折茂政幸先生(成和クリニック心臓ドックセンター長) 

2010年10月11日(センチュリーホテル相模大野)

演題「心臓病の予防について」

心臓、血管を悪くしないようにするにはどうしたらよいかを研究してきました

 昨年4月に成和クリニックに参りました。クリニックでは何をやっているかと言いますと、成和病院は患者さんも外来も多いので、非常に込み合っています。まだ手術が必要ないとか入院ではない分野で普段の生活に対
するご協力ができるのではないかということで、病院とは違う外来部門として成和クリニックは機能しています。
 成和病院では三宅先生や菅原先生がカテーテルを普通になさっていらっしゃいます。私も若いころはカテーテル治療もやっていました。カテーテル治療をしていて、実際に血管が狭くなったり詰まったりというのを治すことはとても大事ですが、それより一歩手前の、血管を悪くしないようにするにはどうしたらいいかという問題があります。
 そのための研究、新しい治療法を見つけようということで、大学院でずっと研究をやっていました。その経験を踏まえて皆さんの心臓や血管を悪くしないようにするにはどうしたらいいかということを外来でお話したり、問題がある数値に関しては薬を使って改善することを行っています。
 今日は「心臓病の予防」というテーマですが、ここにはすでに心臓病を体験された方、あとはご家族などご自身ではまだ心臓病を体験されてない方がいらっしゃるかと思います。体験されてない方というのはどのくらいいらっしゃいますか。手を上げていただいてもいいですか。結構、皆さん、経験をされているんですね。わかりました。心臓病になられた方と、心臓病にならないようにするためにという2点でお話をしたいと思います。
 実は予防というのは1次予防と2次予防というのがあります。1次予防というのは、まだ心臓病になられてない方が心臓病にならないようにしようということです。2次予防というのは、すでに心臓病にかかったことがある方が、また別の血管を悪くしないようにとか、病状を悪くしないようにすることです。どちらも共通する部分がありますが、それぞれに気をつけていただきたいことというのは人それぞれです。皆さんご自身に該当することをぜひ覚えていっていただければと思います。

心臓病を防ぐにはその原因を知り改善治療を行うことが必要

 心臓病を防ぐには。順序としてはまず心臓病の原因を知る必要があります。例えば生活習慣病だったり、高血圧とかコレステロールとかいろいろ言われていますが、皆さんそれぞれに当てはまる原因です。皆さんご自身にとって、何が原因だったのかというのを知る必要がありますので該当することをよく理解していっていただきたい。
 原因がわかったら、その原因を改善治療することが必要です。それもまた皆さん、人それぞれ改善する方法、治療法というのは異なります。治療した上でさらにその状態を確認して、薬は飲んでいるけれども数値がまだよくないということになれば、本当の意味できちんと改善されていることにはなりません。
 私自身も皆さんにたくさん薬を出すのは心苦しいのですが、皆さんがたくさんの薬を飲まなければいけないということは病状が悪くなっているということで、きちんと改善した状況になっていなければ当然薬も増えてしまいます。
 薬が増えるというのは実はあまり悪いことではありません。よく外来の患者さんに、例えば眼鏡をつくりますねという話をするんです。眼鏡をつくると、最初につくった眼鏡のままずっと使える方というのはほとんどいません。なぜかというと視力がずれてきて眼鏡が合わなくなってくる。そうするとそれにふさわしい眼鏡をまたつくり直さなくちゃいけないのと同じように、最初に飲み始めた薬のままでいけるという方はほとんどいないのです。
 状況に合わせて薬を変更したり、よりふさわしい薬が新しく出てきたりとかということもありますので、必ずしも途中で薬が変わるということは悪いことではありません。病状にふさわしい、いいコントロール状況になるように医者が苦心して処方しますから、どこが悪くてこの薬だったら何がいいのかという理由をよく聞いて納得したうえで治療に専念していただきたいと思います。数値があまりよくなっていないと、今言ったように薬を調節したり変更したり、あとは普段の生活をこういうふうに気をつけていたけれども、それでは不十分だということにもなると思います。

