パネルディスカッション 2005年11月13日(大和市生涯学習センター)

手術体験で人間的に大きくなる患者
      ●司  会 南淵明宏先生(大和成和病院心臓外科部長)
      ●パネラー 伊藤隼也様(医療ジャーナリスト)
            田 国雄様(患者代表)
            大貫武男様(患者代表)

 南淵明宏 今回は新しい企画として、どういう形で皆さんのご意見をくみ取り、またお考えになられていることを確認したり、あるいはこういうことはどう考えればいいのかという道筋を、この討論で示すことができればと思っています。今日お招きしている伊藤隼也さんと私は、いろいろなところでご一緒させていただくことがあります。大貫さんや田さんは会員でおられますし、私も会には毎回参加させていただいております。
 今回のアンケート調査はわが国では初めてです。大体これは医者がやるわけですが、患者さんが自らの手でやったのはほんとに初めてだと思います。伊藤さん、自己紹介を兼ねて、このあたりのご感想からお聞かせください。
 
伊藤隼也 皆さん、こんにちは。医療ジャーナリストの伊藤隼也でございます(拍手)。フジテレビの「とくダネ!」などで皆さんにはブラウン管の中からお目にかかっているかなと思います。もともと私自身は写真家をしていたのでマスコミの世界には非常に近いところにいました。父親を医療事故で亡くしたのが10年ほど前です。ですから皆さんと同じように患者出身というか、患者の気持ちをどうやって生かせば日本の医療は救われるかという視点に立っています。そういう意味では、今のメディアの世界というよりも、ちょっと医療界と近いところがあります。私自身はそういうものを見ていて、「正しい情報は自分で発信するしかないな」と思っています。
 マスコミは真実を書いていると思ったら大間違いで、新聞で「名医」と呼ばれているお医者さんが実は陰でものすごい医療ミスをたくさん起こしているという事実がたくさんあります。
 私はここ数年、フジテレビを中心にいろんな番組に出ています。テレビでは健康の事を扱っていますが、お昼の番組は必ずしも本当のことを言っていないので、皆さんも少し自覚してテレビを見ていただけるとありがたい。(笑)
 そんなことで、まさにここにいる皆さんは非常に幸せだなと思います。大和成和病院と南淵さんという名医に知り合って、ある意味では本当に恵まれた環境の皆さんだと思います。
 ところがまだまだ日本では、多くの患者が恵まれた環境にいるわけではありません。私はこの10年間に相当いろんなことをやってきました。南淵さんとも実は結構コンビを組んでいます。私は南淵さんほどギャラは高くないですが、いろんなシンポジウムや講演会に呼ばれています。南淵さんは目の前にいる患者さんを治すのですが、実は彼は社会も治しています。よく「小医は患者を治す、大医は社会を治す」といいます。
 皆さんはご記憶にあるか分かりませんが、例えば東京医大が患者さんを4人も殺して特定機能病院を取り消しになりました。実は私と南淵さんは裏でひそかにいろいろコンビネーションを組んでいるのです。どっちがぼけで突っ込みかは分かりません。(笑)
 今回のアンケート調査については、まさに日本で初めてで、ほんとに私はびっくりしたのですが、ある意味では病院にとっては結構きついと思います。南淵さんにとっても非常にきついアンケートかもしれません。しかしそういうものを患者さん自らが作り出して、世の中に出していくことはものすごく意義のあることだと思います。そういう意味で今日は参加させていただいていろんなお話をできればと思っています。


 
よその病院で手術不可能と言われた

 南淵 今日はこのアンケートを中心にということで、皆さんのお手元の調査結果についてどう読み解くかと大げさなことになるとは思うのですが、いろいろ話ができればと思います。この中で順番に全部の話をするのは時間がありません。早速、「心臓手術前について」です。
 今、田さんと大貫さんのお2人の紹介がありました。よその病院で「手術は難しいんじゃないの」とか、「心臓病もあるけれども、ほかにも悪いところがある」ということで、今日ここで大貫さんにお会いしたとき、大貫さんは「私は特殊な患者じゃないか」とおっしゃったのです。実は皆さん、それぞれ特殊です。ほんとにいろんな経緯で大和成和病院を選んでいただいております。皆さんは、この中の患者さんの紹介であったり、ご自分で探したり、あるいは娘さんや息子さんがインターネットを見たりと、それぞれです。
 まず4ページです。「医者から手術の必要性を宣告された時を振り返って」ということで、いろいろあります。「医者に任せるしかないと思った」というのは、「ほんとかな、皆さんはもっと医者を信じてないんじゃないかな」と思ったりもします。この辺のところから、田さんと大貫さんにお話を聞きたいと思います。   
 
