じゃないか」と思っている人もいて、割かし皆さんは均等に考えていらっしゃいます。次をお願いします。
 心臓病と診断された時、発作や異常などの自覚症状はあったかということです。これは狭心症ばかりではないのですけれども、この中にバイパス手術を受けられた方で僕の説明をさせていただいた人は、皆さん聞いていらっしゃると思います。大体3分の1ぐらいは症状は全くないにもかかわらず、「あんたは心臓病だから死んじゃうよ」と脅かされて、「嫌々手術を受けるという人が3分の1です」という説明をさせていただくのです。まさにそれが正しいというか、僕がいつも手術の前に出任せ言っていたわけじゃなかったということが証明されたわけです。こういうふうに自覚症状がない方もやはりいます。もちろんあったという人もいらっしゃいます。
 「なかった」と答えた方はどこで心臓病と分かったか。例えば前立腺の治療をやっていたら心電図やレントゲンがおかしいといって見つかったというのが、男性の場合は非常に多いですね。健康診断や他の病気の治療中ということです。これは同じような感じだと思うのです、何もないのに検査はしないわけですから。次をお願いします。
 「自覚症状があった」という方。自覚症状はどんな内容でしたかということです。これも割と均等に分かれているわけです。注目すべきは、一番多いのが「休憩中(睡眠含む)」です。こういときに結構発作が出ている。あるいは休憩中であるがゆえに、寝ているがゆえに、周りが静かだから「あれ、何かおかしいぞ」とか、脈が乱れているとか、分かりやすいかもしれません。あるいはその逆です。何かに集中して仕事をしていたり……集中して夫婦げんかをしてたりとか、そのときはあまり感じなかったりという状況なのかもしれません。通勤途中とか、あるいは仕事中、入浴中……入浴中は割と少ないですね。スポーツ中。僕が日本経済新聞から出した『突然死』で、一番多いのが睡眠中なのです。2番目に多いのが入浴中です。突然死した方の7%が入浴中で、睡眠中は23〜24%です。次をお願いします。
 「自覚症状があった」と答えた方。発作や異常が起きたとき、大体これも24時間で見ているわけで、割と「いつ」という傾向はないですね。季節も調べたら面白いのかもしれません……。医学的に大変興味があるということです。とにかく起きた時間帯は大体均等に分かれています。次をお願いします。
 自覚症状があったと答えた方、発作や異常が起きた時の最初の症状ということです。この中で一番多いのが胸が圧迫される感じがした。これはバイパス手術の方が多いからでしょう。でも心臓弁の悪い方でも同じように胸が圧迫される、脈が速いとか、心臓が困っている状況は同じですから大体こういう感じです。次をお願いします。
 発作や異常が起きた時の行動。休むとおさまったので我慢していたという人が非常に多いですね。すぐに救急車を呼んだという人。自分で病院に行った。家族や知人に病院に連れて行ってもらったという人が13%。しかしこの家族とのかかわりを考えてみますと、休むとおさまったので我慢していた131人は、恐らく家族がいてもいなくても、自分は黙っていた。「すぐに救急車を呼んだ」は、当然家族が横で判断して電話するということがあったんじゃないか、関与です。「自分で病院に行った」も自分で運転して病院に行った人もいるでしょうけれど、やはり奥さんとかご主人というのがあったんじゃないかと思います。意外に自分で我慢している人というのは多いということです。次をお願いします。
 医者から手術の必要性を宣告された。「あんたは手術が必要ですよ」と言われたときに、どう思ったか。医者に任せるしかないと思った。どの程度、何を任せるか。手術をするか、しないか、どういう手術をするか、何を任せるかというのは、はっきりはしないのですけれども、とにかく「医者が言うんだから、しようがねえやと思った」ということだと思うのですけれども8割近くある。将来不安になった、あるいは病気に勝つと自分に言い聞かせたと非常に前向きな方もいらっしゃるわけです。
 医学が進んでいるから心配はないと思ったと、楽観的な方もいらっしゃるわけです。大変なことになった、死ぬかもしれないと思ったは、極めて率直な冷静な感想かなとは思うのですけれど、心臓病ではあるわけです。深刻に考えても仕方がないと思ったということです。男性、女性で分けると、やっぱり女性のほうがプラス思考なのかなと思っているのですけれど、それは分けていませんので後ほど検討させていただきたいと思います。次をお願いします。