心臓病の原因ー遺伝的なもの、加齢、動脈硬化、生活習慣の変化

 まず心臓病の原因について考えていきたいと思います。心臓病は疾患によって当然原因が異なります。こちらに挙げた病気で一般的にはどれがどれというわけではないのですが、まずは遺伝的なもの、もう一つは年齢です。この二つはどうしても仕方がないことです。あとは動脈硬化、生活習慣病、さらには溶連菌などが感染して心臓の弁が壊れたりということもありますので感染症と書いてあります。
 それぞれがどのように作用するか。特に心筋梗塞、大動脈解離、弁膜症あたりに焦点を当てご説明します。
 まず一つは遺伝的な要因。よく皆さんがご心配になるのは家族に心臓病の方がいて、「私はどうでしょうか」とおっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。遺伝的なものというのは生まれながらに将来心臓病を発症するとわかってしまうというもので、そういう遺伝というのも実はあるんです。
 ただ、今の段階で遺伝子治療というのがなかなか困難ですので、遺伝的な要因がある方というのはむやみにそれを心配することはありません。なぜかというと、心配しても治せないからです。例えば心臓病の方が多いという家系であれば、ほかの方よりも今から挙げることをより注意していただければ、遺伝的要因はさほど心配しなくていいのではないかと思います。
 もう一つは加齢です。心臓病の方というのは若い方はほとんどいません。今まで長いこと心臓が何十年も動いてきて、その結果として起こるということです。逆に年をとって全く心臓の働きが衰えないのかというと、そういうこともありません。例えば皆さんの顔にしみができたりしわができる、白髪が増えたりもする。見えるものというのは日々変化していきますから変化を実感しやすいのですが、心臓やおなかの臓器などは体の中にあって見えない。変化がわからないんですが、確実に変化しています。
 心臓の場合は別にしみができるわけでも、しわが増えるわけでもないのですが、一つは心臓が大きくなることがあります。レントゲンを撮ると「心臓が拡大していますね」と言われたりします。心臓が大きくなると不整脈が出やすくなります。あとは心臓の動き自体が低下するのと弁膜症もあります。
 心臓というのは1日10万回も動きます。1日10万回掛ける365日でそれが何十年です。それだけ使っていれば電化製品でしたらとっくに調子が悪くなってしまいますが、そういう意味では心臓というのはすごく高性能にできています。でも年齢が70歳、80歳、90歳になっても悪くならないということはありえません。年齢をとるに従ってやっぱり注意しなくてはいけないことが増えてきます。
 もう一つは生活習慣の悪化です。生活習慣の悪化と言いましても、皆さんは「俺は普通にちゃんと生活しているよ」と感じておられるでしょう。そもそも今の現代社会が心臓病に限らず、病気を起こしやすい環境にあるということです。それはどうしてかというと日本が便利になったということです。
 便利になって公共機関が発達して、体を動かさなくて済むような生活になった。体の負担がかからなくて、実はかえって減った病気というのもあります。例えば今の若い方はほとんど腰が曲がらなくなりました。それはなぜかというと、昔は体に負担をかけていろんな労働をしていましたが、そういうことをしなくなったことで腰の曲がっている方が少なくなりました。
 便利になって現代社会で減った病気もあるのですが、かえって困ったことになって病気になってしまったというものもあります。今の生活習慣の悪化といった部分ですね、それについて今からご説明します。
 昔だったら誰でも歩いていた距離を今は車で移動したり、エスカレーターやエレベーターで上がったりします。例えばテレビのリモコンですね。昔だったら座っているこたつから立ち上がってチャンネルを変えてまた戻ってくる。それを1日何回もやっていたわけです。今では座ったままリモコンで全部調節できてしまいます。そのちょっとした距離を立ったり座ったりというのは、年齢とともに衰える足腰の筋力低下を防ぐにはすごくよかったのです。
 ですから外来にみえる私の患者さんには、「テレビのリモコンはテレビの前に置いておいてください。机のところには置かずにチャンネルを変えるときにはテレビの前に行ってリモコンを押してください」と言っています。そういった事をやらなくなってしまったために足腰の機能の低下を招いています。

年齢とともに基礎代謝が減るから減った分だけ体重が増える

 もう一つは今問題となっているメタボリックシンドロームですが、内臓脂肪の蓄積、内臓肥満です。内臓脂肪がたまることによって生活習慣病になりやすくなる。先ほどの生活習慣の悪化と直接関係します。それに生活習慣病は遺伝的要因も影響します。例えば血糖値が上がりやすいとか、コレステロールが高くなりやすいという方がいます。あと年をとるに従って起こるもの、例えば高血圧というのは年齢とともに増えてしまいます。
 こちらにあります生活習慣病。高血圧にしても、コレステロールにしても、糖尿病にしても、あとは「肥満」とここに書きましたが、年齢とともに実は普通と同じような生活をしていると皆さんは体重が増えてしまうのです。生活は何も変わってないし、動いているのに体重が増えて、もしくは体重を減らすように気をつけているけれども体重が減らないと皆さんおっしゃいます。
 それはどうしてかというと、年齢とともに基礎代謝量という体に必要なエネルギーが減ってきてしまうからです。すると同じように食事をしていると基礎代謝量が減った分だけ、その差額がだんだん体重の増加になってしまう。これは難しいですのですが、年齢とともに筋力量をアップするように運動する。もしくは年齢とともに食事の量や質、カロリーを減らしていかないと体重が増えてしまうということになります。 
 あとは生活習慣では喫煙とか運動不足とか飲酒といったものがあります。これらがすべて動脈硬化に影響します。あとはちょっと関係なさそうに見えますが、弁膜症も年齢的な変化と動脈硬化が原因で弁置換術をなさった方もいるかと思います。
 いずれにせよ動脈硬化が中心的な悪役というか原因になって、それがもとで心筋梗塞、狭心症、弁膜症、心不全になる。大動脈でしたら大動脈瘤になってしまいます。まず最初に生活習慣の悪化のところからお話をしていきます。

人間の遺伝子は10万年前の飢餓時代と同じ

 ライオンが出てきました。自然界ですね。先ほど現代社会が悪いと申し上げました。そもそも人間ももとを正せば自然の中で生活していたわけですのでお猿さんみたいなものです。野生の動物にとっては毎日が生きるか死ぬかです。皆さんの中にも毎日生きるか死ぬかと感じて生活している方がいるかもしれません。自然界の野生動物の生活で、一番大きな問題になっているのは食事です。食べるか食べないか、食べられるか食べられないかですね。
 ライオンも毎日食事を満腹にしているわけではなくて、その日に獲物が取れなくて食べられないこともあります。ですから獲物が取れたときに、できるだけエネルギーを補給するという生活が自然界では普通です。つまり常に飢えと闘っているということです。人間の場合、飢えと闘っている人や国もあるかもしれませんが、少なくとも今の現代日本ではそういったことはありません。
 何を申し上げたいかというと、動物としての人間は本当はこういう生活に向いているということです。人類は今のこの形になったのがおよそ10万年から20万年前と言われています。こちらは歴史的に古い洞窟の壁画です。弓を持って動物を追っていますが狩猟生活が中心でした。これはまさに先ほどのライオンと同じです。人間もこういった生活をしているのが普通でした。
 それが約1万年前に農耕生活、畑を耕して狩猟だけじゃない生活が始まりました。日本では何とようやく2千年前です。人類が誕生してからこの農耕生活を始めたのもそもそも日本では2千年前なのです。当時の古い農耕生活というのは自然に影響され収穫も安定しないで飢饉も多かった。先ほどのライオンと同じで、常に飢えと闘っていたということです。
 現在のような食事情はごく最近です。人類の歴史を24時間で例えると、誕生してから狩猟だけの原始的な生活が23時間50分ぐらいあります。今の農耕生活というのが23時59分からです。つまり、長い人類の歴史の中で農耕を始めたのがそもそも残りのあと1分のところでようやく始まって、さらにそれが2千年前、1万年前ですから今のような食事環境になったのは人類にとってはほんの数秒間の出来事です。
 遺伝子は10万年前からの遺伝子を受け継いでいます。なぜかというと、遺伝子はある新しい状況に適応するまでに8万年ぐらいかかると言われています。そうすると人類が誕生してから10万年ですから、新しい人間の遺伝子としてはほとんど進化していなくて、遺伝子の記憶というのはまさに先ほどの動物を追っていた飢餓時代のままの遺伝子を皆さん方は持っているということになります。