田(でん) 田と申します。皆さんはこの番組を覚えていますか。2003年4月に「ブラックジャックによろしく」が始まりました。その1週間前です。「あなたの命を守りたい。大発見、これが日本のスーパー熱血医師だ」というタイトルで、約1時間、南淵先生の患者という立場でテレビに出ました。
 私は新横浜駅前の関東労災病院という大きな病院で、「あなたは手術ができません。あと薬で生きるしかないです」と宣告されました。「これはあかんな。まだやりたいことがいっぱいあるし、この若さだし死にたくない」と思っていたら、たまたま大学の先輩が6チャンネルで南淵先生のことを放映していたテレビ番組を見て、僕のところに「すぐ6チャンネルを見ろ」と電話してきました。チャンネルを回して見たところ、南淵明宏さんという名前だけしか分かりませんでした。これはどこの病院の先生だろうとインターネットで調べました。南淵先生の名前を探して、早速、病院に問い合わせました。たまたま空いていたのでしょう。入院日が決まりました。
 最初に説明を受けたときに一番びっくりしたのが、先生が「私は南淵です」とまず名刺をくれたのです。僕は50何年生きていて、病院の先生から名刺をもらったのは初めてでした。それでちょっと変わった先生だなと思いました。(笑)異端児ということは聞いていました。閉鎖的で縛られた医療業界の中で破れかぶれというか、実力を持った医者ですね、医療業界もいい病院は手術の数で評価される基準になってきましたが、南淵先生はそれを切り開いた人だと思っています。
 私は02年にスポーツジムに通っていて、いつも軽快に帰ってきますが、ある日、心臓付近が重い感じで、家に帰ってもなかなか寝付かれません。息子が「おやじ、ちょっと顔色が悪いよ」というので、関東労災病院に行くと、即入院です。「妻や親せきを呼んでくれ」と言われ、これはやばいなと思いました。
 それから半年近く通って、カテーテルをやりました。結果、先ほど言ったような診断を下されたのです。その後、南淵先生に出会い、手術を受けたわけです。私の場合は人工心肺を用いた冠状動脈バイパス手術で約6時間半でした。今でも南淵先生は、「田さんの手術は大変だった」と言われます。先生が「大変だった」と言うことは、ホントにすごい大変だったのではないかと思います。(拍手)
 
大貫 大貫です。私は20年前に脳梗塞で右半身がマヒし6ケ月間のリハビリ後、やっと歩けるようになりました。その後、座骨神経痛で入院、さらにまた4年前には糖尿病で入院しました。糖尿病でも一過性というか、血糖値が900でした。一晩、インスリンを注入されて点滴したときには意識はありませんでした。翌朝、その病院の先生が言うには、900あると半分死ぬんだそうです。たまたま、私は地獄のえんま様に嫌われたのか、生き返ることができました。
 私は農家ですので仕事をしたり歩いたりしたとき、5年ぐらい前から息苦しさがありました。休んでいれば治るのですが、平成15年12月に北里大学病院に行きました。そのときの診断は大動脈弁狭窄症ということで、要は大動脈が50%詰まっているということでした。
 ところが、後はなかなか診察していただけないで、2月になってやっと「カテーテル検査」を受けると、「冠動脈1本が心筋梗塞を起こしています。もう2本はごく細くなって、これが詰まったらおしまいです。詰まらないように気をつけてください。弁はまだ2年ぐらいは大丈夫ですが、2年後には相当悪くなるので気をつけてください」という診断でした。
 カテーテル検査をしたらそういう結果が出たので、すぐに手術をしてくださいとお願いしました。3月29日に女房や子供たちが呼ばれて説明があり、「明日手術します。7時に来てください」というお話でした。私はいよいよ観念しなきゃいけないかなと思っていたのですが、突然お医者さんが見えて「手術ができません」と言うのです。「なぜですか」と尋ねると、「特殊抗体をお持ちになって、しかも大学病院始まって以来の特殊抗体で、危険なのでできません」という説明です。私はO型ですが、O型でも4通りから5通りあるのでしょうが、輸血すると全部固まってしまうのだそうです。
 輸血は1200ccです。それで1ケ月ぐらい私の血をためて手術したらどうなんだと先生に話をしたら、「人工機械を使うと血液が冷えたり温まったりする。そのために赤血球が全部分解してしまうので手術できません。一時退院して様子を見ましょう」と言われ、10日ばかり入院して退院したのです。それから半年間、毎月血液検査に行きましたが一向にマイナスになりません、プラスでした。半年たってもマイナスにならないので「どうしてですか」と質問したら、「分かりません」という答えでした。
 私の家内は民生委員をしていて、南つくし野小学校の障害学級の授業参観に行ったときです。校長先生と親しかった関係で「手術したんですか」と聞かれ、「まだできないで困っている」と言ったら、「今日は南淵先生の奥さんが見えているので、よく話してみてください」と言われ、南淵先生の奥さんとお会いしたのです。でも私は大和成和病院を知らなかったので、ちょっと不安でした。
 病院へは女房が「1人で行ってくる」と言ったのですが、私の病気ですから私が行かなければ分かりません。それで南淵先生に診察していただきました。前の日に北里から全部のデータをいただいて持って行きました。そのデータを南淵先生に見ていただいて、「ここが悪くて手術ができないんだ」と言ったら、「うちはそこは関係ありません」と言われました。「地獄で仏」とはまさにこのことだなと思って、私もびっくりしました。
 8月23日に入院して26日が手術日でした。そのときは、ここにありますように「医者に任せる」しかない。死のうが生きようが南淵先生の腕に任せるしかしようがないと観念して手術を受けたので、不安はなかったです。(拍手)

