パネルディスカッション(2008年10月13日・大和市保健福祉センター)

テーマ「術後の生活と再発について」

司会/南淵明宏  パネラー(患者代表)/吉澤ハツ子・丸山佳夫・関澤節男・北川 都

 南淵先生 打ち合わせも全然なしで、しかしいつも僕がお話しさせていただいて、大体この人はこういうことをおっしゃるだろうなと(笑)。さらにこういうつぼをしっかりと押さえてらっしゃるだろうなと。そういう観点から、4人の方に壇上に上がっていただきました。
 さきほど考心会のアンケートをお見せしたように、手術後の不安とか、いろんな知恵、知識、方針ですね。僕も医者ではありますが、医者でしかない、なんてなことをいつも言っております。そういう医者の立場で皆さんからお聞きしていこうという企画であります。(笑)

 手術前と手術後では、生活がどう変わりましたか?

 心臓の手術をお受けになられた4人の皆さんは、受ける前と受けた後で、どういうふうに変わっていったのかということを早速、吉澤さんからお願いします。
 吉澤さん それはもう変わりました。まず心臓の手術をしたということがあまり頭の隅にもないような状況に、ほんとに忘れてしまうくらい体調がよくなりました。一度目はそういうことです。南淵先生は月曜日が巡回だったと思います。あまりにもつらかったときと、術後がほんとに忘れてしまうほど呼吸も楽になったということでお礼を言いたくて、ついつい先生の手を握ってしまったんです。そのぐらいよくなりました。
 実は私の弁が合わなかったんじゃないかと思うんです。先生は、データはないけれどプラスチックの弁は50年は持つということで、長生きをするようにと入れてくださったんですが、どうも私の体質に合わなかったようで結局取り換えることになりました。2度目は生体弁になりましたが、その差は術後がらっと違いました。それからというものは、ほんとに快適に過ごしております。
 南淵先生 吉澤さんは一度、ワーファリンを使う機械弁を入れたんです。退院して2カ月ぐらいで、皆さんがご存じの長嶋さんのように、それまでになかった心房細動が起こって血栓ができてしまうことがあります。幸か不幸か機械弁が詰まってしまった。機械弁が詰まらなかったら血栓が頭に流れていたということもあって、ほんとにけがの功名です。
 しかしもう一度手術をやるという大変申し訳ない状況になりましたが、これも問題なくクリアされて今日に至っております。丸山さんは、どうですか。
 丸山さん 私は先生に僧帽弁の弁形成と不整脈のこと、あと冠状動脈を一遍に3つやっていただきました。私自身は全く症状がありませんでした。最初はお医者さんのほうから、心雑音がするよと言われていました。心臓の弁が若干漏れてるということで、精密検査をやっているうち1年ぐらい前に不整脈が出ました。半年ぐらいモニターしてましたが全然出ないので、じゃあそれでいいでしょうということで、再度精密検査をやったら、今度は冠状動脈のほうが少し詰まってるんじゃないかという疑いがあり、その三つが重なりました。
 本人としては手術の月もゴルフは2回ほど行きましたし、スポーツジムも月15日ぐらい行ってまして全然症状がなかったんです。自分も聴診器をインターネットで買って心臓に当ててみると、ドキン、ドキンの間に、ドキン、ザー、ドキン、ザーという音が入るんです。それが手術が終わって看護師さんから聴診器を借りて聞いたんですが、まさにそのザーもなくて、ドキン、ドキンという音で、ああ、これでよくなったと思いました。
 冠状動脈も半分ぐらい詰まっていて先生に手術していただきました。具体的に言うと今までの自分が500馬力ぐらいだとすると、先生に手術していただいて800馬力ぐらいになったんじゃないかなと思って、手術の後と前とでは気持ちの差がすごく大きいです。毎日を楽しく過ごしていますが、ただ、今のところ、まだ500馬力ぐらいですかね。これからまたジムへ行って800馬力ぐらいにしようかなと思っているところです。
 南淵先生 関澤さんは、どうでしょうか。
 関澤さん 私は初めて先生の診断を受けたときに、「心不全の入院歴はありませんか」と聞かれたんです。当時そういうことはありませんでしたが、駅の階段を上がったところで大きく息をしないと若干苦しい。あるいはバスに乗り遅れそうになって小走りしてようやく間に合うと、しばらく息が苦しいなという状態でした。先生のお話を伺って、これはなるべく早く手術したほうがいいと自分で決断して手術をしていただいた。僧帽弁閉鎖不全という状態だったわけです。
 生活が変わりましたかというお話ですが、がらっと変わりました。何が変わったかというと、とにかく運動するようになったことと食事の内容が全く変わりました。先ほどのリハビリテーション科の教室に通っていますが、今は階段を上がっても息切れするようなことはありません。食事もがらっと変えたことによって、妻からは、何か学習をしてそうなったというよりも、もともと憶病だからそうしてるんじゃないかと言われます。
 南淵先生 では北川さん。
 北川さん 私は最初の手術の前はとても息が上がっていました。肺のほうが悪いのかと思って肺の検査をしたところ、動脈瘤が見つかりました。第1回の手術をしていただいたのが平成8年でした。8年たった平成16年に前の外来のときは何事もなかったんですが、それから2カ月たった外来でまた同じようなピンポン球ぐらいの動脈瘤を見つけていただいた。不養生だからもう2度目の手術はしないぞとおっしゃられるかと思って内心びくびくしていたんですが、おかげさまで手術をしていただき現在に至っております。
 南淵先生 北川さんは胸部大動脈瘤ということで、平成8年に手術をさせていただきました。そして8年後にまた動脈瘤が発症しました。そこよりもさらにもうちょっと心臓から離れたところなんですが、そこを人工血管でそっくり換えるという1回目と同じような手術をされたわけです。
 実は吉澤さんもそうですが、心臓の弁を2回おやりになる。そういった手術の後、いわばつまずきと言っていいんでしょうか、あるいは再発と言っていいんでしょうか。そういうことを実際に経験されているわけです。しかしご本人の中ではいろいろな葛藤もあったと思いますが、気丈にというか、つつましやかにというか、それを乗り越えられたという経歴をお持ちだということです。
 それから丸山さんは最初は僧帽弁だけかと思っていましたが冠動脈も悪いことが分かりました。実はどちらかというと冠動脈のほうが危機が迫っていたんです。冠動脈もしっかりバイパスさせていただき僧帽弁も治すという手術です。丸山さんの場合は非常に具体的な目標が今、おありになる。というのは職場の復帰です。そういう目標に向かって突き進んでおられます。
 それから関澤さんに関しては、手術の後、外から見てると全然わからないのですが、吉澤さんと同じように実は軽い脳梗塞があってやはり心房細動でした。それが原因だと思いますが起こってしまいました。視野が少し狭いという状況になって、これはもう多角的に、つまり周りから見ると全然わからないのですがご本人は大変だということです。
 ご本人の中ではやはり葛藤はあったんでしょうが、僕が周りから見てますとそんなことは全くおくびにも出さず、どういうふうにこれが進展していくのか、あるいは軽減していくのかということをご自身で極めて冷静にお考えになられていました。またその延長でリハビリも一生懸命おやりになられていました。