 手術を受ける病院の選択は、かなりこのまま、どこかのメディアが欲しがる内容かなと思うのです。かかりつけ医からの紹介が一番多いですね。一般病院からの紹介。自分で探したという人も2割。最近の傾向としては自分で探したという人が多いんじゃないか。これは477人で、10年前の人もいるし、去年の人もいるわけです。受けた年代別に見ると、やはりこの部分が増えてきているんじゃないかなと思うわけです。次をお願いします。
 自分で探したと答えた方。この後、割と面白いのが続くわけです。大和成和病院の年間の手術件数が多いからということで、年間の手術件数を表に出していることもあると思うのです。自画自賛ですけれど、そういった宣伝……悪く言えばうちの大和成和病院の宣伝に乗っかっていただいた患者さんということです。「病院の出版物やホームページを見て判断」も同じですね。「テレビや新聞、雑誌などのマスコミで病院の評判がよかった」も、別にマスコミにお金を払っているわけではないけれど、マスコミの人にありがたいと思わないといけない。「執刀医がマスコミで名前が売れていた」は、ほとんどギャラ無しでバラエティ番組ですけれど、出ることが無意味じゃなかったということです。かえって信頼を無くすんじゃないかとやっぱり心配されたりするんですけれど……。
 「手術を受けた人に勧められた」が結構大きいですね。自分で探したという人の中にこういう人がいらっしゃるんじゃないかなと思うのです。百聞は一見にしかず的に、医療側の情報だけじゃなくて、自分と同じ目線の患者さんからの口コミはいわば商売の基本、客は客が連れてくるという言い方になるわけです。それは一つ、こういったホームページは一方的な病院からの情報といえるわけです。そうじゃなくて患者さんからの情報。これは情報を得ている患者さんに視点を置いた場合でも、その患者さんの、ものすごい情報を集めようとする意欲が入っているということです。「手術だ」と言われてホームページを見るのもいいですけれど、実際に手術を受けた人間に会って話を聞くことは本当にすごいジャーナリストみたいに取材するみたいなもので、すごくバイタリティを感じるわけです。次をお願いします。
 今回の心臓病におけるセカンドオピニオンということで、受けたという方もいらっしゃるわけです。受けていない、記入なしという方もいらっしゃいます。受けたという方が22%ではありますが、意外と非常に多いと思います。つまり最終的には大和成和病院で手術をお受けいただいているわけです。その前に同じような病院でも話を聞いたり、あるいはそちらと比べている状況にあるということです。これも先ほどと同じように年代順に見てみますと、10年前に手術をお受けになられた方よりも最近手術をお受けになられた人のほうが、このセカンドオピニオンという数字は多いんじゃないか。悪い言い方のようにとられますが、ウィンドーショッピングという言葉とよく似ているドクターショッピング。つまりいろんな医者に当てをつけて一番いいところを選ぼうということで、そういうことは患者さんとしてよくないんじゃないかと言われているわけです。
 例えば手術を受ける、受けないの判断、あるいはガンを切らずに治すというところですと、患者さんが喜ぶような治療法を無理やり押し付けるというか、売り物にしちゃうところに患者さんが集中してしまう。例えば、ぺたっと張ったら乳ガンが染み出してくるなんていう話がありました。じゃあ、手術するよりそっちのほうがいいとなるわけです。手術するといったん決めた状況でいろいろウィンドーショッピングみたいにドクターショッピングするのは非常にいいことだし、当たり前のことだと思うのです。そういった意味でこの22%というのは非常に意味のある数字だと思っております。次をお願いします。
 バイパス手術をおやりになられた方の本数が、1本、2本、3本、4本という感じです。次をお願いします。カテーテル治療の方もいらっしゃる。次をお願いします。その他、弁の手術とか、やっぱりバイパス手術が圧倒的に多いのです。大動脈瘤・大動脈解離という方、ペースメーカー埋め込みという方。次をお願いします。
 だから7割ぐらいがバイパス手術です。バイパス手術を受けた方の採取した血管、どこからバイパスグラフトを採りましたかということです。これは僕が手術して当然データがあるわけです。今回は考心会のアンケートということで、頓宮さん始め、皆さんが考えられた内容ではあるのですけれど、この結果で興味があるのはやっぱり皆さんは自分でちゃんと理解していらっしゃるんだなと。「分かりまへん」なんていう人はいないわけです。それは自分の体、自分の手術ですから、どういうグラフト、どういう手術をしたかというもの、どれだけ患者さん本人がご理解されているかという実態といえると思うのです。次をお願いします。
