昨年12月から東京ハートセンターで手術を行っています
皆さん、こんにちは。今日は天気が悪いという予報でしたがこんなに晴れまして、非常に僕自身も晴れがましい気分であります。皆さんは大変驚いたと思うんですけれども、私も大変驚きました。昨年12月に東京ハートセンターという新しい病院で手術を始めております。すでに100例以上の患者さんの手術をさせていただいております。
まだ新しいところということで、1週間に8件程度がマキシマムです。あんまりやると看護師さんにしかられてしまいますので、今はそれぐらいということですが、今回は連休で東京ハートセンターのスタッフの皆さんはほっとしているんじゃないかなと思います。
入り口に東京ハートセンターの場所とか連絡先がわかるような印刷物を置かせていただきました。それを手にとって、南淵はどうしているかなということや、あるいは手術が終わってまだ文句言いたいことがあるなんていう方は、ぜひ東京に来ていただければと思います。
場所は山手線の大崎というところです。昔はいろんな工場があって、森永製菓の工場があったので森永橋なんていうのが目黒川にかかっていたりします。その工場が全部なくなり、今はソニーを中心に高層ビル等があって、その中の一角にある心臓専門の病院ということです。東京ハートセンターは心臓病の専門病院という名前がついているせいでしょうか、やはり来られる患者さんは心臓病の患者さんばかりです。東京ということもありまして、少し患者さんの質というか、社会の見方というのが違うのかなというふうにも認識しています。
また今回、東日本大震災がありました関係でしょうか、青森あるいは茨城、福島、そういったところからも患者さんが来られています。今日も会場には福島の方がいらっしゃるんですね。私は関西人ですが、東京まで行きますと東北はだいぶ近いような印象であります。
今回の大震災を皆さんはどういうふうに理解し考え、さらにまた皆さんは、自身にどんな行動ができるのかというようなことを日々考えていらっしゃると思います。そういう問題提起、題材と言うと被災した方には大変失礼にあたるかもしれませんが、東日本大震災はそれを日本人すべてに与えた大きな事件、出来事であったのかもしれません。
「天に仁なし」とんでもない理不尽なことが起こってくる
「天に仁なし」という言葉があります。非常にむごいことを天というのはやるものだということですね。
私は皆さんの手術をさせていただいて、手術がうまくいくときっとそこに神様がいらっしゃるんですよ、というようなことを言います。つまり我々のいろんな行く末、運命、やっていることすべてを神様が見ているんだということですね。仏教で言いますと、仏様が見ている。もうちょっと詳しく言いますと、我々が前世で知らない間に仏様とお約束した今生における菩薩行、これを助けるがゆえに仏様はどちらかでもって仏縁というものを我々に与え、いろんな我々の行動を助けていただいていると、こういうふうなことを仏教では言ったりしています。あるいは西洋の世界でも今回ローマ法王がお話ししましたね。
しかし、先ほど申しました「天に仁なし」ですが、ほんとにとんでもない理不尽なことが我々の人生には起こってくるものであります。こういった理不尽、むちゃくちゃだなというようなことで怒ってはいけないわけで、皆さんはそれを乗り越えるすべを心得ていらっしゃるというのが持論です。今ここに集っていらっしゃる皆さん。皆さんにも実はとんでもない理不尽なことが起きました。心臓病という理不尽です。何でこんなことになったんだ、何でおれだけが、何でこの時期にと、とんでもない理不尽ですよね。
被災された方には大変失礼ですけれども、大震災というと、みんな一遍に被害者になる、被災者になる。それで大変だ、大変だということで周囲の理解というものがあるのではないかと思います。大変だなということがみんな十分に理解できるわけです。
ところが、病気というのは一人で理解しないといけません。一人でかみしめて、そしてその活路を見出さないといけない。そういう孤独な闘いです。そういったものをすでに皆さんは、乗り越えていらっしゃるということからしますと、震災うんぬんというよりも、もっと皆さんは突き放されたひどい状況にあったわけですから、それをしっかりと乗り越えていらっしゃるわけです。
個々の人間には理不尽を乗り越えるすごい力がある
僕自身は心臓の手術しか能がない人間でありますので、どうしてもそういうことを考えてしまいます。入り口のところでお配りしました、『読売新聞』のインターネットの「ヨミドクター」というページがあります。そこに毎週1回ブログを書かせていただいております。この間も取材に来て、震災復興はどんなことができるんですかと意見を聞いて来るんです。そこで言うんですが、一番強いのは個々の人間が持っているすごい力ですと。