 食べるものはどう変わりましたか? 何に気を付けていますか?

 もうちょっと具体的に、皆さんにお聞きします。吉澤さん、食べるものはどうですか、どういうふうに変わりましたか、あるいは気をつけてらっしゃいますか。
 吉澤さん 私は手術後、体重はほとんど減らなかったんです。それで食事を毎日3食つけました。体重は朝と夜に測定し、今も必ずそれは実行しています。それで3カ月に1キロぐらい自然に減っていくという感じです。10月で最初の手術から丸3年です。現在では約10キロ減りました。だから、やろうと思ったことをどういうふうにやったら自分は減らせるかという、まず自分の欠点をよく頭に置いてそれを忠実に守っていけばどなたでも実現可能じゃないかと思っております。これは私の体験です。
 南淵先生 でもやっぱり手術をお受けになったということで、スイッチが入ったんじゃないでしょうかね。丸山さん、どうですか、食生活は。
 丸山さん 今まで仕事で大体9泊から10泊、泊まってたので若い人たちとよう飲んでたんです。おいしいものを飲んで食べて。それでちょっと太ってました。現在は泊まりもなくなったんで、いま家で食事してますから徐々に減ってきました。今は3、4キロぐらい徐々に減ってます。食事療法としては、かみさんの愛情のこもった料理だけでやっています。
 南淵先生 外食する、あるいはみんなで食べたり飲んだりすると、やっぱり体重が増えるというのは何が原因でしょうね。やっぱりお酒ですか。
 丸山さん 多分そうだと思います。生ビールでも若い人相手ですから、3杯、4杯ぐらいは飲んでしまいますし、食べ物も結構食べてしまいます。
 南淵先生 関澤さんはどうですか。
 関澤さん 私は体重が一時期かなり下がったんですが、また少しリバウンドで増えました。食事ががらっと変わったと先ほどお話ししましたが、何が変わったかというと肉をほとんど食べなくなりました。それまでは何人前も肉を食べるということを週に何日もする状態だったのですが、今は肉はほとんど食べません。週に1回食べるか、2週間に1回か。卵も食べません。魚も少しです。