  病院をどうやって探したか

 南淵 お2人に共通するのは、最初は「重症だ、あんたの心臓は危ないよ」と言われた。でも治療は外科しかない。にもかかわらず手術できない。じゃあ、何もできないじゃないかという不安で過ごしていたところ、たまたま私のことを知っていただいたということですね。
 次の5ページにある「手術を受ける病院の選択」という項目がありますが、田さんは、「自分で探した」になるのでしょうか。
 
 はい、自分で探しました。「手術が終わって、南淵先生から『大成功、よかった。君が望んだんだ。手術の成果を自分でつかんだんだよ』と言われた」と、自分の日記に書いてあります。
 
南淵 それは別に台本があったわけじゃないですね。
 
 もちろんないです。(笑)
 
南淵 大貫さんもアンケートとしては、「自分で探した」に入るのでしょうか。
 
大貫 南淵先生の奥さんの紹介です。(笑)たまたま南淵先生が私の近所なんです。つくし野というところで車で5分ぐらいのところです。
 
南淵 じゃあ、これは「その他」になりますか。
 
大貫 「その他」になると思います。
 
南淵 伊藤さん、これについてはどうお考えでしょうか。
 
伊藤 お2人ともすごい幸運だったと思います。でも、手術できないからとはちょっと無責任ですよね。病院は大きさだけで判断してはいけないなと思います。今は皆さんご存じのように、大学病院が優秀な医療をやっている保証は何もありません。どこのだれに手術をしてもらうかというのは、実は重要なのです。
 さっき症例数の話が出ましたが、症例数も気をつけなければいけません。例えば、「ガンの手術を千例やっています」という。じゃあ安心だろうと思った行ったら、やっていた担当医がまだ3例目だという話もあります。皆さんご自身やご家族が病院を選ぶときの一つ重要なポイントは、「だれに手術をしてもらうか」ということです。これはとても大切です。心臓以外の手術でも、「何例ぐらいの経験がありますか」と具体的に尋ねてください。そのときに「いや、たくさんやっているよ」という人はやめたほうがいいかもしれないです。(笑)
 
南淵 田さんの場合も大貫さんの場合も、よそで「手術できないよ」と言われた。初めて拝見させていただいた私にとっては非常に標準的な症例のように感じました。確かに簡単でやりやすいというわけではないですが、手術できないほどそんなに大変かなという疑問を頻繁に、ほとんど毎週のように受けます。
 例えばこの会をやっていただいている河野勝さんの場合は、手術という点では非常に軽症という状況です。それでも東海大で「手術できない」と、平気で言われる。今、伊藤さんが「症例をたくさんやっているところがいい」という話がありました。大貫さんの不規則抗体の場合、たくさんやっていると年に5人ぐらいまで同じような方がいらっしゃるわけです。去年は540という数を経験させていただくと、いろんな患者さんに出くわします。軽々しく「うちの大学病院で初めての経験です」と言われると、もしそれがほんとに事実であれば、患者さんとしては「えー」と驚きます。自分がほんとに悲劇の主人公みたいになっちゃうと思うのです。ご本人には大変失礼な言い方かもしれませんが、私も北里大学のことを聞いて「そうかな。結構いらっしゃるんですけどね」と思います。
 今、伊藤さんがおっしゃったように、病院はピンキリ、医者もピンキリですが、経験値が一番の原因だと思うのです。病気の見方、感じ方が全然違います。結果、患者さんへ「大学病院始まって以来です」、あるいは「これは手術できません」と平気で言う人もいる。田さん、大貫さん。これに関してどうですか。「うちはできないかもしれないけれど、よそだったらできるかもしれない」という話にならないんですか。
 
 まず、全く情報がないのです。大きな病院というのは安心しちゃう。近くだし、気持ちの上でそこに行けば全部解決してくれるだろうなと思っちゃいます。そこで駄目だったら、「それじゃ、どこへ行けばいいんですか」と聞いても教えてくれない。その情報が全く手に入らないとなっちゃいます。
 
南淵 医者が教えるべきですか。どうですか、伊藤さん。
 
伊藤 皆さん、セカンドオピニオンとかインフォームドコンセントというお話をご存じだと思います。実はインフォームドコンセントというのは今みたいなお話のとき、自分のところではできないが、ほかの病院ではどうなのか、世界ではどうなのかということを本当はきちんと説明しないといけないのです。
 私はたくさんの病院を歩いていますが、実はお医者さんはものすごく狭い世界で生きています。南淵さんの病院だといろんな患者さんがいて、それこそ本当に心臓病やりながらおなかが痛いという話になったりすると思うのです。大学病院の心臓病専門の人は、例えば心臓より少し下がったおなかのことですね、ちょっとでも自分の専門と違うところだとすぐ紹介状を書いて「ほかの科へ行ってください」となる。皆さんはご経験があると思います。患者にとってはそういう情報は極めて大切なのです。そういうところを教えてくれないのはろくな病院ではないと私は思います。
 