もちろん政府や東電の力もあるかもしれませんけれども、そういったものに頼らなくても人間というのは自分自身で、天に仁なしという、この天ですけれども、この仁のない天に立ち向かうというと罰が当たるかもしれませんが、しっかり乗り越えていける。そういうふうなことを毎日まざまざと見ているので、人間というのはみんな強い、必ず復興できるものだという考えを言おうと思っているんです。『読売新聞』の5月24日ぐらいに載ると思います。これは記事の予告です。
今回プロジェクターでお見せできなかったんですが、『週刊現代』とか『日刊ゲンダイ』とか、それからフジテレビの「コンパス」というホームページであったり、あるいは番組で意見を紹介する。そういったところで意見をいろいろ求められて大体毎週のようにお話しをさせていただいております。
どういうふうな話かというと、今申し上げましたように、僕自身一人の心臓外科医として本当の人間の強さというものをいつもまざまざと見せつけられている、理不尽を物ともしない、そういった人たちです。ですから震災に遭われた方も必ず復興する。何もしなくてもというと失礼な言い方ですけれども、そういう力を皆さんはお持ちじゃないかと思うんです。
今日は東京ハートセンターで一緒に働いております深津さん、佐藤さん、松浦さん。松浦さんは、実は私が手術させていただいた患者さんでもあるんです。それから、リハビリの徳田君です。それと奥山先生、今日は当直で来られなかったんですが武藤先生、不整脈の白石先生、そして中川先生。あとICUの師長でありました内藤さん。そういった面々は私についてきていただき、いつもと変わらない雰囲気で東京の病院で手術させていただいております。
近況報告が長くなりましたが、3月11日の2時45分。ちょうど私は手術しておりました。本当にとんでもない事態が起こったわけです。手術中にそういう地震が起こる。これはとんでもないことですが、ちょうど半年ほど前に僕はある病院で手術をしていました。その手術は全然問題なかったんですが、それが終わった直後に自分の周りが大変な状況になっている。そう気がついて、そんなこともいろいろあって病院を移りました。吉村会長を含め皆さんには、大変にご迷惑をおかけしました。
この心臓病アンケート調査はとても貴重な情報です
さて、今日のお話はこの心臓病アンケート調査の考察ということです。僕自身は心臓外科医としてお話しさせていただくという機会を得ましてほんとにうれしく思います。報告書の最後のほうにも僕が書いていますように、このアンケートはものすごく貴重です。皆さんが手術してどういうふうだったか。これはほんとにありがたい情報でありますので、早速インターネット等で、これから手術を受ける人が見て「あゝ、なるほどな」と思うような、そういう情報の提供ができる材料にしていただければと考えております。この集計は、同じく東京ハートセンターに今一緒に働いております菊地さんという方にやっていただきました。部分的になるかもしれませんけれども、いろんなところで紹介させていただければと思ったりしております。
まず3ページ目です。最初から見ていきましょう。基本的なデータで、男性と女性ですが、やはり男性が少し多い。それから年齢に関しては大体60歳代がやはり多いということです。今日、ここに来る前にある人からメールで連絡を受けましたが、実は40歳前後の方にも、心臓弁の病気の方が結構いらっしゃる。ここにいらっしゃる大半の方には失礼ですが、世代が違うということで、若い世代の人たちでいろいろ意見を交換し、情報交換するグループが自然発生しております。
ということで、問2の部分の年齢分布というのは大体60歳にピークがあって、ぽんと山があるわけです。若い方は若い方で一つの固まりができつつあるのかなと思ったりしております。問3\1は皆さん均等です。10年ぐらいたっている人も、つい最近受けた方も皆さん大体いらっしゃるということです。
4ページ。生活のことです。どんな方と同居されていますかとか、職業についてです。年収に関してのことも聞いております。これは比較的大切です。これから手術を受けられる方、あるいは皆さんの置かれている立場でどれぐらいお金を払っているのか。5ページの問7です。この上の部分です。大体どれぐらいの持ち出しになるかということです。年配の方が多いと、もちろん持ち出しはやや少なくなるのではないかなとは思います。こういった形で目安にできるんじゃないかなと思ったりしております。お金に関して、5ページの問8(1)。上から2番目。現在の収入で、入院・加療に不安や支障がありますかということですね。これに関してはほんとにどうしたらいいんでしょうか。政治の話になっていくんでしょうか。そういうことです。これはだからそういった方にもぜひ見ていただければと思ったりしております。