 生野菜中心で調味料やしょう油は使いません

 何を食べてるかというと、今はほとんど野菜になりました。コレステロール値は、南淵先生の診断を受けるときはかなりいい線までいってると思います。リバウンドで体重が少し増えたのは量を減らすのが我慢できないということです。野菜はどうやって食べるのかというと、生のまま。煮たものもありますが、それは妻に非常に薄味でつくってもらいます。
 例えばタマネギのスライスは3食必ず小鉢に1杯くらいを何もかけずに食べます。最初はできるかな、できないかなというので、二つ、三つ、口に入れて試してみるんです。何となくこれがタマネギの味かなと思って、じゃあ四つ、五つにしてとやっていってドレッシングも何も使わない生のタマネギを、小鉢に1杯ぐらい食べるのが非常においしいと思うようになりました。
 しょう油もほとんど使いません。にぎりずしもわさびの味だけで、これがほんとにマグロの味なのか、イカの味なのかという感じです。しょう油を使いませんから、にぎりずしも今は食べるのが何でもなくなりました。以前は例えば豚カツを食べるときは、豚カツなのか、ソースを味わうのかわからないぐらいソースを使っていました。
 今は野菜や魚を食べ、調味料を使わずににぎりずしなんかを食べる。そういうことで全く考えもつかないような食事の仕方になりました。ただ量はどうしてもまだ減らせないものですから、体重がまたここで増えてきています。先生とMBIはちょっと競うような数字になりかけて、まずいなあと思ってるんです。
 世界の統計によるとBMIは24ぐらいが一番長寿という数字が出るそうです。糖尿病の関係では22といわれるようですが、統計的に見ると24ぐらいが一番長寿ということで、先生もあと2ポイントぐらい落とさなければいけないんだろうと思います。(笑)私もあと1ポイントぐらい落としたいと思っています。ただ、そういう食生活の質を変えましたので、コレステロール値とか、あるいは血圧の関係では手術前の状態に比べると数字が格段に下がっています。まだ量を減らせる年ではないとは自分では自覚しています。それは大和成和病院にご指導いただきながら、できればBMIが23とか24になるように努力したいと思っています。
 南淵先生 今、肥満はよくないんじゃないかというお話が出ました。、あるいは肉食ですね。さっき僕がお話しさせていただいたように、一つの病気に限って言えば、例えばコレステロールがどれぐらい作用するかというのはわからない。肥満ということもあまりわからない。しかし食生活を規則正しくする。できれば肥満じゃない。これは体全身の免疫力であるとか抵抗力、活力を上げることになるんじゃないかということに関しては僕も大賛成です。
 北川さんの場合は特にコレステロールうんぬんということではないですが、ご苦労されている点は肺気腫で、肺の根本的機能が少し落ちています。そういった意味で食事も体全身のパワーということで源というか、お気にされてると思うんです。北川さんのお食事というのはどうでしょうか。
 北川さん 私は退院のときから比べまして6キロ増えました。
 南淵先生 別に増えることが悪いというわけじゃないです。
 北川さん 先生に手術していただいて家に戻りましたら、すべてがバラ色なんです。年ごろのときもこんなに人生バラ色に見えたことがないぐらいに、何もかもが新鮮で幸せです。ですからお食事も、肺気腫になったら普通はいただけなくなるとお聞きしますが、何をいただいてもおいしいんです。ですから体がそれを要求してると自分で思いまして、いただきたいものをいただいて6キロ増えたという状態でございます。先生も驚かれましたように中性脂肪が200になってしまったんです。先日は176に減りましたが、普通ですと100ちょっとでございますね。