 手術の後、再手術を受けたか、受けてないかということです。再手術の中には風船治療も入っております。胸をがぼっと切る再手術、全部がそうではないわけです。手術後いつ症状が発生したかということで、回答が45人のうち、随分たってからという人もいるし、6ケ月以内という人がやっぱり多いですね。次をお願いします。
 再手術を受けた方の中で、バイパス手術、カテーテル治療というのが一番多いのです。バイパスさせていただいた中でも、そのバイパスがうまく流れなかったということがあるわけです。うまく流れるか流れないかというのは、半年以内でうまく流れないかどうかはっきり決まって、半年以降1年とか問題なければずっと問題ないですよという言い方になるのかも分からないですね。次をお願いします。
 手術の後遺症。これが非常に耳が痛いというか、手術させていただいたほうとしては、ガーンときてしまう。これは患者さんの印象ですごく大事です。印象というよりもある種の満足度といえるのかもしれません。別に後遺症があっても満足している方もいらっしゃるのかも分かりませんけれども、後遺症あるんですよという方が3割、29%いらっしゃった。「いいえ」が65%。次をお願いします。
 後遺症がある、どんな症状か。傷口が痛い、しびれる、むくむ、ケロイド、脳梗塞で身体にマヒ、精神障害、その他ということです。ケロイドあるいは傷口の痛みということで、この辺に関してはご本人に対しては大変申し訳ない。大変ご苦労されているわけで13人の方がいらっしゃるということです。次をお願いします。
 脳梗塞で身体にマヒがある。手術時ということですけれども13人です。亡くなられた方もいらっしゃるのでアンケートに答えていない方もいらっしゃるので、もっと数が多いのです。しかしそれは正直申し上げて、僕らが掌握している数より多いのです。その辺の判断の基準というのが僕らが掌握している数……3分の1というか、全体で13人ぐらいなのです。ですけれど現実に全員にアンケート……亡くなられた人も入れると、やっぱり増えて30人ぐらいになるかもしれない。その印象はちょっと多過ぎると思うんですけれど、患者さんの見た視点、それから医者が自画自賛、唯我独尊的に見ている視点は当然違うわけです。そういった意味ではこういう形で脳梗塞後遺症ということでご苦労されている方がいらっしゃるんだなと思います。良くなったという方とか、非常に良くなっているという方が半分だということは朗報ではあるのです。次をお願いします。
 傷口に痛みがあるという方。圧倒的にこの1番ということです。傷口の胸の部分。どちらかというと胸の正面よりも側面ではないかなと思うのです。側面というか、ちょっとずれたこの辺り。次をお願いします。むくみは圧倒的にここなんです。足の静脈を採取した。傷があると必ずむくんでしまうということです。これも申し訳ないですけれど、靴がはけなくなっちゃった。足がぱんぱんになって、でかい靴でないとはけないという人もいらっしゃって大変申し訳ないです。次をお願いします。
 しびれのある方。これもやっぱり足の静脈を採ったところということです。次をお願いします。ケロイドのある方の、今度は逆に上半身です。要するに傷口がぶわっとミミズのようにはれている状況です。次をお願いします。
 ケロイドのある方の中で痛みはないという方、あるいは痛みがなくて小さくなっている。一番上と次です。この辺の方が割と多いので安心したわけです。痛みがあるとか、ますますひどくなっているという人もいないわけじゃないということで、手術したという人もいます。手術をしたけれど、またケロイドになったというケロイド地獄のような状況になっている方がいて大変これは申し訳ない。しかし、ケロイドというのは、さっきの図でもありましたけれど、同じ患者さんで同じような傷でも、ケロイドになっているところと、どこを切ったか分からないようにきれいに治っているところがあるんです。なぜこれが起こるのか不思議です。次をお願いします。
 痛み、しびれ、むくみなどの症状はどのようなときに出るか。気温が変化する時なんです。疲労時、労作時、あとここにはありませんけれど、太ったときに傷というのは割と痛くなるのです。だから「痛くないけれど、最近痛くなってきました」と言うと、「あんた、太ったでしょう」と。割と自業自得的に理解していただけるのでありがたいのです。とにかく足のむくみとか足の痛みというのは、気温が変化する時という状況だと思います。次をお願いします。