健康診断で病気が見つかるのはものすごいラッキーですね
6ページ。心臓手術を受けたということに関して、心臓病であることをどこで知りましたかという質問です。これは問1にあります。割と大事なのは一番最初にある、この健康診断です。健康診断で病気が見つかるというのは大変なことです。なぜかというと、健康診断というのは健康な人しかやらない。健康だと思っている人が受けるわけで、診る側も「どうせ病気はないだろう」なんて診ているわけです。僕なりのひどい言い方をすると、医者もいいかげんに診ております(笑)。それでも見つかった。これはものすごいラッキーですね。
健康診断というのはあまり海外ではやってないので、「お金もかかるし、やめようかな」と日本では言ってたりしています。何万人もやって、ちょっとしか病気が見つからないから効率が悪い、なんてことを言ってるんですが、見つかった方がこういった手術を受けてしっかり治療の効果が出ているということからすれば、やっぱりこの健康診断というのは非常に有効な手段ではないかなと思っています。もちろん、そこでお金がどれだけかかるかということもあるでしょう。ここは17%の人が健康診断で心臓病が見つかって手術を受けて元気になったというなら、これはすごい事実、情報です。
その次に、最初に心臓病だと分かった時、その処置はどうなさいましたかということになります。入院して治療を受けたというようなことが書いてあります。これは雑駁とした答えです。問3\1(6ページの下)は、何で自分が心臓病になったと思うかという設問で、いつも言っていますように病気の原因はよくわかりません。ですから僕自身も病気を避けることができないわけでありまして、そのうち皆さんが「ざまあ見ろ、あいつ」という状況になるわけですね。それぐらい病気というのはわからないんですけれども、自分の頭の中では「何でかな、何でこんなになっちゃったのかな」ということで、「やっぱりあいつのせいだよな」ということで大体精神的ストレスとかが多かったりするんです。
運動不足で、食事なんかは大体同じです。だからどうしてもみんな肥満、メタボになってしまいます。飲酒や喫煙も今は分煙であったり、飲酒運転で取り締まられたりして、だいぶいいかげんな社会から締め出されつつはあるんです。またかつ、喫煙すると絶対悪いのかなんてなことがあまり議論されなくなってしまいました。後でも出てきますが、喫煙している人で手術してやめた人がほとんどです。そういうことからすると、喫煙というのは一つ大きな原因なのかもわからないです。
自覚症状がないということは一般の人には分からない
次に自覚症状です。8ページの上。ここにいらっしゃる方は冠動脈のバイパス手術が多い方で、4本ぐらいが多いということが8ページの真ん中に書いてあります。自覚症状はありましたかということで、いろいろ病気ごとに分かれています。冠動脈の病気の人はやはり症状があった。不整脈の方も症状があったということです。これもまたすごい事実です。なぜかというと、心臓病と診断されているのに自覚症状がありましたかという質問自体、これが一般の人には絶対わからないと思います。症状があったから手術を受けたんでしょうと、もう完全に思い込んでいます。
そうじゃない。皆さんはあまり症状がないにもかかわらず、医者の口車に乗って治療を受けたという事実は、これはすごい話です(笑)。いやいや、これは冗談ですけどね。それほど医者を信頼した、あるいは病気のことを理解したということです。ですから確率としてはもちろん冠動脈、それから不整脈です。「苦しい」というふうなことに突然なったということです。
そうでない方も結構いらっしゃるというのは、これはやっぱり一般の人たちは、例えば「テレビの番組やるから、南淵先生出てください、病気のことを説明してください」と聞かれて、「症状がないんですよ」と言うと、「え、この病気、症状ないんですか」というふうに、病気というと症状があるというふうに確実に思い込んでいる方がいる。実はそうじゃないんですよ。そういうことがこの8ページの下からわかるのかなと思います。
自覚症状はどんな感じでどんなところにありましたかですが、やっぱり冠動脈の方が全体的に自覚症状が多い。9ページのところにあります。ブルーの線で、大体みんな自覚症状がいろんなところにあったということです。お医者さんがこれを勉強すべきじゃないかなと思うぐらい、非常に有用なデータです。