 食事を作ってそれを食べるのが楽しく幸せです

 南淵先生 150〜160ですね。
 北川さん さようでございます。料理するのも好きです。やはりこれ(在宅酸素)を持ってますから外出もあまりできませんので、今はお食事をつくり、それをいただくのが楽しいというか、幸せというところでしょうか。
 南淵先生 北川さんの場合は生活習慣病という形じゃないということですね。それからおっしゃったように肺気腫はどんどんやせていく病気です。ですからやっぱり体全身の滋養と言いましょうか。しょう油うんぬん、味付けうんぬんというところにこだわるよりも、しっかりとカロリーを摂取しなければという面もあります。ですから体重を減らさなきゃいけないとか、コレステロール値を減らさなきゃいけないということに、すべての状態が金科玉条のように当てはまるわけではないということもよくご理解いただきたいと思います。
 北川さん 呼吸器の先生も、「いただけるって素晴らしい。普通はどんどんおやせになってらっしゃるのに、今のままでいい。別に体重を減らそうなんて考えなくていい」とおっしゃって、食生活もあんまり制限したりすることは考えておりません。
 南淵先生 一様にこういった病気をされますと、さっきスイッチが入ったと言いましたが、皆さんもほんとに真剣に考えるんではないかなと思います。例えばご夫婦であれば、奥さんが健康のためにと思って一生懸命につくる食事を、ご主人が「まずい」と文句を言っていたのが、病気をしたらちゃんと食べてくれるようになったというのはよく聞く話です。関澤さんも食事が変わったというのはご自分で、それとも奥さんのご配慮によるものなんでしょうか。
 関澤さん それは何といっていいのかわかりませんが、うちは何でも夫唱婦随でやりますのでお互いの協力の結果だと思います。ただ、私はもともと憶病、と妻から評価を受けてますので、そういうことが原因の3割ぐらいはあったと思いますが、7割は妻に負っているかなと思います。(拍手)   

 運動はどういうふうにやっていますか?