人間の遺伝子は飢餓には強いが飽食には弱い

 先ほど「ほんの数秒間」と言いましたが、現代の食料事情に遺伝子が対応できてないんです。というのはどういうことかというと、日本人に限らず人類すべてがもともと飢餓に強いように、遺伝子的にこの10万年の間に成長してきてしまっているのです。そうすると食事がたくさんいつでも手に入る状況というのに慣れていない。ここに書きましたが、飢餓には強いけれども飽食に弱いことです。それがためにいろんな病気になっているというのが現状です。
 飢餓時代には実は少ないエネルギーで生き残れる遺伝子がよかったのです。少ないエネルギーで生き残れる遺伝子というのはどういうことか。効率よくエネルギーを体にため込むような能力を人間は持っているのです。つまり食べ過ぎたら食べ過ぎただけ、どんどん身になってしまうのです。
 逆にすごくたくさん食べても全然太らないという方が中にはいますが、そういう方というのはちょっと遺伝子の質が違います。そういうのを「浪費遺伝子」と言います。体質的に例えばコレステロールが上がらない、血糖値が上がらない、体重も増えないという方は、動脈硬化という意味ではいいのですが、10万年以上前のころにはそういった遺伝子を持っていると生き残ることが出来ませんでした。要は飢餓でどんどん食べられない状況があると、そういう遺伝子というのは子孫を繁栄できなかったのです。
 飢餓時代が長かったために子孫を繁栄したのは、この少ないエネルギーで生き残れる遺伝子を持っているからです。我々がその末裔ですから、効率よくエネルギーをためてしまう体質を多くの方が持っています。残念ながら今の時代にはかえってこの性質がとても不利です。つまり摂取したエネルギーを過剰にとることに慣れていないので、肥満や糖尿病になりやすい性質を多くの方が持っているということです。

理想的な生活習慣は農耕生活、理想的な食事は精進料理

 では理想的な生活習慣とはどんなものでしょうか。先ほどの壁画のような生活をしていただくのが一番いいのです。もしこの生活に戻れればです。今の生活を放棄していただいて、まだ開墾されてないような土地に行って畑を耕して、体を使ってあまり野菜も取れなくて天候が悪いときには食べるものもあまりなくて、ということのほうが、実は人間というのは健康でいられるのです。
 実質そういった生活というのは脂質とか糖質をとるのは大変難しいです。脂質というのは動物でいったら狩りをしてほかの動物を獲得したときだけです。動物はほとんど糖質は必要ないと言われています。よくペットに甘いものを食べさせないでくださいと言っているのはそういう理由です。だから本当は人間は甘いものを食べて大丈夫な体質なのかというと、実は人間も甘いものはたくさん食べないほうがいい体質であることは動物と変わりません。
 理想的な食事というのはこういうイメージ、お寺の精進料理です。よく今だと例えばタンパク質をとらなきゃといって、お肉を食べる――今の皆さんはそんなにとられないと思いますが、一つ皆さんと話していてよく感じるのは乳製品です。乳製品というのは動物性脂肪がたくさん含まれています。乳製品も実は心臓病を起こしてない方、あとは育ち盛りのお子さんだったらいいのですが、心臓病になって血管を痛めたことがあって病気をお持ちの方は、乳製品をあまりとらないほうが実はいいのです。
 じゃあカルシウムはどうするのかという問題があると思います。カルシウムは別のもので補給できるので、私の外来の患者さんにはカルシウムはこういうものでとって乳製品はできるだけ控えるようにしましょうと言っています。そうすると実際にコレステロールが高い方に、私が幾つか注意した乳製品とか動物性脂肪を減らしていただくだけで簡単に検査の値が10、20下がってきます。
 私自身はできるだけそういったものを普段とらないようにしています。私の家には牛乳も卵も置いていません。牛乳や卵を置いてなくてもこれだけ順調に育っていますから、そういったことを気をつけてとらなければいけないということはありません。食事に対しては誤解があって、今の栄養学というのがそういう誤解を生んだ原因です。そういった誤解も少しづつお話しするなかで意識を変えていただけるといいかと思います。