10ページに行きます。自覚症状や発作はどういう時に起きましたか。これも非常に大事です。一番上です。冠動脈の人は歩行中に起こった。それから一番左の、肉体労働中に起こったという人はあんまりいない。心臓にすごい負担をかけているときに心臓が駄目になった、あるいはSOSをあげたというのは案外少ないということです。それから休息中、睡眠中。ここです。ここのところ、冠動脈の方は88人のうち47人ですが、半分が寝ているときに心臓がおかしくなったと答えています。これもまたすごいデータです。そういうふうに言われてはいるんですけど、一般の人たちが「そんなことないよ」というふうに思いがちです。心臓病は寝てれば治る、寝てれば発作が出ないと思いこんでいる方が多いが、全然そうじゃないということがここではっきり示しております。
発作が起きたら迷わず救急車を呼ぶことが大事
10ページの一番下です。発作が起こったときにどんな処置をとりましたかというと、休むと治まったのでそのまま様子を見たという方が結構多かったりするんですね。でもこの142人の方々は本当にまさしく確実に病気があったわけです。「休むと治まった」というのは運がよかったわけで、それで済まなかった可能性もあったということから判断すると、救急車を呼んだほうがいいわけです。最近、あまり呼んじゃいけないなんていうポスターもあります。「本当に救急ですか」なんて書いてありますが、あれは間違いだと思います。人の命のことを考えたら、やっぱり呼んだほうがいいです。いや絶対呼んだほうがいい。
前の考心会のときにお話ししました。呼ぶか呼ばないかっていうのはものすごい判断です。女性の方は向かいのうるさいおばさんにまた文句言われるんじゃないかということが頭をよぎるわけです。男の方はそんなの全然知らないと思うんですけれども、女の人はそういう葛藤が大変あるわけですね、ご近所の付き合いで。
今日も僕は朝9時から近所の草むしりに参加してきました。家内から何度も何度も「明日行ってくれ」「明日行ってくれ」とずっと言われ続けていました。今日の朝、家内は大阪へ行ったんですが、新幹線の中から電話かかってきて、「ちゃんと行ってちょうだいね」とか言って、近所づき合いはほんとに大変です。
そういうことがあるものですから、やはり救急車を呼ぶというのはものすごいハードルが高いです。ですから、この142人の方には、救急車を呼んだほうがよかったんだよということで、近所の方や知人の方には「こういうときは絶対呼んだほうがいいんだよ、迷っちゃ駄目だよ」というように、ぜひアドバイスしてあげたらいいんじゃないかなと思います。
それから11ページの問11。手術の必要性を宣告された時どう思いましたかです。医者に任せるしかないと思ったというのがすごく多いです。ほんとかなという気もするんです。結局、皆さんは手術をお受けいただいたわけですから確かにそうなんでしょうけれども、不安になるとか、心配は当然あったんじゃないかなと思います。どういった形で手術を受ける病院を選んだかという質問では、かかりつけ医、他の病院の紹介、家族や知人に教えてもらった、自分で探したという人も13%います。自分で探した人の大部分は、手術件数や治療実績と答えていて、手術について皆さんがいろいろな情報を集めて理解し、賢くなってきたことの現れじゃないかなと思ったりしています。12、13ページにはその他としていろんな意見が書かれています。これをぜひ読んでいただいて、ほんとにこれは全部グラフにはできなかったんですが、この冊子の相当な分量はこういった皆さんの声を一つも残さず99・9%、ここにコメントとして載せているのが特徴です。
東洋医学はあまり人気がない・手術後の後遺症は22%
心臓手術後の経過について大事な21ページです。皆さんは薬を飲んでいますね。つまり病院に行っているということです。ということで、いろんな方がいろんなことをやっています。ところが東洋医学というのがあんまり人気がない。これは5年前のときのアンケートでもやはり同じでした。東洋医学って皆さん案外やってないんですね。なぜか僕は非常に東洋医学が大好きで、足裏マッサージとか、はりとか大好きです。ところが、患者さんはそういうのはあまりなされないような気がするのはどうしてかなという気もしています。保険がきかないのでお金がかかるのかもしれません。僕の場合は足裏マッサージを子供にやってもらったり、はりとかを自分で突いたりして、ただでできるのでよくやるのかなと思うんです(笑)。