 南淵先生 さきほどリハビリの話もありましたが、体を動かす運動ですね。これまたあまりやり過ぎたら、自分としても心臓がどうなるかわからない不安もあると思います。
 運動も食事と同じで、適度には必要だ。できればしっかり目的を持ってやったほうがいいということに、今はなっていますが、運動に関して皆さんは実際どういうふうにおやりになっていますか。吉澤さんはいかがですか。
 吉澤さん 私は歩くことを毎夜、行っております。先ほども20分を超えないと駄目とおっしゃってましたが、私のやっているのは大体20分ぐらいで終わるコースなんです。具体的には食事が終わりましてから、坂道もある自宅の周りをちょうど20分で歩ける範囲と決めてあります。
 南淵先生 20分というと、どれぐらいの距離ですか。
 吉澤さん 携帯に歩数30センチで入れてあり、それが3900ぐらいですか。それを毎日やっています。少しの雨だったら出ますが、あまり大降りで傘も差せないようなときはやめます。だからそれもちゃんと体重計の横のノートに、今日は歩けなかったということをつけています。
 食事は先生のところに2カ月に1回伺って、血液検査でいろいろ数値を教えていただきますよね。だからちょっとオーバーしたりすると、食べたこれだけをずっと見ると、この辺のお料理が原因じゃないかなということはチェックしやすいです。
 南淵先生 食事も書かれているわけですね。
 吉澤さん 朝、昼、晩書いています。
 南淵先生 まさに今はやりのレコーディングダイエットですね。
 吉澤さん ええ。
 南淵先生 歩かれるのはゆっくりですか、それとも早足。
 吉澤さん 早足とは言えないですね。結構、坂になってますから。でも普通に歩いてます。あんまり、はあはあするような急ぎ足で歩いても疲れますので自分の体に合った速さで、毎日主人と2人で歩いてます。だから今日やめようかなと思っていると主人が「行く」と言ったり、主人がやめようと思っているときに私が「今日はどうしても歩きたいから」と言って歩くので、だから休みが少ないということですね(笑)。
 南淵先生 それはほんとにいいですね。自分だとついさぼってしまいがちですね。
 吉澤さん ええ。それで1年中、夜歩きます。
 南淵先生 なるほど。丸山さんはどうですか。
 丸山さん 私の場合は運動というのは無理すると絶対続きません。やろうと思ってやると一日で終わってしまった経験があります。スポーツは常に1時間くらいにして全然物足りないなというときにやめちゃうんです。そうすると、あしたもやろうかなという気が起きてきますので、それで続けています。ただし、先生に手術してもらってまだ2カ月半なんで、今のところは先生に大事にしていただいた心臓を無理使いしないように歩く程度にして、そろそろ半月ぐらいしたらジムへ行って徐々に自転車でもこいで慣らしていこうかなと思っています。
 南淵先生 でもやっぱり具体的に自分なりに計画があるということですね。関澤さんはいかがですか。
 関澤さん 私は心臓の手術をした後に職場に復帰するということが前提で、先生は事務系の仕事であれば問題ないよと言われたんですが、先ほどお話しいただいた脳梗塞で、ちょっと視野が狭い、色覚がわからないというか黒白の世界に近い見方になってしまう部分があって、恐らく仕事は自分の思う通りにはできないだろうということで1年早めて退職しました。従って今は手術して約2年になりますが、自分のリハビリのために時間を使うことが容易にできるという状態です。
 在職中の最後の時期は息苦しいからということは別になかったんですが、ぜいたくをしました。今日は妻が来ているのでほんとはこういうことは言ってはいけないのかもしれないんですが、正直なことは言っておかないとせっかくこの壇上に上がった価値がありませんので(笑)。通勤の行き帰りに8千円、9千円使ってタクシーで行ったり来たり、電車の定期を持ちながらそういうことをするような運動不足の状態だったんです。。若いころは野球を少しやってましたので運動した後のさわやかさはもちろん経験がありましたが、手術の後はそういう過激なスポーツではなくて散歩することを中心にということで始めました。
 僧帽弁の手術をしていただいた後、ずっと検診に通っていて体の状況を先生に診ていただいていたところ、ペースメーカーの埋め込みをするほうがよいと思いますがいかがでしょうかというお話をいただいて、昨年の9月にペースメーカーの埋め込みをしていただきました。それからは体の動きはなお快調になって、ちょうどペースメーカーの手術をした後に、徳田先生に廊下でお会いしたところ、「大和成和病院で今度外来のリハビリを始めます、いかがですか」と言われて、早速馳せ参じました。
 家で散歩するといっても非常に怖いです。若いときは何の意識もなかったんですが、初めは2本の足で自分が立っていることを非常にうれしく思うぐらい、病気の後というのは怖かったんです。そういう状態で家で手術後1年間は散歩していましたが、足元がふらふらすることもあります。そういうときに脈拍を測ると不整脈もありますから若干心配な状況もあって、散歩の途中で倒れたら困るなという思いで自宅で運動する状態でした。
 昨年、外来のリハビリに通って先日でちょうど10カ月ぐらいたちますので、徳田先生に最初に来たときの私はどういう状況だったかと記録を見ていただきました。リハビリ教室に通ったときのメニューの中心は、運動はいろいろありますが、私はトレッドミル(トレーニング用のベルトに乗って歩いたり走ったりする装置)を使うのが一番中心です。最初の日は時速3・5キロ、傾斜なしで20分間。これが私がトレッドミルを使った最初の日のメニューだったそうです。私は足元のふらつきが心配だ、ということを徳田先生にお話をしたということです。
 大体10カ月たちました。今はどういうメニューでやっているかというと、トレッドミルは40分間使います。うち12分間は傾斜5度で時速6・2キロで軽く走る状態です。12分走るというのはかなり長い時間と感じますがそういうことをして、終わった後に息苦しさは全く感じません。おかげさまでそういう状態まで回復して大変ありがたいと思っており、徳田先生からは「そろそろ卒業ですかね」といわれておりますが、そういう状況に変わってきました。
 私は週に一度通っていますので、そのほかの日は自宅で何をするかというと、徳田先生からいただいているメニュー、かかと上げやスクワットがありますが、散歩のメニューは一日に60分で8千歩。しかしこれは家でやるときは怖くてまだできません。やはり教室に通ってやるというのは非常に安心感があるんです。