内臓脂肪をためなければ生活習慣病、心臓病まで予防できる

 次に心臓病の発症のメカニズムについてです。先ほどの遺伝的な要因と加齢に関しては残念ながら簡単に改善することが不可能ですが、今言った生活習慣の問題から来るところは「改善可能」と書きました。そちらをぜひ改善していきましょう。一つは内臓脂肪の問題です。
 この内臓脂肪を蓄積しないことによって、それから後に続く生活習慣病、動脈硬化、あとは心臓病まで予防する手助けになります。皆さんは内臓脂肪のCTを撮られたことがありますね。これはCTの写真です。向かって左側は内臓脂肪がたくさんたまっている方。右側は皮下脂肪が多いけれども内臓脂肪はそれほど多くない方で、どちらもウエストのサイズは同じです。もしウエストサイズの問題だけだったらこんなに内臓脂肪のことについて言いません。
 この内臓脂肪が皮下脂肪と違う最大の理由は生理活性物質と書きましたが、実はただ細胞の中に脂をため込んでいるのが内臓脂肪ではないのです。内臓脂肪がある程度たまってこれ以上ためられない状況になると、内臓脂肪を違う安定させた形で体にためましょうというのが皮下脂肪です。内臓脂肪がまず先にできるというか、内臓脂肪が増えやすいんです。銀行でいうと定期預金みたいなものが皮下脂肪だと思ってください。逆に言うと皮下脂肪というのは定期預金になっていますから、それを減らすというのはとても難しい。逆に内臓脂肪というのは増えやすいけれども減らしやすい。
 これは内臓脂肪の細胞をイメージしてつくったものです。小さい内臓脂肪から脂をたくさんため込んで大きくなります。この大きくなった内臓脂肪というのが実は悪者です。小さいうちは悪くないのです。小さいうちは今の生理活性物質がバランスよく出ています。これがいろんなものの例です。脂肪細胞自体が大きくなると、新生理活性物質のバランスが崩れてしまう。それが一番悪い原因です。
 内臓脂肪が増えるとどうなるか。まず糖尿病が起きやすくなります。どういうことかというと、太るから糖尿病になるんだろうと皆さんは漠然と思われています。実際には体の中でいろんなことが起こって、内臓脂肪が実は血糖値を下げにくくする物質を出してしまう。どういうことかと言いますと、糖尿病で治療されている方の場合には内臓脂肪を減らすことによって血糖値のコントロールがよくなる、もしくは薬が減ることもあるので内臓脂肪をぜひ減らせるようにしてください。さらに内臓脂肪が増えると、これはレプチンと書いてありますが、さらに太りやすくなってしまうのです。そうするとどんどんたまってしまいますからそれを防ぐのがすごく難しくなります。
 動脈硬化に関しては、直接影響して動静脈を傷つけやすくする物質が出てきます。細胞とか血管もそうですが、いろんなところで炎症が起こりやすくなります。炎症が起こりやすくなると動脈硬化というのも発端は傷がついてそれが固まろうとして動脈が詰まってしまうものですから、血管に炎症が起こるというのは非常によくないことです。動脈炎とか血管炎というのもありますが、内臓脂肪が増えるだけでそういうことも起こってしまいます。
 こちらは「プラークの破綻」と書きました。動脈硬化が起こっているところがより崩れやすくする物質が脂肪から出てきます。あとは血栓症。血が固まらないようにする物質が実は出ていますが、それを邪魔してしまうものが増えてしまうのです。そうすると内臓脂肪が増えただけで血液が固まりやすくなる、脳梗塞、心筋梗塞を起こしやすくなるということが起こります。

血管を古い水道管のようにしないには血液をきれいな状態にすること

 続いて生活習慣病が心臓と動脈硬化に与える影響について。こちらの下の写真が動脈硬化のちょうどプラークというものができている状態です。本当はこの丸いのが血管だったのですが、ここにプラークができてしまっていて、もともとの血管が太さとしては半分ぐらいになっているという状態です。動脈にこのように炎症を起こさせる物質というのは内臓脂肪からたくさん出てくるものもそうですし、高血圧だったり、コレステロールだったり、高血糖などが血管を傷つけるので、動脈硬化を促進します。
 動脈硬化というのは、上に黄色くプラークをかきましたが、こういったプラークが邪魔して血液の流れを悪くするというものです。動脈硬化が起こると直接関係ないように思われるかもしれませんが、心臓の負担が増えてしまいます。心負荷の増加。これによって心臓が肥大しやすくなりますし、心不全になりやすくなります。あと臓器の血液の流れが悪くなったり途絶えたりすることによって臓器の機能の低下、壊死が起こるとそれが心筋梗塞になりますし、これがおなかや足の血管に起これば閉塞性動脈硬化症の原因にもなります。
 動脈硬化が起こると硬いものは一見よさそうに思えますけれども、実は硬いものというのは当然割れやすくなりますから、動脈解離や動脈瘤、あとは脳卒中、脳出血の原因にもなります。
 この写真は動脈硬化とは全然関係ない写真です。液体が流れるもの、例えば想像していただきたいのは流しの排水とか、風呂がまです。別にそんなに汚い水じゃないけれども長く時間がたつと、それが管の周りにぺったり汚れたものがつきます。これは水道管です。この水道管の内側にぽこぽこ出っ張りが出ています。これがまさに動脈硬化と同じような状況です。例えばキッチンでは1週間に1回ぐらいは掃除をすると思います。掃除をしないとにおいも出てくる、しばらくほったらかしにしておくと次に見たときには大変なことになっています。
 人の体もまさに管(血管)に血液が流れている。きれいな血液だったらまだいいんですけれども、きれいな血液でもやっぱり年齢とともにちょっとずつ内側に汚れがついてきます。それがコレステロールが高かったり血糖値が高かったりすると、こうしたものが血管の内側に付着します。これがひどく詰まればお風呂でも、流しでもあるように水が流れなくなるといった状況になります。風呂がま、水道管は時々見て掃除していただければいいのですが、体の中というのはそういうわけにいきません。
 カテーテルを使って風船で広げるというのはちょっとそれに近いかもしれないです。詰まったところに行って問題を解決してくるという意味ではそうかもしれないですけれども、体全身カテーテルできれいにするというわけにいきません。体全身をこの水道管のようにならないようにするための一番いい方法というのは血液をきれいな状態にしておく。代表的にはコレステロール、血糖値、血圧だと思います。
 これはカルテット、弦楽器の4人組です。別にこの人に内臓脂肪がたまっているという写真ではないです。内臓脂肪。先ほど言った糖尿病、高血圧、高脂血症。弦楽四重奏というのは当然弦楽器でハーモニーを奏でます。美しいハーモニーです。今、挙げた四つがハーモニーを奏でると動脈硬化のハーモニーを奏でてしまう。要はたくさん集まれば集まるほど弦楽器であればきれいなハーモニーになりますけれども、生活習慣病であるとたくさん集まれば集まるほど動脈硬化をひどくしてしまうということです。
 昔は「死の四重奏」と言われてメタボリックシンドロームが提唱される前の概念です。死の危険性を高めてしまう四つの要因というのを、メタボリックシンドロームと一般的に広く言われる前から死の四重奏と言っていました。それが今で言うメタボリックシンドロームと同じ概念です。内臓脂肪をためちゃいけないというのはこういったことが原因で、たくさん原因が重なれば重なるほどより心臓に悪い影響を与えますから、一つでも少なくできるように取り組んでいただきたいと思います。