次は手術後の身体の状況について聞いています。問2です。病気や治療による制限を受けることなく以前と同じように生活できる。これは非常にありがたい。533人中343人ということで本当にこれはありがたく思います。ところが、この問3(1)の「手術後の後遺症がありますか」の質問では、これが「ある」という方が22%、「ない」という方が73%でした。この「ない」というのも大変ありがたいんですけど、「ある」という方は大変申し訳ないというと変ですけれども、本当はきっとこの「ない」と断言されている方にも実は後遺症があって、ある程度納得したり、しょうがないかということで「ない」と答えていただいている優しさがこの73%に出ているのではないかと思います。(笑)
なぜかというと、多分このアンケートは、どうせ南淵が考心会でこうやって説明するだろう。そのときにこんなに手術を受けてうまくいっているのに、後遺症があるなんて言うやつはぜいたくで、何かクレーマーじゃないかみたいなことを言われたら嫌なので、無理やり「ない」というふうに皆さん答えたんじゃないかなと思うんです(笑)。それは冗談です。後遺症の中にいろいろどのように対処していますか、後遺症の種類とかと書いています。これも個々の内容はこの後のページに出たりしているわけです。
心臓手術後に特化したリハビリは必要・術後の不安は「再発」
22ページの問5です。退院後はリハビリ治療を受けたかということで、受けていらっしゃらないという方がいらっしゃるんです。心臓のリハビリは、私は以前の病院、それから今の病院でも始めてはいるんですけれど、非常にユニークであるというふうなことで、全体からしますと心臓に特化した、あるいは心臓の手術後に特化したリハビリというのはあまりないみたいです。ですから中には一生懸命通っていただく人もいらっしゃるので、そういったことを今後、何とか僕らの努力で一般的に浸透していけばと思ったりしています。
22ページの一番下の手術後の不安や悩みはありますか。これは「ある」と「ない」が全く同じ数ということです。これは漠然とした質問ではあるんです。不安といっても、いい不安と悪い不安があります。何かくよくよしてもしょうがないという不安もあれば、不安というか、ひとつ自分の中で律するものということで、ある程度の不安、あんまりむちゃしちゃ駄目よという、そういう不安というのはいいのかもわからない。その辺のところはちょっとわからないんですが。「ある」と答えた方「それはどのようなものですか」で一番多いのは「再発」です。やはり大勢の方が再発に不安を持っているわけですね。これは29ぺージのところでまた出てきます。薬の副作用や後遺症というのもあります。
23ページに行きます。問8。あなたは心臓手術後、人間的に変わりましたか。これは吉村さんたちに頼んで無理やり押し込んでもらった僕の質問であるわけです。質問を見たら、こいつは南淵が聞いたんだろうということがすぐわかると思うんです。ところが、この177人があまり変わってないというふうにおっしゃって、これは謙虚じゃないかなと思います。手術というのは、僕自身は自分で受けたことはないんですけど、もし自分で受けるとなると、これはハードルが高いというか、大変な出来事じゃないかなと思います。いい意味で変わるんじゃないかなと自分では思っているんです。
しかし、この他人の心の痛みが分かるようになったとおっしゃってくれている方も結構いらっしゃるということで、僕の設問に親切に無理やり「イエス」と答えていただいたんだなと思ったりします。この後もずっと28ページまでいろいろコメントがつながっておりますので、ぜひこれも時間のあるときにお読みいただければと思います。
冠動脈の方の再発はカテーテルインターベンションが多い
29ページに行きます。再発というところです。現実に再発ということがあります。この再発に関しては、冠動脈の方が多いせいか、再発といっても、再手術というのではなく、カテーテルインターベンションということで対応されているということです。そういう状況は病気の性格からしてさもありなんということかなと思ったりしています。
冠動脈の病気の場合は、再治療といっても、もう一回麻酔かけて、胸を開けて手術をするというのはあまりないわけで、そういう方もいらっしゃらないわけじゃないんですけれどこれは非常にまれであります。
しかしやっぱり冠動脈の病気ですから、死んじゃうかもしれないということですからね。それが次の30ページの問4のところに書かれています。やっぱりカテーテル治療のほうが多いですね。バイパス手術をもう一回受けたという方も29人いらっしゃるということです。ですからこういったこともあり得るんだということです。