 運動して汗を流すと心地よい疲労感を感ずるようになりました

 先日久しぶりに運動して汗を流した後、非常に心地よい疲労感を感じました。当時は藤崎先生が医師として担当されていたので、お話をしました。そうしたところ、運動する前後に血圧や脈拍を測りますが、「運動した後に血圧が上がっていましたか、下がっていましたか」と尋ねられました。もちろん記録していますので、私の記憶でも運動した後に5分たって落ち着いてから測りますが、血圧は下がっていました。そうしたところ、藤崎先生の説明は「血圧が上がったとすれば無理をして運動しているけれども、血圧が下がって心地よい疲労感を感じられる状態であれば、それは運動の効果として血管が広がったということですよ」とほっとする診断結果をいただきました。
 もう一つ、ソーシャルワーカーの講義もあるんです。私もペースメーカーを入れましたから体の調子がよくなりますので、身体障害者に当たるというのはおかしいという医師の見解があるようです。南淵先生に伺ったところ、大和成和病院の方針としては特にペースメーカーを入れて身体障害者に該当することが問題ありという見解はとっていないので、身体障害者の認定を申請されるのであれば協力しますよということで、いま身体障害者の認定を受けていろいろ社会的な処遇としてはありがたい措置をいただいています。
 話がちょっと戻ってしまいました。家でやるべきメニューはちょっと怖くてできないということでどうしているかというと、徳田先生に相談しました。実際に私は60分8千歩ですが、40分で5千歩のところに行って帰ってくるというのが今のメニューです。いまお話がありました、やろうと思ってやっていわゆる三日坊主になってしまうこともあるということでした。やっぱりやることの目的があれば長続きがするんだろうと思っています。
 私が40分で5千歩行った先に何があるかというと、駅に大型書店があるんです。その大型書店で情報を収集するのが非常に面白い。今日会場においでになっている方はお読みになるかどうかわかりませんが、いま若い人向けに『R25』、あるいは『L25』(女性版)、いわゆるフリーペーパーがあります。それをただでもらってくる。あとは岩波書店が読者ファンのために出している「図書」という小冊子ですね。私の知っている範囲では、岩波、筑摩書房、講談社の各出版社が月に16種類ぐらいの小冊子を無料でくれるんです。本屋さんに行って情報収集するといっても単に立ち読みだけではなくて、非常に有効な時間の使い方ができる。そこで一休みをしてまた帰ってくる。
 もちろん妻から頼まれて、夕食の買い物も駅の近くですからやってくるということも併せてできます。そういう目的がありますから、運動としてやるというくらい厳しくはないんですが、散歩をしてくるという程度であればということで毎日行っています。月に16種類の本をもらうとすれば平均して2日に1冊ずつ新しい本が、各出版社が宣伝したいことをたくさん載せ、中には政治批評もありますし、経済問題を論じたものもあります。小説もあり、エッセイもあり、そういうものを情報収集として得られますので非常に面白い、散歩の目的を持ってできているという状態です。
 追伸で申し上げます。(笑)妻がつくってくれるおいしい食べ物で一つ忘れてしまいました。今まで、おからなんていうのはばかにしてたんです。ところが今はおからがないと日々暮らせないという状況です。(笑)妻の味付けが非常によろしいということはもちろんですが、おからをサラダにして食べるというものです。常食にするということは妻が毎日買いにいくんです。私はさっき野菜をたくさん食べる話もしましたが、おからも常食にして楽しい食生活を送って、運動もして、情報も若い人にも負けないぐらい得ているだろうと思っています。
 南淵先生 ありがとうございます。今のお話にありました、リハビリに通うと優等生なんだけれども、家に帰るとやっぱり怖いというお気持ちというのは皆さん持っていると思うんです。徳田さんはどうですか。
 徳田先生 リハ室に来て運動していただいて、おうちに帰ってはできないと…。確かに人間はそういう弱さの部分がありますのでそれはしょうがないと思います。ただ、最初そうやって打ち明けていただいて、じゃあこういうやり方がありますと提案しますのでそういうのを隠さないで、やるところと、やらないところを分けて、実際うまく運動のコーディネーターができるかなと思っています。
 南淵先生 あともう一つは、関澤さんのようにたまたま廊下で徳田さんに会ったという人もいますが、会わないような人はどうすればいいですか。