田舎で自給自足の生活をするのが人間にとっては一番いい

 心臓病の予防をまとめると、動脈硬化を起こさない。今言ったように先ほどの水道管のようにしないということです。あとはその原因が生活習慣病ですからそれに気をつけて、その一つの原因である内臓脂肪を増やさない。その理由というのが便利にはなったのですが健康にとってあまりよくない今の現代生活ですから、食事や運動、できれば田舎がもし近いところにあれば、たまには田舎に行っていただいて農作業でも手伝っていただくというのがいいと思います。
 今の生活を放棄できるのであれば、田舎で自給自足の生活が間違いなくいい。空気もいいし、体も動かしますし、ストレスもないし、心臓病を起こさない、再発予防にとっては一番いいことです。残念ながら現在の生活の中では自給自足というのができませんから、食事、運動、特に内臓脂肪に関しては気をつけていただきたいと思います。
 心臓病の原因が大体わかってきましたので、その原因を改善することに話を進めたいと思います。最初にもお話ししましたが、問題がある異常値や心臓病になってしまった原因というのがすでに明らかなものに関してはきちんと薬で治療する必要があります。その場合にその治療の目標値というのが実は皆さんはそれぞれ違います。
 それは病気を持っている内容によっても、皆さんの背景によっても、今の現状によっても違います。それぞれにおいて治療の目標値というのが違いますからそれを理解していただいて、ご自分でどうなればいいのか、どういう数値だったら安心していいのかというのを覚えていただけるといいと思います。それには主治医の先生にそれぞれの理想的な数値は幾つなのか、それを達成できてないとしたらそのためにはどうしたらいいかを相談していただけるといいと思います。
 あとは今の話にも通じるのですが、日常生活における注意点、食事、運動についてお話しします。一般的に治療の目標値というのは何もご病気がない方であればこれを超えないようにと言われます。血圧140の90。コレステロール悪玉でいうと140を超えない。糖尿病ではヘモグロビンA1cで6・5を超えない。肥満についてはできるだけBMI25を超えない。25を超えると明らかに肥満です。例えば24・8だったらいいのかというと実は駄目です。25に近づけば近づくほどよくないですから、できるだけ減らせるように頑張ってみてください。
 持っていらっしゃるご病気、合併症なり背景により目標は異なります。自宅でどういったことに気をつけたらいいか。1バランスの良い食事、2適度な運動、3自己血圧測定、4体重測定。一般的にはこの4点かと思います。

てんぷら、揚げ物、動物性脂肪、乳製品、甘い物には気をつける

 バランスよい食事というのはなかなか難しいです。気をつけているつもりでも今の豊かな日本の食事情では悪いものがたくさんありますから、つい悪いものも食べています。悪いものを食べ続けると結局最終的にそれが動脈硬化だったり、生活習慣病の原因になります。ここに挙げたてんぷらとかフライの揚げ物、動物性の脂肪、あと乳製品と甘いもの。これだけ気をつけていただけるだけで大分違います。
 タンパク質をそんなにとらなきゃ栄養が足りなくなるというような今の日本の食事情ではありません。最初に言いましたが、私が家に牛乳も卵も置いてない生活をしても全く問題がありません。
 今現状で振り返っていただいて何か改善できることがないかというのを探してみてください。
 次は適度な運動です。また、ご自分で自宅での血圧を測ってください。あとは体重です。もし体重が増えている場合には、その原因を考えてそのままにしない。そのままにして同じような生活を続けると、結局それが悪化する方向に進んでしまいます。あまりたくさん体重を測り過ぎるのもお勧めしません。神経質になるのもよくないですから2週間に一度ぐらい測っていただけるといいかと思います。
 生活習慣病は昔は成人病と言っていました。成人病から生活習慣病になった。生活習慣が原因で、成人になったら発症してしまうというわけではないからです。もう一つ考え方によっては生活習慣病を変えることで、その発症と進行を予防できる。いい意味で生活習慣病を認識していただいて、生活習慣をこのまま続けているとそういうふうになってしまう生活習慣病ではなくて、生活習慣を気をつけることによって生活習慣病にならないようにと考え方を変えてみてください。 
 生活習慣病は「沈黙の病気」と言われ、特別に症状がないことが問題です。心臓病が発症したら当然胸が痛くなったりしますけれども、それより前の段階ではほとんど症状がない。症状がないからつい治療するのが遅くなったり、薬を飲む意味を感じなくなったりして病院に来なくなる方もいます。実は症状が出てからでは遅いのです。病気がまだ沈黙しているうちにぜひ数値をよくしてください。
 もう一つは残念ながら加齢はどうしても多くの生活習慣病の原因になります。若い方が生活習慣が悪いのに生活習慣病になってないわけではなくて、生活習慣病というのは悪い生活習慣、ふさわしくない生活習慣が長く続くことによって発症しますからどうしても加齢とともに増えてしまうということです。
 今まで問題がなくても発症する危険というのはこの先にもありますから危険性が増加するので、ぜひくれぐれも注意をしていただきたい。とにかく予防です。数値が悪くなっているかどうかというのは定期的にチェックしていただいて、もし問題があるようであれば早期治療というのが非常に大切です