ただし、この中に僕らがやった手術がすでに2回目であったとか、よその病院や大学病院で手術を受けて、それが下手くそだったからうちでもう一回やったというような方も入っているんじゃないかと思います。いや、別に大学病院はみんな下手だとは言ってません(笑)。ましなのもあります。とにかくそういうのも入っているので、そのところは、そんなにたくさんバイパス手術のやり直し、要するに自分で最初の手術をやって、次にもう一回自分でやり直したという方はそんなにいらっしゃらないんではないかと思っています。これがアンケートで数字としては出てないのかなと思ったりしております。
冠動脈CT検査、メンナンスは絶対必要です
この再発というのは、先ほどの回答にもありましたが、不安の一番の大きなものであったり、あるいは現実にこの考心会に参加していらっしゃいますと、そういった方の話もちらほら聞いたりして非常に至近な問題というか、自分にとっては非常にあり得る話だなと思います。特に冠動脈の方は思われると思います。手術して5年たっているんだけど大丈夫かなと。やっぱり冠動脈のCTの検査を受けたほうがいいんじゃないかと思います。これはやっぱり受けたほうがいい。
そこは今かかっていらっしゃるお医者さんとどういうふうにコミュニケーション、それからコミュニケーションだけじゃなくて、実際に今の状況のメンテナンスです。メンテナンスと言ったって、何かしてどんどん血管がきれいになるというわけじゃないですけれども、今は僕も飲んでいますクレストールという薬があって、これは動脈硬化を治すんじゃないかと言われたりしているわけです。そういう薬もあります。
それから、不摂生に気を付けるとか、今の現状ですね、冠動脈がどうなっているかということを知るとか、そういったことでメンテナンスしていかないといけないということは、絶対必要だとは思うんです。そうしたからといって、確実に再治療、再発を防げるということにはなかなかつながらなかったりもします。
中には手術の前と同じような状況で「胸が痛いんです」と言う方もおられる。これは病気の再発かなという場合もあったりするんですが、そうでない人も結構いらっしゃいます。「これは手術の前と一緒だ。手術やったところがまた悪くなったのか」と思う。結構思い過ごしということが現実にはたくさんありますので、必ずしもそうではないというふうにご理解ください。
このあたりは31ページの一番下のところです。心臓の定期検診ということで、皆さんは内科の先生、あるいは僕やほかの外科の先生の外来に通ってらっしゃると思うんです。そこでは手術する前とは違うわけですから、もう病気にはならないぞ思っていても、病気になっちゃったというようなことがあります。病気のことをよく理解し、定期的に病院にかかってらっしゃるので、再発が仮にあってもふつうの人よりは割と早くわかる、わかりやすい、またすぐに対処できると思っております。
だから、「ご安心ください」とまでは決して言いませんが、冠動脈に関しては、再発に関して念頭に置いておく必要がある。絶対ないとは言えないと思ったほうがいいのかなと言うことです。
人工弁はうまく植わっていれば長持ちする、やり直しはない
心臓弁に関してですが、心臓弁というのは超音波のエコーで必ずわかります。超音波のエコーを半年に1回、あるいはできれば3カ月に1回受けていただければ再発というのが事前にわかるということで、ほとんど、再発はないと思います。人工弁に関しても、皆さんに手術の前に申し上げたと思うんですが、人工弁がおかしいから何年かたってやり直したという人は一人もいません。ですから人工弁がうまく植わっていればまず長持ちします。機械弁でも生体弁でも同じじゃないかなと思います。僕は生体弁を使うようになってからずいぶん時間がたってますけど、そういった方は全然いらっしゃらない。びーっと破れちゃうなんてことも全然ない、見たことないということです。人工弁は100万円近くするわけですけれど、さすがに100万円近くするということで全然壊れません(笑)。
食生活は気にしないで何でも食べるのが一番いいんじゃないか
次は35ページです。現在の生活について聞いています。問1です。食生活に関してはやっぱり皆さん、気を付けていらっしゃいます。コレステロールや中性脂肪の高いものはあまり食べなくなったとおっしゃっておられます。これはそれでいいのかなと思いますが、でもある程度、肉も食べなきゃいけないというふうにも言われたりしております。玄米、野菜、魚、キノコ中心の食事に切り変えたという方も多い。気にしないで何でも食べる。本当はこれが一番いいんじゃないかなと思うんです。昨今は、魚とかキノコは放射能の問題がありますのでちょっと考えないといけない。こんなこと言うと風評被害とか言われますけれども。