 心臓リハビリは、保険で自己負担は2,000円位です

 徳田先生 まず成和病院の代表にご一報ください。リハビリテーション科の僕あてでもいいですし、看護師がいますので、「リハビリを受けたいんだけど」という相談があれば手続きは書面にて連絡することも可能です。まずは行動を起こす、第一報をくださいということです。
 南淵先生 リハビリテーション科の構成は、徳田さんのような理学療法士がいま5人ですね。あとリハビリテーション科専属看護師の遠藤さんが1人で対応して、実際の手紙を送ってくれるということですね。
 徳田先生 はい。書面にてお渡しすることもできます。実際に受診しないといけないことになりますので、そういう手続きなども簡単になっています。保険診療代で賄えます。金額は保険を含めて自費が2千円前後です。
 南淵先生 3割負担だと2,000円。
 徳田先生 はい、2,000円です。1回1時間、運動と教室の指導を含めて大体2千円以内で収まるようになっています。
 南淵先生 ということですね。でも足裏マッサージのほうが安いかもわかんない。(笑)足裏マッサージよりずっと効果があるかな。
 徳田先生 南淵先生は体型を維持するために、1回リハビリテーション科に来ていただいて実際運動するとその効果がわかります、足裏マッサージよりはいいかなというのが。
 南淵先生 すみません、僕は続かないんですよね。(笑)北川さんはどうですか、いま運動のほうで。北川さんからはここ10年、いろいろと人生勉強させていただきました。男と女は違う。男はひっくり返って寝てれば済むけど、女は家の中で働き詰めだということだと思うんです。ですから女性というのはひょっとしたら何もしなくても結構、家の中で動いているということも言えるんですか。
 北川さん よくおっしゃってくださいました。その通りでございます。
一切運動はしておりません。主人の分も自分が動いておりますので、2人分のエネルギーを使っておりますので、これ以上は……。
 南淵先生 今のはとても重い言葉ですね。(笑)
 北川さん その通りでございます。
先生、おかげさまで、主人が88歳で、私が1週間前に78歳になりました。
 南淵先生 お若いですねえ。(笑)
 北川さん 恐れ入ります。いわゆる朝のトイレについていくときから、夜寝るときのおむつの交換まで、全部しなければいけないんでございます。ほんとに女の人というのは朝起きてから夜寝るまで、それも1時か2時ごろでございます。夜中にやはり声をかけて3回ぐらいおむつ交換をしますので、もうそれで十分だと思っております。(拍手)ありがとうございます。
 南淵先生 ほんと素晴らしいですね。自分の体だけ心配してればいいというわけでは決してないという現実があります。
 北川さん もちろん主人が会場には来ておりませんから申し上げられるんですが、家では在宅酸素を朝から寝るときまで吸っております。それでないともう過呼吸になってしまって、それは精神的なこともあると思います。ですからとても今はリラックスさせていただいております。
 南淵先生 この場にいるということが……。
 北川さん はい、このひとときを。
 南淵先生 我々男性の議論がぶっ飛んでしまいました。(笑)どうですか。徳田さん、今の話からすると。

 自己管理をしっかりしていれば運動しなくてもいいです

 徳田先生 これを言うと僕たちの仕事がなくなるので(笑)。でも北川さんみたいに自己管理をしっかりされていればそこまで運動をする枠をとらなくていいと思います。ご主人の分までしっかり頑張っていらっしゃいますので、そのままの生活スタイルでいいと思います。もうちょっと寿命を延ばしたかったらどうぞ運動を。(笑)
 北川さん ただ寿命を延ばすというのではなくて、先生から二度も救われた命ですから人生をすごく楽しみたいんです。ですから主人の看病も楽しみながらやらなければ続かないなと思っております。プラスに考えております。(拍手)
 南淵先生 自分の寿命を延ばすとか、そういったエゴがないということですね。
 徳田先生 まさしくクオリティー、QOLの向上を実践されている方だと思います。
 南淵先生 男性が住んでいる世界と、女性が住んでいる世界は違うんですね。世界が宇宙が違うと言いましょうか。(笑)でも「運動対応能」という言葉があるんです。関澤さんの説明にもありました。ベルトコンベヤーの上を走ってて脈拍がどうなるか。これはある程度の時期で見てみる。関澤さんの話にあった脈拍もそうですけれど、要するにその人にとってあまりにも過重だと脈拍が上がり過ぎる、あるいは血圧が上がり過ぎるということはどの程度かというのは知っておくべきじゃないかなと思うんです。そういう意味での確認みたいなものというのはどうなんでしょうか。