粗食は心臓にいい、お腹が空いてもすぐにはご飯を食べない

 食生活について。今の日本の食事がすごく豊かなのが問題です。栄養不足になるということはありません。むしろ粗食でやっていただければ心臓にとってはいい。最近の栄養学はタンパク質をとりましょうというような指導法になっているので、それがあまりよくない。タンパク質というのは気をつけてなくても十分とれていますから、あえてそういうのをとるよりも、例えばひとまず食事の時間が始まったらしっかり野菜サラダを食べていただいて、まだちょっとおなかが入るかなということでしたら、お魚やお肉をちょっと食べていただくのがいいのではないかと思います。
 私が大学院で研究していたものの一つに「長寿遺伝子」というのがあります。長寿遺伝子というのは実はおなかがすいているときに活発になる遺伝子です。文字どおり細胞の寿命を延ばす遺伝子で、体すべての細胞に皆さんが持っているものです。
 その長寿遺伝子の働きを活発にさせて細胞を元気にするためには、おなかがすいている時間を大事にしてください。おなかがすいたらすぐにご飯を食べてはいけないということです。おなかがすいているので体がどんどん元気になっていると思って、次の時間まで間食せずに頑張ってください。
 あとは運動不足です。今の日本の社会に生きていると、どうしても運動不足になってしまいます。あまりに便利で体を動かさなくて済む環境ですので、意識して体を動かしていただかないとなかなか難しいと思います。何か特別なスポーツをすると考えると、もともとそのスポーツを続けてなかった方にはとても困難ですから、それが長続きしない原因になります。普段の生活の中でできるだけ体を動かす。
 先ほどのライオンも自然界の中で特別にスポーツをしようと思っているわけじゃないのです。どうしても獲物を取るために体を使う。体を使った代償としてというか、見返りとして獲物が手に入るという、とても理にかなったものです。私が外来で言うのは、「今日はいっぱい買い物をしようと思っているのだったら、たくさん動いてください。たくさん動かなかったら今日はあまり買い物をしないでください」というような説明をします。
 体を使った状況によって、「今日は狩りがうまくいったな。じゃあ買い物をしっかりしよう」「今日はあまり動かなかったから、ご飯もあまり食べないほうがいいな」と思っていただく。体を動かす量に関係なくしっかり三食とってしまうと、それでカロリーがあふれてしまう、体重が増えてしまう、内臓脂肪を増やしてしまう原因になります。

普段の生活の中で体を無駄に動かす工夫をする

 もう一つ、これも深刻な問題です。例えばひざが痛いとか、腰が痛いとか、体に不調があって運動ができないとおっしゃる方が結構いらっしゃいます。確かにそのとおりだと思います。調子が悪いところを無理に押して運動をすると、そこをかえって痛めますので非常に難しいのです。ただ、運動ができないと言って運動をしないと、これがまた体重を増やす原因になってしまいます。
 体重を増やすとなおさら運動ができなくなったり、足腰に負担がかかったりします。皆さんの筋力、皆さんに限らず私もそうですが年に1%ずつ筋肉量というのは減ると言われています。1%というのは大したことはなさそうですけれども、10年たつと10%ですから1割なくなってしまいます。そうすると普段の生活をしているだけだと、そういうふうに筋肉はどんどん減ってしまいますから、基礎代謝が減って代わりに死亡が増える。それが体重が増える原因の一つでもあります。
 意識的に筋力をアップできるようなことをしていただく。テレビのリモコンで立ち上がったり座ったりというのも当然そうですが、やれることから――例えばいすに座ったまま足を持ち上げるような運動でもいいし、必ずしもウオーキングがすべてではありません。おうちの中で例えば歯磨きをしているときに、かかとを持ち上げる運動でもいいです。   
 例えば食器を片づけるのも、「一遍に重ねて片づけないで一個一個持っていってください。そうすると行ったり来たりで余計に体を動かせます」という話をします。特別な運動をするのではなくて、できるだけ普段の生活の中で体を無駄に動かすような工夫をしてみてください。
 ウオーキングみたいな有酸素運動というのはとてもいい効果があります。これは皆さんよくご存じだと思います。例えば直接動脈硬化を防いだり、コレステロールの数値もよくなります。あと血の塊を予防したり、骨粗鬆症予防など。実は運動するほど骨というのは丈夫になります。逆に言うと運動しなくなると骨がもろくなってしまいます。
 例えば宇宙飛行士が宇宙に行くと毎日必ず一定時間自転車をこがないといけません。人の体というのは重力がかかっているとそれに対抗しようとして骨が丈夫になります。宇宙に行って重力がかからないと骨が重力を感じませんので、骨が支えなくていいんだと思ってしまうのです。そうすると骨がどんどん溶けていきます。運動して力をかけて歩くことが骨を丈夫にしてくれますから、ぜひ骨粗鬆症の予防のためにも有効ですので体を使ってみてください。