南淵 大貫さんはどうですか。北里で「初めて」と言われ、「よそに行きなさい」という話にはならなかった。
 
大貫 南淵先生に診察をしてもらうため北里にデータをいただきに行ったときに、「実は大和成和病院の南淵先生に手術していただく」という話をしたら、「あの先生は有名で腕もいいですから絶対安心です。だけど血液の病気なので、腕のいい悪いとは関係ありません。私は心配です」と言われました。だけど南淵先生は「大丈夫。手術はできます」と言われたので、私は先生を信じて死ぬか生きるかは運任せです。おかげさまで丈夫で退院することができました。
 
南淵 本当にこういう話はよくあります。この中にも女性の方で僧帽弁置換術で、膠原病があるので手術はどうかと尋ねられました。しかし、膠原病の先生、あるいは大貫さんの場合もそうだと思いますが、血液専門の先生に「心臓の手術は安全ですか」と聞いたら分からないのです。なぜかというと経験がないからです。大学病院だから経験がないというわけではなく、いろんな病気をいくつも重ねて持つ場合、患者さんとしては非常にまれになってきます。大貫さんと同じような人が、この10年で何人いたかというと、ほとんど知りません。
 検査といっても、血液を採ってきて試験管の中で見るわけです。体の中で見ているわけではないのです。検査したらこういうまずいことが起こるかもしれないという感じです。「じゃあ、手術したらどうですか」「いや分かりません」というのが本当のところなのです。そういう状況でどんどん治療が遅れていきます。
 心臓病で手術させていただいて、その後、別のところに病気が見つかって、大きな病院に紹介しますと、「心臓が悪いかもしれない、不整脈かもしれない」といろんな病気のことが細かく出てきて治療が一向に前に進みません。麻酔科が「そんな心臓の悪い人の麻酔はできない」「検査もできない」と文句が出てきます。新しい法案みたいなもので、いろんなところから文句が出るとそこでストップしてしまい、実際に患者さんの治療が止まってしまう例を何件も経験しております。伊藤さん、これはどうなのでしょう。大きな病院というのは、みんな責任を丸投げしちゃうわけですね。
 
伊藤 そういうケースが、ごまんとあります。患者さんは自分の病名がどうとかいうことは関係なくて、今こういう症状を治してほしい、心臓病を治して普通に暮らしたいということですよね。医師はそこで患者さんときちんと対話する必要があると思うのです。日本の医療システムでは患者さんと面と向かって話ができないお医者さんが結構います。コンピューターの端末を見ていてコンピューターとは話ができるけれど、患者さんとは話ができないというお医者さんが今はすごく多くなってきています。
 皆さんは心臓病は大丈夫ですが、それ以外の病気に関してはしつこくなって、目の前の先生に「もっと違う方法はないのか」ということをきちんと求めていくべきだと思います。そういうことをぜひ考えてほしいなと思います。

 手術の体験をどう生かすか

 南淵 今、「心臓病は」という話では、田さんも大貫さんもここの会場の方も、それなりに専門であるうちの病院がフォローしていますが、ほかの病気になったらどうするんだということをいつもこの会で質問を受けます。
 しかし普通に考えてみますと、今まで全く病気をしたことのない人、家族も病気になったことのないような人が大きな病気になると情報がありません。しかし皆さんは大きな心臓の手術を受けられたという点では経験があるわけです。例えると家を建てるのと同じです。1軒の家を建てると、次はこうしよう、ああしようと思うわけですね。田さん、どう思いますか。今度、心臓病ではない病気、あるいは家族が大きな病気になった場合、横浜労災、あるいはうちでの体験をどういうふうに活用されますか。
 
 私としては今の経験からいうと自分で探すしかないですね。先生も『患者力』という本を書いていますが、まさにその一言だと思います。受ける側も、今度は必死になって探すという姿勢が大事じゃないのかなと思います。
 
南淵 探せば何か出てくる。
 
 インターネットがこれだけ広まれば、情報は間違った意味でも、いい意味でも、いろいろ入ってくると思います。その中から今度は個人で、自分に合ったものを選ぶという作業がちょっと大変ですが、だけど基本的には自分で必死になって探そうという気持ちはあります。
 
南淵 大貫さんはどうでしょうか。大貫さんが探すという場合は、知人であったわけですね。
 
大貫 そうですね。私も今、田さんが言われたような形でこれから行くよりしようがないなと思います。たまたま私の場合は、女房と南淵先生の奥さんとのご縁で紹介していただいたのですが、なかなかこういう機会はないと思います。だから今、田さんが言われたように、インターネットで見つけるか、それとも大きな病気だったら、2〜3ケ所の病院を歩いて診ていただくのがいいのではないかなと思います。
 