 分かりにくい人もいたかもしれませんが、痛みが、手術した時点と今の……要するに1年の人もいれば10年の人もいるわけです。どういう曲線で、例えば痛みがずっと続いているのか、初めから全然ないのか。あるいは初めは痛かったけれど急速に減っていったのか、あるいは月ごとに減っていったのか。ずっと痛かったけれど最近急に痛みがなくなったのか。この痛みは外から見ても全然分かりません。手術後の痛みというのはご本人が悩んでいらっしゃるし、医者に対してだけじゃなくて家族や周りの人に対しても訴えようがない状況です。そういう意味でもぜひこの機会に、皆さんに表現してもらおうと思ったのです。
 でも、意外とこういった1番は今はほとんどないです。ずっと痛いという方は少ないと思います。477人のうちの5人ですから、100人に1人はずっと痛いという人がいるんですよと。今後は手術の前に「手術したら痛いんですか」と聞かれたら、「100人に1人はやっぱりずっと痛いという人がいるんですよ」と言わないといけないなと思っているんです。あとの人は時間がたてば日がたてば、「時間が経過することが薬です」という意味の日薬で、楽観的に説明できると思うんです。次をお願いします。
 「手術後何日目に退院しましたか」というのは、最近の傾向でさらに早くなってきていると思うのです。リハビリということで前回お話ししていただいた上原君が、一生懸命患者さんのおしりをたたいて歩かせていますので退院が早くなっているわけです。15日以内、20日以内ということで、ほとんどの人が20日以内です。10年前の方もいらっしゃるわけですけれど、10年前から結構早いほうだったとは思うんです。次をお願いします。
 手術の後の不安や悩みということです。再発の不安というのがやっぱり一番多いですね。経済的負担の問題が少しいらっしゃるし、薬の副作用とか……。今日もお会いして「薬をいっぱい。薬漬けになっちゃってます」という人が結構います。うちの病院ではなくて、よその病院にかかっていらっしゃる人です。皆さんは「そんなに飲まなきゃいけないんですか」とお感じになられる人も多いのかもわからないんです。最近は薬で何かまずいことがあるとすぐに報道されますので、輸血部分も含めて心配になられるのかなという気はするのです。ここでくみ取らなければいけないところは、やっぱり再発の不安ということです。次をお願いします。
 不安や悩みの相談相手は、配偶者および家族がやっぱり圧倒的です。次に担当医ということです。皆さんが心臓の手術を受けて執刀したのは僕、あるいは倉田君、藤崎君、小坂先生ですけれども、その前に診断を下した内科の先生がいる。その前に「内科の先生のところに行け」と言った近所のお医者さんがいたりするわけです。担当医といってもいろんな段階というか、いろんな立場があると思うのです。
 次をお願いします。「手術後の身体の状態」ということです。病気や治療による制限を受けることなく以前と同じように生活できているという人が66%。これがいわゆる患者満足度といえるのかなという気はするのですけれども、これが多くてよかったですね。肉体労働は制限され、走ったり重いものを持つことはできないと、割とネガティブな人がこの66%の残り。あと身の回りのことをするには常時人の助けがいるとありますけれども、大体66%の人がご満足いただけているのかなということです。次をお願いします。
 アメリカではすごくこういう論文が多いのです。手術時に仕事をしていたか、していなかったかは半分半分です。次をお願いします。仕事をしていた人の中で今もやっているのは黄色です。勤務労働者、要するに雇われ人だった人の半分ぐらいは今も勤めています。自営業の人は75%、4人に3人は今でもやっているということです。退職したという方がいらっしゃって、アメリカはもっと激しくて、収入が増えたか減ったかということを書かれたりしているわけです。こういう調査は本当に日本で全くやられたことはないので、非常にこれも貴重な今回の調査だと思うんです。次をお願いします。
 手術の後、現在の食生活の中で一番気を使っていることは、コレステロールや中性脂肪の高い肉や油物はあまり食べなくなった。過食過飲に気をつけるようになった。多くの人が具体的に、野菜、魚、キノコ類中心の食事で、大体みんな同じように重なってもいいとは思うのです。気にしないで何でも食べるは18%。ちなみに僕はここら辺に入るかもしれないのです。多くの人は食べるものに非常に気を使っているということです。次をお願いします。
 現在どのような運動をしているか。有酸素運動ということで散歩はいいですね。ジョギングよりも散歩のほうがいいといわれています。ゴルフはすごく長い距離、6キロ、7キロを歩くということですけれど、やっぱり散歩が最も人気のある、また同時に合理的な運動ということです。次をお願いします。