心配は私がしますので、ストレスは病院に置いていってください

 先ほども出てきた肥満です。肥満というのは筋肉量と脂肪量のバランスが大切です。いま拝見すると皆さんはさほど肥満の方はいらっしゃらないですが、実は体重だけが問題ではないのです。体の中にある筋肉がどのくらいあるかというのが本当は大事です。
 例えば同じ体重60キロの方でも筋肉が多めで内臓脂肪が少ない方もいますし、逆に同じ60キロで筋肉があまりなく手足は細くておなかだけ出ているという人は、体重が増えてなくても肥満でなくても内臓脂肪を減らさないといけません。ぜひ筋肉のトレーニングをして内臓脂肪を減らせるように頑張ってみてください。
 喫煙は先生から言われていると思いますので、心臓の病気をされる方は言うまでもないことです。喫煙の害というのが本当にたくさんあります。動脈硬化から始まり、不整脈を起こしやすくさせますし、心臓の負担を増やしたり、免疫機能も低下させますから、いいことが一つもありません。
 あとお酒です。お酒も少量だったらいいと言われていますので全く飲まないという必要はありませんが、肝臓も毎日働くと疲れます。全く飲まない日というのをつくっていただくほうがいい。週に1日もしくは2日、お酒を全く摂取しない日をつくっていただくということです。
 あともう一つはストレス。生活習慣病というほどの病ではないかもしれないですが、実はストレスというのはそれだけで心筋梗塞や高血圧や狭心症の原因になります。今、座間の基地のところの署名活動は、騒音のストレスで高血圧の患者さんが多いということをやっています。まさしくそういったこともデータで裏づけられている事実です。
 基地のことだけじゃないですけれども、普段の生活の中でそれをストレスに感じるかどうかというのは皆さんのお気持ち次第です。できるだけストレスを上手に流せるようにして下さい。特に心臓病に限らず、病気をなさるとそのことが心配の種になります。
 私が外来で患者さんに、「心配は私がしますので、皆さんは心配を病院に置いて帰ってください」と言います。だから困ったこと、心配なことは相談していただいてその心配事を病院に置いていって、また次の心配事ができたら次に病院に来たときに相談してというふうにしていただくとストレスがなくていいのではないかと思います。趣味とかウオーキングでもいいですけれども、体を使いながらストレス解消できるような工夫をしてみてください。
 ストレスがかかると心臓にどういった影響があるかというと、自律神経に影響してしまいます。運動やリラックス法によって、自律神経やその先にある心臓にとってもストレスをかけないということはいいことですから、上手に工夫してみてください。
 そして改善状態を確認すること。定期的に検査をしていただいていると思います。おうちで血圧を測ったり体重を測ったりしていただくのもそうですが、定期的にチェックしていただければご心配は少ないと思います。これも病気によって内容も頻度も回数も異なってきます。また、何か新しい症状が出たりご心配なことがあった場合にはそれぞれのチェックをしていただけるといいと思います。
 クリニックではカテーテルの検査はできませんので、冠動脈造影CTを行います。点滴をしながら15分ぐらいで心臓の写真が撮れます。左が正常な冠動脈です。右は冠動脈が狭くなった狭心症の方の写真です。こういった心臓の状態、血管の状態をチェックして、もしカテーテルもしくはバイパス手術をしなくてはいけないようでしたら、成和病院のほうに患者さんをご紹介するということになります。

自分にとっての理想的な健康法を見つける

 理想的な健康法があれば皆さんにやっていただきたいので、ぜひそれをお伝えしたいのですが、残念ながらすべての人に共通する理想的な健康法というのはありません。なぜかというと、体質とかご病気とか、生活習慣などが違いますので、それぞれの人で理想的な健康法が異なってしまうからです。
 残念ながら皆さんの理想的な健康法を目を見て探り当てることができません。皆さん自身が生活の中でどこに問題があるのか、もしくはどこがまだ改善できるかというのをよく振り返っていただいて、心当たりがあるところについてぜひ改善できるように頑張ってみてください。あなただけの健康法というのがありますのでぜひ見つけてください。
 まとめて食生活の見直しのポイントをお伝えしたいと思います。まずゆっくり食事をとる。ゆっくり食事をとることは消化吸収にいいだけではなく食べ過ぎの防止、血糖値が上がり過ぎるのも防ぎますからぜひゆっくり食事をしてください。
 昔は腹八分目とよく言いましたが、最近はどうも腹七分目がいいようです。それだけ食べ過ぎないようにしてくださいということです。朝と昼と夕方の量の比率は3割・4割・3割ぐらい。何で夜が少ないかというと、寝るだけだからです。目安としては3割・4割・3割です。
 それと動物性の脂肪は控えていただく。ステロールというのはコレステロールの原因になるもので卵などによく含まれていますが、こういったものは控えていただく。
 あと乳製品です。どんなにいい食品でも毎日食べると偏ります。毎日ヨーグルトを食べていますということはくれぐれもしないようにしてください。お通じの原因でヨーグルトをとっているという方もいますが、お通じの問題は食物繊維です。「食物繊維は結構とっています」という人もいらっしゃると思いますが、恐らく今とっている量の倍ぐらいとっても害はありませんから、そのぐらいのイメージでいいのではないかと思います。果物などのビタミンもとっていただく。アルコールは控えていただく。
 食生活の見直しのポイントとしてはこれだけ気をつけていただければ、その達成度は別ですけれどもこれによって気をつけてみて、一度血液検査なりをしていただく。その検査をした数値を見て、何かまだ問題を改善したほうがいいところがあれば、さらにそこの部分を改善していただくのがいいと思います。

息が弾むぐらいの歩行でないと効果がありません

 運動習慣の見直しポイントです。一般的には1日30分以上歩きましょう、週3日以上歩きましょうと言いますが、なかなかこれも難しい。必ずしも歩行ということに限らず、生活の中でできるだけ体を動かすような方法。例えば車で買い物に行ったらできるだけ駐車場の端っこに止めてください。その分歩くということです。
 歩行運動、ウオーキングをされることはいいと思います、問題はその加減です。全く何ともつらくなくて楽しくお散歩というのは気持ちの上でも足腰の機能の維持でもいいのですが、実際にトレーニングという意味の運動ということになると歩行の場合には少し息が弾まないと効果がありません。ゆっくり散歩をする場合もいいでしょうし、体調によって変えていただいてもいいですけれども、調子のいいときには頑張って息が弾むぐらいのウオーキングにしてください。
 毎日の生活の中で体を動かすことが大切です。長寿遺伝子というのはおなかがすいているとき、あと運動したときに活発になります。おなかがすいているときに運動していただくと、長寿遺伝子がより活発になりますから効果的です。
 筋力トレーニングは何歳になっても必要です。皆さんが年齢とともに機能が低下していると思っている事柄というのは、実は年齢のせいだけではなくて運動しなくなってしまったからできなくなったことがすごく多いのです。
 まだお仕事をされているようでしたら、本当は学生時代みたいに職場に体育の時間というのが週3回ぐらいあるほうがいいと思っています。なぜかというと、子どものころは週3回の運動というのは体を成長させるためにも必要だったわけです。それが成人になり社会人になって仕事をし始めると急にやらなくなります。本当は子どもの頃と同じように体は動かしたほうがいいのです。ぜひ筋肉トレーニングで筋力を維持をしていただければと思います。内臓脂肪は増えやすいのですが減らしやすいです。そんなに難しいことではないですから、上手な工夫をして内臓脂肪を減らせるようにしてみてください。