僕は手術をしたからとか、テレビで見たからとかいって、訳のわからない余計なことをしてはかえって体調を崩すんじゃないかなと思ったりしております。そういうことでいろいろ僕も勉強したわけじゃないんですが、腸内細菌について注目している研究者にお会いしました。人間の細胞というのは2兆4千億あるということです。腸内細菌とか皮膚の細菌全部合わせると数が3兆ぐらいです。腸内細菌というのは、同じ一卵性双生児、全くDNAが同じでも腸の中の細胞の組成というのは違うらしいです。
つまり腸内細菌は2万種類ぐらいあるんですが、大腸菌の何が多いとか何が少ないかということは、これは一人一人全部違っているということです。食べたものを腸内細菌が分解して、そこから吸収していくということです。ほんとにここだけの話ですけど、コラーゲンを食べたらいいとか言いますけど、あれはアミノ酸にまで分解されてしまいます。腸内細菌がいろいろごちゃごちゃあって、そこにコラーゲンを加えて、それで最終的に吸収される。コラーゲンが吸収されるなんていうのは大間違いだそうです。
そういうことで腸内細菌というのがまず間(あいだ)にあって、食べたものが腸内細菌によって分解される。それで我々の体の中に入っていくということが非常に注目されている。全面的に注目されているわけじゃないけれど、僕自身そういう研究者――鳥取大と東大の先生にその話を聞いて、「なるほどな、これはすごいものだな」と思ったりしました。
ですから外から食べるものをいろいろ工夫してちょっと変えても、腸内細菌は何か最近新しいものが入ってきたぞということになるわけで、最終的に腸内細菌の活躍ですぐにそういった状況になっていく、非常に個性的な組成になっていくそうです。もちろん機能も非常に個性的になっていくわけです。まさにこれが体質といえるものだと思うんです。この体質が出来上がる。この体質が非常に大きな幅を持って、いろんなものを食べてもいつもと同じにしているということをお二人の研究者からお伺いしました。
なるほどなと思います。だから、何かいいなと思って食べても無駄なんです。腸内細菌が何だこりゃというようなもので、いつもどおりに変えてしまうという部分は多々あるんじゃないかなということが考えられる、そういう気がしています。
だから普段どおりのものを食べていれば、コレステロールや中性脂肪は影響あるかもしれませんが、腸内細菌という頑固な、あるいは強力な自分らを助けてくれる軍団が皆さんのおなかの中にありますので、栄養ということに関しては、自分が好むものをばくばく食べても、そんなに偏るものではない。ただし問題は量です。量はやはり食べ過ぎるとなかなか心臓の負担になったり、いろいろするということです。
運動は何かやりたいという気持ち、これが大事です
ということで、35ページの真ん中です。問2です。喫煙していたという方が127人、でも112人の方がやめちゃった。やめられないという不届き者というか不良が11人いらっしゃって、不良であることが自分の生きがいということで一生終えられるんでしょうかなと思います(笑)。これはたばこを吸っている人に申し訳ないですけれど。
問3\1です。運動としてはウォーキング。これはいつでもやめられますし、どこでもできます。とにかく歩こうということで。今日みたいな日はどんどん歩いたりして、これは非常にいいです。現在どのような運動をしていますかです。ゴルフ。確かにゴルフは運動ですけれども、こういったゴルフなり、野球なり、テニス、何かやりたいという煩悩ですね。これはやっぱり大事じゃないかなと思います。やらなきゃいけないからやろうとかいうんじゃなくて、雨でも降るかもしれないけど、着替えていこうと、何かやろうというわくわくする気持ち。これはすごく大事です。これはいつまでも続けていただければというふうに思ったりします。これはすごい大事なことかなと思います。
36ページ。問4はほかの病気ということです。問5は健康維持のために取り組んでいることです。食事、運動に気を付けていますや心のケアなんていうのもあったりします。健康食品などのサプリメント、人間ドックなど、いろいろ書いてあります。問6は不安や悩みの解消のためにあなたが必要と考える心臓病患者への対応策、支援策は何でしょうかということです。まずは自分自身の努力。偉いですねこれは。それから医療者との良好な関係。これも大事です。自分に合うお医者さん、何でも相談できるお医者さんを、とにかく自分で見つけるということがよく言われますが、これはとても大事だというふうに思います。
ここにもいろんな意見がずっと続いております。特にこの全体意見うんぬんのところで非常に心打つものもあったりしまして、本当にこれは貴重な貴重な情報、冊子でございます。僕自身、とりあえず500部買います。