 他の病気の治療をしているか。糖尿病の人……おかしいな、データによるともっと多いはずということですが、割と少なかったですね。脳梗塞、ガンということもあります。五十肩の肩こりも整形外科的な腰痛です。患者さんとお話をしていてもこの辺はもっと多いはずのような気がするのですが、これにはあまり出てきておりません。病気には全然かかっていませんという人もいたりします。ちょっとこれは意外な数字だったですね。次をお願いします。
 健康維持のために取り組んでいること。さっきと同じことですけれど「食事と運動」が一番出てきています。確かにこれによってどれぐらいの実際的な具体的な効果があるのか、統計的にしか言えませんけれども、統計的には全く意味がある。去年、山中先生にお話しいただいたように、とにかく食事と運動ということです。健康食品などのサプリメントで、たまにわけの分からない、聞いたこともないパンフレットを持ってきて、「これを飲んで大丈夫ですか?」と言われるわけです。「そんなのはつくったやつに聞いてよ」といつも言うんです。またこの間、30万円の健康食品を買って夫婦げんかになってとんでもないことになったというのをテレビでやっていました。皆さん、結構テレビを見ていらっしゃいますね。本当に効くのかどうか分からないですね。何もしてないという人もいらっしゃいます。これは少なくてよかったと僕は思っているんです。やはり食事と運動は、具体的かつ科学的だと思うのです。次をお願いします。
 不安や悩み解消のため必要と考える対応策ということです。漠然としていますけれども患者自身の努力、医療者との友好な関係、それから情報の収集ということかも分かりません。家族の協力・理解・支えというところに「イエス」と答えた人が確率が高いということです。また医療機関の情報提供と情報公開で、医療機関側に期待するという方もいらっしゃる。医学の進歩は割と少ないですね。これは非常に今の世相を反映しているのかな。「高度、先進、先端、最新ということは本当に大丈夫なの?」と懐疑的な目でやっぱり見られるわけで、まさしくその辺の人間の考えているような「果たして本当にそのとおりなの?」という疑問は各分野であると思うのです。そういう意味でこの医学の進歩にあまり期待していないというところは、むしろ今、薬でも全然効かないのに厚生労働省が認可してしまっている場合もあったりするわけです。そういうことで医学というのは今、見直しに入っているという気がしないでもないわけです。これは皆さん、世相を反映されていると思います。ある意味でいいことだと思います。

(ここで倉田篤先生、藤崎浩行先生、深津より子看護師長、岡本暁子看護師長の話)

普通の人であり続けることの大切さ

 倉田君、藤崎君、深津さん、岡本さん、どうもありがとうございました。このアンケートがなくてもいろいろ思うところを、みんなうちのスタッフは持っているわけです。このアンケートを題材にして、一つの取っ掛かりとして話してみてはどうかということで話していただいたわけです。  今回、「考心会」が行ったこのアンケートは大変な成果であると思います。アンケートの中に、手術後に悩みを抱えている方が大勢いらっしゃったと思います。
 実はこのアンケートの集計をお願いした方もこのアンケートを集計している間に、うつになってしまいました。3週間ぐらい行方が知れなくなってしまったという事態もありました。それでちょっと出来上がりが遅れてしまいました。これは僕自身の粗相でもあるかもしれません。それぐらい人間というのは心の悩みを持っているものだということを、手術をする、しないにかかわらず持っておられる。
 深津コーディネーターからも話がありましたが、本当に患者さんというのは1歩も2歩も先を行ってらっしゃるなと思うことがたくさんあります。患者さんが手術の前に悩むのは当たり前、手術の後に悩むのも当たり前。しかし患者さんというか人間というのは、悩むこと、悩む状況を経験することによって次のステップに上がっていくものだなと、多くの患者さんを見てそれを最近痛感した次第であります。
 つまり手術が終わった後1週間ぐらいたって「退院だ」と言われると、「不安だ、大丈夫かな」といろいろ考えている。理屈でもって不安だということ、不安に感じるはずはないじゃないかということをいろいろ自分の頭の中で戦わせる。また思い切り不安になって思い悩んでみる。そういう旅路と申しましょうか、そういう経緯を経て……、たとえば海外旅行に行こうと思えば成田空港を通過しなければならないという決まりがあるように、あんなところは遠いし待たされて嫌だ、レストランは高い割にはおいしくないといろいろあるが、そういうところを経なければ次に行けないということがあると思うのです。