 運動の目安を自分で知っておくことが大事です

 徳田先生 そうですね。ご自身がどこまでやっていいかという運動の目安を知っておくのは非常に大事なことだと思います。ご自身でわからなければ僕たちに頼っていただいて目安づくりはできます。
 南淵先生 これは現実にうちの病院だけじゃないと思うんです。外来診療はよその病院でもそうです。医者が座っている、患者さんがそこでお話をする中では、日ごろ自分は例えばテニスもやっていいのか、山登りもやっていいのか。じゃあ、ホルダー心電図をつけましょうと。ホルダー心電図をつけていろいろやってどうですかと。座ったままで何かするというパターンから逃れられない点があるんです。
 ところが徳田さんのところへ行くと、なるべく目の前でその瞬間に再現して、血圧や脈拍、「運動対応能」という、運動にどれぐらい対応できるか。要するに赤信号なのか、あるいは達成感ですね。関澤さんがおっしゃったように、運動の後にものすごく気持ちいいものも出てくるのかどうか。それが自分の感覚だけじゃなくて、実際の心臓の心電図とか血圧が数字として語ってくれるということですね。
 徳田先生 まさにその通りです。
 関澤さん そこのところ、僕は「リハ生」という言い方をするんですけど、感想だけ具体的に述べます。私がいまトレッドミルを使っているときに、6・2キロで走ると脈拍が160ぐらいまで行くんです。150を超えるんです。でも多分それは自分でそういう状態に一人でなったらとても怖くて何もできないと思うんです。そういう状態になってくるのは、徳田先生なり、あるいは遠藤看護師がそばについてくれて実際の脈をとってくれるんです。機械の上で走ってますから、多少振動で160となってなくて大体140ぐらいなんです。
 しかしそうは言っても脈拍140がずっと続けば心配かと思います。でもそれはあそこで運動してればいつ倒れても、すぐに南淵先生が駆けつけてくれるだろうと安心して運動ができる。そういうところは非常にいい環境でさせていただいています。
 いま北川さんがいろいろ生き方の問題をお話しされました。私なんかまだ到底そういう境地には及びませんし、南淵先生が言われるように同じ男ですから、「ちょっとあんたがあっちよ」と言われるかもしれません。それにしても運動した後の心地よさが感じられると非常にうれしい。それには安心というのが前提で、大和成和病院のリハビリ科ではそういう非常にありがたい経験をさせていただいているというのが感想です。
 南淵先生 どうもありがとうございます。最後に何かご意見がありますか。吉澤さんはどうですか。女は大変だとか。
 吉澤さん それはあります。主人も75歳で昭和の世代ですから、一切お料理ができないんです。ご飯一つ炊けない。だから退院してからずっと自分でお料理はつくってます。
 南淵先生 退院したばかりであるにもかかわらず、全部家のことをする。
 吉澤さん そうなんです。ほんとに文句を言いたいんですけど、できないから言いようがないんです。(笑)「出来合いのものを買ってきて」と言うと、これがまた味が濃かったりとか食べられないんです。ですから結局自分がつらくても我慢してつくります。退院した日の夕食で、私は近くのヨーカドーを通って自宅に帰るんです。車を止めて買い物して主人は何もできないものですから……。
 南淵先生 今日はご主人は来てらっしゃらない。
 吉澤さん 来ておりません。「行きたい」と言ったんですけど、「来ちゃ駄目だ」と娘にも言いました。言いたいことが言えないから。(笑)
 南淵先生 でも自分の心臓手術が終わって退院した日の夕食を自分でつくると、これはまた素晴らしい。僕的にも非常にいいネタでどこかに書こうかなと思います(笑)。
 吉澤さん いや、ほんとに家出しようかと思いました。(笑)
 南淵先生 ちょっと終わらないような感じになってきましたね、今の話を聞いていると。(笑)
 吉澤さん これはうそ偽りなく事実です。ですからもし奥さまが手術なさったんだったら、ご主人さまがまめにしていただきたいとお願いしたいと思います。(拍手)
 南淵先生 丸山さん、何かお話がありましたら。
 丸山さん 勉強になりましたのは、徳田先生の授業を受けましていつも自分で筋トレなんかやるんです。筋肉を持ち上げるとき、ついぐっと持ち上げて、あとは緩めてしまってこういう練習をしてたんです。そうしたら徳田先生が「いや、逆で、これはいいけれども、緩めるときにゆっくり下ろしたほうが一番運動にいいんだ」と言われます。要するに足なんかも一緒ですね。何でも動かすときにさっとやって、あとは力を抜きますよね。それは全く逆のことを教わりました。それはすごくこれからの運動にいいと思います。
 南淵先生 それはなぜですか。アイソメトリック運動。
 徳田先生 そうです。筋肉が一番つくのは引き伸ばされていく。これは腕でいうと曲げるのは筋肉が縮こまりますが、伸ばすときはそのまま筋肉は伸びます。伸びるときに抵抗感があれば一番筋肉がつきます。合掌してぎゅっと同じ力を入れると、これは伸ばすときも少し効果は弱いですがここにつきます。ぎゅっと何かを持って、マイクでもいいです。ぐっと引き伸ばせるのが一番つきます。これは3通りしかないです。  
 南淵先生 残念ですが時間が来ました。今日はほんとうにありがとうございました。なかなかいい企画でした。(拍手)