南淵 患者さんの実際の声はこうなのです。伊藤さん、どうですか。情報を自分で探すにはいろんな道具があります。インターネットや本もあります。
 
伊藤 まさに今、医療情報はすごくはんらんしています。実は今の話はすごく大事なんです。さっきも名前を出した東京医大病院はインターネットに、「死亡例ゼロ」なんて堂々と書いていますが、何と8人も死んでいたことが分かりました。ただ、ここにいる皆さんがすごいなと思ったのは、ある1点において南淵さんよりはるかにすごいのです。南淵さんは心臓の手術を受けていません。皆さんは心臓手術の体験者です。(笑)
 
南淵 患者として受けた経験はないですからね。
 
伊藤 私はその経験はすごいことだと思います。皆さんはご自分で、最後は南淵さんや小坂先生とお決めになって手術をした。医療ミスが起きるときに一番問題なのは、自分で納得していないケースがかなりあります。よく分からないけれど、いつの間にか手術されちゃったとか、うまく誘導されちゃったと。皆さんのようにきちんと納得して手術された方というのは非常に貴重です。ぜひこの経験を、さらにご家庭や社会に返してください。病院を選ぶときには、情報はいろんなところにあるのです。
 例えばインターネットもそうですし、本もそうです。その情報をうのみにしないで、自分が重大な局面に立ったときには、人間的にまず信用できるドクターとよく話すことが大事だと思います。次にあまり甘いことばかり言わない人です。危険性もきちんと説明してくれるドクターですね。南淵さんは多分やっていると思いますが、どうでしょうか。
 
南淵 伊藤さんが今おっしゃったように、私自身は手術を受けた経験はないわけです。「受けろ」と言われたら、「嫌だ」と言うかもわかりません。(笑)例えば手術の後、「どれぐらいで仕事ができますか」と言われても、非常に漠然としてはっきりとお答えできない。それが本当に正しいインフォームドコンセントなのかわかりません。唯一、今回のアンケートを、今から手術を受ける患者さんにお渡しするようにはしています。


 
手術後の後遺症について

 アンケートの方に話を移らせていただきますが、7ページ、8ページです。非常に耳の痛い部分で、「手術後の経過」ということです。特に8ページの真ん中の「手術の後遺症」です。後遺症があるかという質問に「はい」と答えている人が29%もいて、非常に耳が痛い。後遺症がある方は、「傷口に痛み」「精神障害」という話もあります。上から、しびれ、むくみ、ケロイドがあったりします。
 私たちも手術後の患者さんを診ていて、「ケロイドでは死にません」なんて割と軽んじたりしますが、こういう形で数字に出てくると、どきっとします。今日お話しいただいた小坂先生、あるいは会場にいる倉田先生、藤崎先生もどきっとしているはずで、こういったものを見れないと手術してはいけないと思います。そういうことで7ページ、8ページ、9ページ、10ページは飛ばしたいと思っていたのですけど。(笑)田さん、このあたりはどうですか。
 
 僕の場合はないです。
 
南淵 なかったですか。
 
 痛みとか、そういうのは一切ないですね。
 
南淵 ない人を選んで上がってもらったんですけど。(笑)そういうわけじゃないですよ。
 
大貫 私の場合も全然ないです。退院して3日目に事情があって、トラクターの運転で畑を2反ばかり耕耘しました。非常に褒められたことではないと思うのですが、そのときでも私の場合は痛みも何もなく過ごしてきました。
 
南淵 言い訳に聞こえるかもしれませんが、傷口に痛み、しびれがどの程度あるかということも、それなりに考えないといけないと思います。
 ただ、伊藤さんがさっきからおっしゃっている「患者さんにとってどうなのか」ということと、医者が考えているような、例えば合併症うんぬんとは大きく違っているのが事実ではないか。あるいは私自身の患者さんでもそうではないかということは本当に痛切に感じます。
 伊藤さん、どうですか。例えばわれわれは手術の合併症というと、「肺炎だ」とか、いろんな大変な厳しいことを考えるわけです。でも患者さんにとってみたら、傷がむくむとか、しびれるとか、ケロイドでも大きな合併症と考えることはあるんじゃないかなと思うんです。
 
伊藤 それはすごく大事です、人間は生身で生きているのですから。私は本当に皆さんはすごいなと思います。私はうおのめの手術ぐらいしかしたことはありませんが、医療ジャーナリストとして、皆さんの声を常に背中に感じながら仕事をさせていただくということがものすごい大事なのです。「良い患者は良い医者を育てる」と言います。南淵さんが「耳が痛い」とおっしゃっていましたが、傷口の痛みはほんとに千差万別で、私なんか痛みに弱くて、痛いととにかく「何とかしてくれ」と訴えるんです。
 日本の医療現場は、患者さんが結構、いい子になっちゃうんです。「白衣性高血圧」といって、先生の前に出ると本当に血圧が上がっちゃう病気があります。逆もあります。先生の前に行くと治っちゃうわけですね。これは皆さん、ご経験で「治ったでしょう、いいでしょう」と言われると、そんな気になって、うちに帰ると「ほんとは痛いんだけどな」みたいなことですね。でもこういうことは1人の声だと、なかなか言いづらいと思います。でも会が代弁してこういうものを出すと、大和成和病院にとっては実は宝の山なのです。こういう宝の山をつくってくれる皆さんを抱えている病院は、素晴らしいと私は思っています。
 痛みとか、むくみとか、ケロイドに対して、大和成和病院は多分これからいろんなチャレンジを、これを基にしていくんじゃないかなと思います。
 