異常の早期発見、早期治療、早期予防が大切

 手術後という方がほとんどでしたので、それについてのお話をして終わりにしたいと思います。特にバイパス手術、カテーテル後に関してはその後の血管の状態がすごく大事です。血管の状態の管理を常にしておく。先ほどの冠動脈CTの写真もそうですし、カテーテルでもそうですが、その血管の開通の状況や太さの状況をチェックしていただいて常に監視しておくことです。
 もう一つ、手術をされた時期にもよりますが、心臓病を体験されたために心臓が心配で、もしくは心臓をかばってあまり体を動かさないという方がいます。実は手術後落ち着いた後は、むしろ手術をする前よりも心臓の血液の流れはよくなったわけです。ですから手術をされる前以上に活発にむしろ動いていただきたい。
 例えば狭い血管がある場合、心臓を使うことによって、細かな血管がくっつき合います。血液が足りない部分というのをトレーニングすることによって少し心臓に負担をかけたほうがそういった機能が高まりますから、あまり過保護にしないでぜひトレーニングしてください。
 カテーテルの治療後、私たち循環器内科医は通常75%以上でカテーテルで広げる治療をします。今こちらに血管を4等分したうちの半分ぐらい、これはプラークを書いたつもりです。これではまだ2分の1の血液が流れます。冠動脈というのはもともと大事な血管なので余分に血液が流れています。普通にしている限りは狭心症の症状は出ませんからこのままほうっておきます。
 動脈硬化が起こってしまった原因、例えばコレステロールが悪かったり、血糖値が悪かったりという治療を先にしていただく。これが75%まで進行すると残り4分の1しかありませんから血液の流れが足りなくなってきて、じゃあそろそろカテーテルで血管を広げましょうかというタイミングかと思います。ぜひこうなる前にこの状況でとどめおくというのが大事ですから気をつけてください。
 弁置換や血管置換をされた方もいると思います。どちらも定期的なチェック、先ほど挙げた生活習慣病チェックをずっと気をつけていただく。弁置換術後は心臓の超音波の検査、弁の開きぐあいを確認していただいて、血の塊ができてないかとか、開きぐあいはどうかをチェックしていただく。人工血管置換の場合には造影のCTなどでその血管の状況を定期的に確認していただければ、それ以外は原因となった高血圧、高脂血症などの生活習慣病を改善するように気をつけていただければいいのではないかと思います。
 心臓病予防のサイクルです。まず通院されている方であれば定期的な検査。病気じゃない方は住民検診、一般的な検診をやっていただいて問題がないかどうかを常にチェックしておく。もしそれに問題があるようであれば心臓病再発の予防のために生活習慣の見直しをしていただき、その見直しができたらじゃあ何をしたらいいか、具体的な健康法が見つかってくると思いますからその実践です。でもふさわしい健康法というのは皆さん違いますので、くれぐれも一人一人に合った方法を探していただきたい。それでやっていただいて、またその結果をフィードバックして検査をして、このままで行きましょう、あとはもし問題があればもうちょっとこうしましょうということを気をつけていただければいいのではないかなと思います。くれぐれも異常の早期発見、早期治療、早期予防というのが将来病状を悪化させないためにはとても大切です。

動脈硬化を起こすとその血管の老化が進んでしまう

 最後にちょっと変わった話をして終わりにします。動脈硬化と老化というタイトルでお話しします。年齢とともに皆さんは動脈硬化が起こるというのは感覚的にもわかると思います。こちらは正常な血管。これは動脈硬化を起こした血管です。右の血管がなぜ青いか。実は左も青く染めるような処理をしていますが、正常な血管は染まらずに動脈硬化を起こした部分が染まるのです。これはどういう染め方をしたかというと、老化しているかどうかという染め方です。青くなっているところが老化してしまった血管の内皮細胞です。順序が逆のような気がしますが、動脈硬化を起こすと老化が進んでしまうのです。つまり、年をとったから動脈硬化になる。さらに動脈硬化を起こすと、よりそこが老化してしまいます。
 実は動脈硬化というのを血管内皮細胞の老化としてとらえることができます。動脈硬化を早くに起こしてしまうというのは、体全体の実年齢はそれほど高くないけれども、その病気になった部分の血管だけが早く老化してしまっていると解釈することができるのです。そういった研究をしていたのですが、実は老化とともに一個一個の細胞も年とともに当然老化します。その老化した細胞の働きが悪くなって、一個一個の細胞の働きが悪くなると臓器の機能の低下が起こります。先ほどの動脈硬化の血管機能の低下というのもそうです。
 そうするとそれが病気の発端になって、さらに病気になるとそれが老化を加速するという流れです。実は人が年をとる速度というのは人それぞれ皆さん同じではないと言われています。つまり、生活習慣病のような病気をされると、より老化が進んでしまうと思っていただいていい。老化を進めないためにも血管を悪くしないためにも、生活習慣病のような慢性のずっと長く続く病気にぜひかからないように予防していただければと思います。
 今日から生活習慣を改善していただきたいのです。男性――女性もそうですけれども、心臓病疾患の予防のために生活習慣に気をつけていただいて、さらに女性は老化という部分でいうと今、はやりかどうかわからないですがアンチエージングです。実は病気にならないことは若さの秘訣でもありますから、ぜひ女性は美容のためにも生活習慣に気をつけてください。長くなりましたが以上です。ご清聴ありがとうございます。(拍手)