 そういった意味でも思い切り悩むべきなのかなと。また悩んで悩んだ人ほど、その次のステップが盤石なものであり、また今までに見えなかったものが見えるのかなと思ったりします。今までは患者さんの悩みを「大丈夫、気にしない」と言ってきたんですけれども、あえて最近はあまりそういうふうに言わないで、むしろ悩んでいただいたほうがいいのかなと、少しは僕自身も賢くなったかなと思ったりするわけです。
 もう一つ、今日お話ししたかったのはここにスライドが出ておりますが、大変な事故(JR西日本の事故)が起こりました。人命というものが現場職人の技量に依存していることを、改めて社会が痛感したわけです。私自身、いろいろなメディアの方やいろんな方にお会いして、「医者って大変ですね。人の命を預かっていますから」と言われます。しかし世の中の現場の人たちは、みんな同じく人の命、あるいはそれに匹敵するような重要なものにかかわっていらっしゃるわけです。
 実際に運転手さんも大変な状況になりました。年齢が23歳、24歳ですか? 非常にお若い。運転手歴11ケ月。そんな人がこういうことをやっていらっしゃるんだなということがほかにもたくさんあるかもしれません。今、社会はそういったものをのぞき込んで検証しようとしているわけです。つまり大学病院で行なわれている手術はだれがやったんだということはまさに氷山の一角で、その他いろんなこと、どういった人がどういう重要な人を任される、あるいはそれに匹敵する内容を持っているのかということをちゃんと社会が調べるようになって、いい時代になってきているのかなと思ってはいるのです。
 とにかくこういう社会の成り立ちですね、上で統括する決まりやシステム、マニュアルをつくるのではなくて、現場の職人に支えられている世の中をもっとみんなが痛感すべきだと思うし、またこういう事故が起こったときに何が問題であるかということを、マニュアルがどうか、教育がどうか、資金がどうかということじゃなくて、現状としてこういった人たちがどういうモチベーションで働いていたのか。その人たちがまさにどういう実力を持っていたのかということを、社会が一生懸命調べよう、正面から向き合ってみようとするようになっているんじゃないかな、いい時代じゃないかなと僕は思っております。
 今日、またご多分に漏れず「あんな考心会に行ったら、南淵先生の本を買わされちゃったよ」と言われたくないんですけれど、一応後ろのほうに「本を買ってやろうかな」という人のために本が並んでおります。去年の考心会以降に出ました『患者力\弱気な患者は命を縮める』あるいは『心臓外科医の挑戦状』の本を置いてあります。
 今日は、東京女子医大で心臓の手術をお受けになった体験を非常に冷静な手記で本に著された石岡荘十さんが見えておられます。ちょうど私が『心臓外科医の挑戦状』を去年12月に出したのと同じ時期に、書店に並べられていました。これはまさに皆さんと同じ視点、目線で書かれた貴重な本であります。今日の会が始まる前に少し話しましたけれど、今まで心臓の手術を受けた人で「私はこういう手術を受けました」と書いたのは関川夏央さん、開業医の高木誠さんの2冊ぐらいしかないと思います。医者が何か適当に書いているという本ではなく、読者の目線に近い形で内容が書かれていると思います。
 それから最後にもう一言申し上げます。去年の考心会から今回までの間に、一つ新しいネタを仕入れました。これは「普通の人」という概念で、あるとき教えてもらったわけです。カルロス・ゴーンさんの「偉業を成し遂げる偉大な人物とはどういう人か。それは偉大な意志を心に秘めた普通の人である」という言葉です。私はこれを見たとき、本当に感激いたしました。自分の心に思っていたことを全く言い当てられたような、本当にいい言葉だなと思いました。
 私は以前から私自身職人であり続けるということを言っております。心臓の手術をする分においては職人であり、専門家であり、それなりの数もやらせていただいています。ある種の権威者であるのかもしれませんけれども、それを除いたら普通の人である。普通はこんなことを言われたらこんなことを思うだろうなとか、いろんなお金の価値観、あるいはこういう事故に対してどんなことを思うだろうなと……。世の中はそうじゃない人もいるわけです。自分は特別だ、自分は貴種であるというような人、選ばれたエリートであるという人たち。そういった人たちが間違えた世の中を引きずっていくんじゃないかなと思ったりする次第です。ですから本当に自分自身も今後、普通の人であり続けることの大切さ、普通の人であるという目線、あるいは物事の考え方、発言の仕方ということを極力心掛けなければいけないなと思っているわけです。ご静聴ありがとうございました。