南淵 何か非常にプレッシャーをかけられているような感じです。確かにこれは本当に宝の山なんですけれど、その宝をすぐに活用できるかどうか、ちょっと自信がありません。ただ、このあたりの非常に耳の痛い部分に関して、われわれは肝に銘じてとりあえずこういう現状であるという認識を、みんなで持っていかなければいけないと思っています。
 伊藤さんが今おっしゃっていただいたことは、私も外来であります。「何かいろいろ質問しようと思ったけれど、南淵先生の顔を見たら忘れちゃったからいいです」と、外来をやっている方としてはありがたいのですが、帰ったら「こんなことを言えばよかった」とか、「これも心配だ」と患者さんは思っていらっしゃるのかなと痛切に思うわけです。こういった形でも少しはそれをくみ上げられたのかなと思います。

 手術後の不安や悩み

 12ページの「手術後の不安や悩み」に移ります。ここでは割と意外だったのが、「再発の不安」です。もちろん病気の特異性、本質的な部分、例えば冠動脈の手術であれば動脈硬化ということで、新しいバイパスをつけてもそのバイパスの流れが悪くなったり、あるいは別のところが詰まってくるということは、当然ありえます。しかし、ある種、病院というものを皆さんは実体験されていて、「病院というのはあんなものか」「治療ってこんなものか」ということで少しは安心されているところがあるのかなと思った割には、この「再発の不安」を思っておられます。
 それから12ページの「手術後の不安や悩み」にある「薬の副作用」ですね。患者さんの中には、「高尿酸血症(通風)の薬で肝炎になったと新聞に出ていた」とおっしゃる方がいます。薬に関しては、いい意味で情報が出るようになったせいでしょうか、皆さんは非常に関心を持って新聞を読んでいらっしゃると思ったりするわけです。田さん、この「手術後の不安や悩み」に関してはどうですか。
 
 名前が変な意味で売れちゃったので、「あの人に頼むと危ないな」ということで仕事量が激減しました。最近は戻ってきましたけれど……。まだ若いので経済的な不安が大きかったと思います。でも徐々に回復しています。
 
大貫 私は20年前に脳梗塞をやってから、女房の扶養家族みたいになっているので、ほとんど仕事はしていません。だから別に、手術後の不安は今のところはありません。いつ死んでもいいかなと思っているのですが、おかげさまで、まだ死なないで元気でいます。
 
南淵 冗談ではないのですが、私がまだまだ年端もいかない若造のせいでしょうか、患者さんの中には大貫さんのように解脱の境地と申しましょうか、死生観を飛び越えてしまって、ほんとに今の瞬間を思い切り楽しく生きている人がいらっしゃいます。しかし、それもやはり病気をしたということでしょうか。
 
大貫 そうですね。ただ、今は道楽というか下手の横好きで、今日も午前中は詩吟の大会があったのですが、40人ばかり詩吟を指導しています。どちらかというとそれが仕事のようになっています。
 
南淵 伊藤さんは先ほどから、「患者さんは偉い」と言われました。私自身も手術を受けたわけではないので思うのですが、患者さんはこういう医療体験で、知識の面でも、病院を選ぶテクニックでも、人間性という点でもどんどん大きくなっていかれるのかなと思います。手術を受けていないわれわれ2人は未熟者と思うわけですが、どうでしょうか。
 
伊藤 ほんとにその通りですね。病は人にいろんなもの、苦しみや痛みや悲しみを与えると思います。哲学的な話になっていますが、人間はそれを乗り越える強さがあります。私はこの会はすごいと思います。例えば大学病院でも患者の会があるのかもしれませんが、みんな治療してもらうとほとんど一生会わないみたいな環境です。でもこれだけ皆さんが一堂に会して会を運営して、同じ病を経験した人たちが同じ気持ちになるというのはすごいと思います。
 私も父親を医療事故で亡くしています。最初は同病相哀れむで、医療事故でお子さんやご家族を亡くされた人たちと、日本の医療を変えたいと思って今日まで生きてきました。先ほど「2度目の命」というお話もありましたが、南淵さんのメスを通じて、皆さんがまさにそういうパワーを天から授かったわけです。
 日本の医療を変えられるのは、本当に患者さんだけしかないと私は思っています。残念ながら医療界には自浄能力はほとんどありません。メディアも多少力はあるんですが、全体的にいうと皆さん一人一人が1票を持って医療を変えるしかないのです。この会は神奈川県といわず、東京、日本の医療を変える原動力になってほしいなと思います。(拍手)
 