自分自身、以前の病院で14年、さらにその前の鎌倉の病院で3年間の17年です。今の病院で半年ということで17年と半年。それから松戸の新東京病院。ここにも1年おりましたから18年と半年。心臓外科医としてやってきたすべてがこの中に凝縮されていますし、またこれが今からの自分自身の原点であり、源です。非常に貴重な貴重な、重い重い存在です、このアンケート自体。そういうふうに自分自身、思っております。
理不尽が起きたときに便りなるのは自分の感性「胆力」です
本日、実はプロジェクターでいろんな手術をこんなふうにやっていますよとかお見せしたかったんですが。実は3月11日に病院でも全部ビデオを撮っておりまして、手術中に地震が起こったという貴重な映像が残っておりましたので、それを見てもらおうかなと思ったんですが、やっぱりこういうようなものは壊れることもあったりして見れなかったりするわけです。
一昨日ですか、報道機関の反省番組みたいなのがありました。一生懸命報道しようと思ったけれども、被災地の人たちは電源がなくなっちゃってテレビを見れないという状況です。そういうときに一生懸命自分たちが報道しても、結局被災地の方には伝わっていなかったろいうことがあって、よく言われているように現代社会はもろいものであります。
例えばこの間も、計画停電とか、あるいは地震で病院の電源が切れる。そういったときに都市ガスで発電して電源を賄いますよという、訳のわからないことを言っていた人がいました。地震が起こるとガスも止まるだろうに、馬鹿かこいつはと思いましたが、そういう会社の宣伝が入っていまして、もう信じられないです。ですから、とにかくすべてがそういった突然の理不尽が起こってきますと、ほんとにすべてがシャットダウンというか止まってしまう。そういったときには、ほんとに自分の感性というか胆力です。これがその瞬間の判断だと思います。それが自分自身の手の中にある、携帯も全部駄目でしたからね。そういった胆力がやっぱり一番力になるのかなと思います。
胆力ということはあきらめないことです。ですから皆さん、これからもいろんな事態が起こるかもしれません。例えば地震がもう一回起こるんじゃないかと言われたり、皆さんの家族にご病気があったり、あるいはこの中で年配の方は覚えてらっしゃるかどうか知りませんが、預金封鎖とかそんなことが突然起こったりして、これは戦争の後に起こったらしいですけどね。うちの一族は全然預金がなかったから何の被害もなかったんです。(笑)
そういうとんでもないことというのが今後起こるかもしれません。そのときに大事なのは自分。もちろん人のつながりということですけど、その前に自分自身ですね。自分自身の生きようとか、何とかやっていこう、何とかやってやろうというような力だろうと思うんです。
今日はプロジェクターが使えなくてパソコンのケーブルがどうも駄目だったみたいです。一生懸命イトーヨーカドーを走り回ったんですけども売ってませんでした。やっぱり機械に頼るのは駄目だというふうに思って、自分の力、自分でこうやって皆さんの前で顔を出して話すということで、プロジェクターの何百倍も自分の気持ちが伝わるんじゃないかなと思ったりして、そう心に言い聞かせてここでお話しをさせていただきました。
話は変わりますが、『読売新聞』の「ヨミドクター」に毎週月曜日に新しいブログを載せております。皆さんにお配りしたものというのは先週月曜日のもので、原発の被災地から来た子供が放射線障害だなんて差別を受けてる、そういうふうなことを話題にしています。
目を閉じれば思い出す里山をうたったドイツ語の歌を唄います
この蘭に明日出る文章は、原発の被害で自分の生まれ育った里山を離れて、それで暮らさないといけない。何と悲しいことだと。しかし、みんな心の中にふるさとというものを持ち続けて、原発じゃなくてもみんなそれを断ち切って、皆さんも目を閉じれば子供のころ遊んだ、メダカを捕りに行ったり、セミを捕りに行ったりした、そういった風景ですね。それを断ち切って、あるいはその場に住んでいらっしゃる方もいる。一方でずっとそのまま住んでらっしゃる、大貫さんなんかそうかもしれませんけど、でも家が建っちゃってなくなっちゃったのかもしれません。
そういう心の中に目を閉じればずっと思い出すことができる里山を歌った歌があるので、それを今から歌わせていただきたいと思います。これは日本では全然紹介されていないですが、ドイツ語圏内では非常に有名な歌です。何で日本で紹介されていないのかわかりません。歌わせていただきます(拍手。約40秒歌の披露)。どうもご清聴ありがとうございました(拍手)。
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