南淵 伊藤さんの活動で私も今月28日に東京地裁で、患者さんの原告側証人として出廷いたします。そういうときにほんとに思うのは、医療に対してある種、被害を受けた方の当事者が声を大にしてみんなに訴えかけていくことが医療を良くする、本当に一番の第1歩なのです。皆さんはたまたま私のやった手術、小坂先生、藤崎先生、倉田先生も手術が上手で結果がうまくいっているわけです。
 でも、それは自分が命がけで手術を受けた立場です。つまりそれは周りの人からすると、とんでもない経験をされている、届かない高いところにいる立場なのです。そういった方々の発言はほんとに重みを持って、みんなが聞いてくれることは間違いない。大貫さんや田さんはどうですか。こういう自分の体験は本当に貴重です。体験していない人は多いですから、そういうことを周りにお話しされることはありますか。
 
 仕事上いろいろなところでしゃべる機会が多いです。ちょっと記憶が定かではないのですが、ある心臓手術を受けた方があまり元気がない。私はごらんのとおり、だれが見ても心臓手術をしたとは思えません。ということで、心臓手術を受けてもこんなに元気になるんだよという姿を私は体現しているつもりです。常に元気でという気持ちがあり、それはいつも思っています。
 心臓手術をなさる先生方からも、心臓手術をしたらすごい元気になる、標本だよ、見本となれというような叱咤激励を受けているような気もします。だから負けないで現場に復帰して、日本の政府に協力していろんな意味で立ち直って元気な姿で戻るというのが大事かなと思います。(拍手)
 
大貫 私は心臓手術をして良かったなと思うのは、もちろん元気になったのはいいんですが、道楽の声が高くなりました。(笑)非常に楽に高い声が出るようになりました。そのおかげで、なかなか声が出ない生徒さんは「私も心臓手術しようかしら」という話が出ています。詩吟でいうと、一般的には男の人は1本2本という高さでやるのですが、私は3本4本という、女の人よりちょっと低目ぐらいの声まで出ます。練習のときには女の人と同じ6本ぐらいの声で練習できます。そこが心臓手術した後の違いだと思います。(拍手)

  手術後の健康維持

 南淵 では次の「健康維持」に移らせていただきます。これは手術をお受けになられた方以外の人にも大変興味があると思います。昨日フジTVから、1月29日放映予定の「あるある大事典」で何かいいネタはないですかと来ました。そこで「こういう病気があるよ、病気というのは非常に理不尽だよ」と言うと、「テレビですから一つの情報として、こういうことをすれば病気にならないとか、こういう兆候があればすぐ病院に行ったほうがいいことを教えてください」と聞いてくるわけです。そんなものあるわけないです。あったら私が教えてほしい。
 ほんとに病気というのは理不尽に襲ってきます。またいろんな健康食品やサプリメントや体を動かす健康器具があります。今はいろんな情報がひしめいていて、どの情報も本当に信用できるのかなということがあると思います。
 この15ページの上の「散歩」は74%の人がされています。これは病気したことがない人に比べると、圧倒的に多いと思います。もちろん人間だれでも散歩はするわけですが、この回答の「散歩」というのはやはり自分の健康に気を使って、自分の体に良かれと思って歩いているのではないでしょうか。1日5キロ、それ以上歩く方もいらっしゃるわけです。自分の体に気を使う、あるいは鍛えなければいけないということに関しては、どうですか。田さん、大貫さん。
 
 私の場合は1日1万歩で、ちゃんとつけてやっています。
 
南淵 1万歩というのは何キロぐらいですか。
 
 私の経験上、大体2時間ちょっとぐらいが1万歩です。
 
南淵 2時間。すごい距離ですね。
 
 結構、歩くんですよ。結構、重いんですよ。1日のうち、朝1時間、夕方1時間と決めたり、そんな形です。
 
南淵 5〜6キロになりますね。
 
 そうですね。6〜7キロになると思います。結構、重労働です。犬がいればいいんですが、犬もいないしだれもいない。何かぼうっとして歩いている。(笑)夜なんか、変なおじさんに見られるのでそれを気をつけないといけない。ジョギングまでいっちゃうと重くなるので、散歩ですね。
 
大貫 私の場合は改めて歩いてはいません。ただ、仕事が農家ですから、仕事自体で体を動かします。なぜ歩かないかというと、脳梗塞をやったとき非常に不安定になりました。そのときに歩かなきゃいけないというので女房と散歩したんです。犬じゃないけれど、私は腰ひもをつけられて引っ張られているんです。右足がマヒしているので右足を着くと、すぐに左足を出すのです。今でも多分、皆さんより歩き方が速いと思います。そういう後遺症というか、いまだにそのくせがあります。「なるべくゆっくり歩きなさい」と言われているのですが、どうしても速くなっちゃいますので、あまり散歩するとか、ジョギングするということはしておりません。
 
南淵 最近、手術をお受けになられた方はご存じだと思いますが、大和成和病院では、上原さんが非常に積極的に、急性期で手術の後に体を動かすということを指導されています。心臓のリハビリです。でも心臓の手術を受けた人とは関係なく、人間は体を動かさなければいけない。最近は酸素を取りながら体を動かす散歩だけではなくて、筋力もつけたほうがいいと、いろんな方がそういう意見を支持されています。
 それに関して藤崎先生が来週、アメリカに行って勉強してまいります。15ページの上の「現在どのような運動をしているか」ということですが、健康維持のための運動に関して藤崎先生にアドバイスをいただきたいと思います。

 健康維持のための運動

 藤崎 今、運動のことで南淵先生からお話がありました。ちょっと前に戻って皆さんは手術後の痛みに困っています。今年4月に学会でサンフランシスコに行ったとき、非常にいいリハビリの道具を見つけ日本に輸入して、7月から患者さんに利用してもらうようにしています。
 どんなものかというと、女の人のブラジャーみたいな器具です。動いたり、せきをするときに、ハンドルが2個ついていてそれをぐっと締めると胸を非常にしっかりとキープしてくれます。手術を受けた方は最初の3日間ぐらいは、せきをするときに非常に強い痛みがあって苦しまれたと思います。その痛みのデータを取ってみると、使わずにせきをするときの痛みを10とすると、大体半分以下の痛みになるという器具です。値段はちょっと高い1万5千円するので、「買うのは自由ですよ」とお話をするんです。
 これから手術を受ける患者さんが「実際のところどうなんでしょうか」と、手術を受けた患者さんに聞くと、「これは絶対に買ったほうがいい」と言われます。 
 リハビリテーションに関しては、人間というのは必ず衰えていくのは避けられません。何も使わなければ筋肉がどんどん衰えていきます。厚生労働省がこのたび発表した「いかに医療費を減らすか」の中に、今後15年から20年間で糖尿病の患者を20%減らす、高脂血症の患者は15%、高血圧の患者は10%減らすという目標があります。ところがどうやって減らすかというのは何も言ってなくて、「どうやってそれを減らすんだ」と思います。その中で中心になってくるのは運動だと思います。介護保険もそうですが、要支援から介護認定を受けるために、その間のリハビリテーションを自分で努力してない方に対しては、これから介護保険の申請は非常に難しくなるといわれています。
 私は退院する患者さんに、「家で何を注意するか」を言います。病院は段差が全然なくベッドから寝起きで、特に太ももの筋肉や骨盤の筋肉が落ちて足が上がらなくなっています。結局、家へ帰ったときにちょっとした段差につまずいて骨を折ってしまいます。自分の今までの経験の中では、手術して家に帰って1週間以内にころんで大腿部頚部骨折、あるいは顔面を打って頭に出血を起こして病院に逆戻りした人が2人います。
 そういうことになると何のために手術をしたのか、全然分からなくなってしまいますので、やはり筋力をつけるというのはご自分の努力です。散歩は非常にいいことだと思います。どのくらいの運動をすればいいのかというのをよく聞かれて、「困ったな」といつも思うのです。正確にこのくらいの運動をしてくださいと実は測定する方法はあるのですが、一般的な方法では機械自体も非常に高価なもので、それをやることがどれほどのためになるかというのでまだ導入していないのです。どのくらいかというところになると、「つらくない程度」というのが大事だと思います。
 心臓病になる方の中の一つの気質としてA型気質があって、何でもかんでも自分で思い通りにやらないと気がすまない。「ここまで」と決めたらそこまでやらないと気がすまないのです。仕事も、電池が切れるまで動き続けている方が実は多かったりするのです。そういう方に「リハビリしなさい」と言うと、「ハァハァ」言って顔色が悪くなりながらもまだやっている人がいます。これはかえって体には良くないということです。
 十分な酸素を取り込みながら、歩くときも太ももを高く上げる、歩幅を大きくする。腰を曲げて下をうつむいてちょこちょこ歩くのではなくて、骨盤の中の筋肉、あるいは太ももの筋肉、ここの筋肉をつけたいんだと意識して歩くことが非常に大事です。だから手も大きく振っていただきたいのです。
 実は術後の患者さんの中で、外来で多い訴えというのは「肩甲骨の裏側の部分が非常に痛い」ということです。実際にそういう方に「どうですか」と手を上げてみると、ここまでしか上がらないのです。自分の手を「こうやってください」と言っても上げられないのです。なぜかと言うと、この筋肉が硬くなって肩が全然動かないのです。その状態を続けていると今度は肩も動かなくなってくるので、退院のときに上原さんは「必ず肩体操を家でやってください」と言って、パンフレットを渡しています。
 せっかく心臓の手術を受けて元気になるわけです。今まで生活上の悪い習慣が病気を引き起こしている部分があります。心臓というものを治したら、今度はもっといい生活習慣をつければ、今までよりもっと元気になれると私自身は思っています。先ほど「再発の心配」という話がありました。運動することによって、血糖値が下がる、血圧が下がる、コレステロール値が下がるというのは証明されているわけです。リハビリテーションというのはできる範囲で、ここまでやらなければいけないというのはないのです。
 今度アメリカに行って、どんな運動をどのくらいやればいいのかというプログラムがあるはずなので、何とか仕入れて、またそういうものをご紹介できたらと思っています。(拍手)
 南淵 まだまだいろいろお話ししたいこともあるのですが時間がきました。今日はこういったところで、いろいろお話をいただけたと思います。どうも、皆さん、ありがとうございました。(拍手)