術後、再狭窄が見られるが不整脈はどの程度までが許容範囲ですか?
質問者C 3年前に倉田先生で手術をした者です。そのときに5本やったんです。そのうち何本か狭窄しているというのを、CTの検査でまた話をされたんです。その後、気のせいか、不整脈がちょっと数が多くなってきているのを感じます。先日、ホルター心電図で1000回ぐらいあったらしいんですが、どのくらいまで許容なのか、そのあたりがちょっと不安なのでお伺いしたいんです。
南淵先生 不整脈は内容によりますので、今の質問に医学的な根拠をもって合理的にお答えすることはなかなかできないのですが。不整脈には心室性の悪いほうの不整脈と、心房性の上質性のいいほうの不整脈があるんです。心室性が1000回出ていると割と大騒ぎになりますので、多分そうじゃなくて心房性のものだと思います。
心房性の不整脈というのは、冠動脈のバイパスをしようが、しまいが、する前であろうが、あるいはやって、それでうまくいってない場合であろうが、ものすごくうまくいった場合であろうが、全くそれとは直接関係なく出るものであります。ですから不整脈が出ているというのは、また別の局面としてとらえるべきであって、バイパスがうまく機能していないから不整脈が出るというふうなたぐいなもので1000回ということでは決してないと思うんです。そうやって心配な現実に直面したということで、やっぱり精神的なストレスとか、そういったものが影響しているのかなという気がします。
あと、5本というのは結構多い。インターベンション、風船、カテーテル治療ですね。1本ですとほとんどカテーテル治療になりますから、バイパス手術というと大概3本以上、4本弱です。年間平均すると大体3・2本ということになるので、5本というと少し多いぐらいですけど、それだけ細かい部分に枝分かれしている血管であったということで、1本当たり流れる血流ってそんなに多くないのです。
ですからやっぱり5本の中でも、2本しっかり機能しているのであれば、それはもう心臓としては十分だと思います。あとの3本はそんなに、要するにもともと血流があまり必要じゃないようなところというのはだんだん細くなってはくるんです。これは一般論で、患者さんの場合、ほんとにそれが深刻であるのか深刻でないのか、またそれはそれで全然違うと思います。
他の手術でバイアスピリンは止めてくれといわれますが?
質問者D 3年半前、南淵先生にバイパス3本の手術をやっていただいて、その後、心臓のほうは朝夕の薬を飲む以外は全然、心臓を患ったという意識はなく元気に暮らしております。ただ、今ちょっとほかでお話がありましたように、歯医者さんで歯を抜いたり、その他、バイパス手術ほどの大手術じゃありませんが、内視鏡でちょっと手術したりというような経験があるんです。そのたびにバイアスピリンはやめてくれと、どこの病院に行っても言われる。これはやめたほうがいいのか。
南淵先生 バイアスピリン程度でしたら、1週間、10日とか2〜3週間でも問題ないと思います。ワーファリンとは全然違います。ワーファリンは血が固まらないように、非常に厳しくコントロールされている状態の患者さんということなんですね。バイアスピリンというのは、それより随分緩いですから。
例えば消化器の手術、胃の手術ということで、あるいは大腸のポリープ、よくあるのが内視鏡で大腸ポリープを切るというときに血が止まらないかもしれないのでということですね。これをおなかを切ってやるんだったら、出血しているところをしっかり見て止めて、これで完ぺきだということになります。要するに技術で、より高い止血性というか、血が止まっている状況を自分の技術でカバーできると医者は自負されていると思うんです。
内視鏡の場合は遠隔操作ですから、切っちゃって「あれ、出てるなあ」というようなこと。あるいは終わった後でまた出血しだすということをやっぱり心配すると思うんです。でもそれはシーソーみたいなもので、シーソーの片側に乗っているというのは、心臓がひょっとしたら危ないかもしれない。
端的な言い方でお医者さんに大変失礼ですけど、乱暴な言い方をすると、その先生が訴訟を怖がっていると。バイアスピリンを切って大腸のファイバーのポリープを取ってそれで心筋梗塞になっても、あるいは血が止まらなくても、大変なことになるとどっちにしろ問題になるわけです。別に訴訟とは限らないですから。その先生のご判断、あるいはセンスの問題かなと思います。
先ほどの不整脈の問題もあるんですが、お医者さんそれぞれというのは、ほんとに考えとか、あと何を目指してそういうふうにおっしゃっているのかという、ほんとに千差万別なところもありますので、その辺はほんとに個々のケースバイケースでもあります。でも一般にバイアスピリンは1〜2週間程度であれば止めても大丈夫という人が多いのではないでしょうか。
歩くときに一歩前へ出るときなかなか歩きにくい!
質問者E ここのバイパスグループの方々は何も問題ないんです。ただ、お1人だけ、ちょっと歩くときに一歩前へ出るときになかなか歩きにくい。あと2〜3歩、歩きだすといいということをおっしゃっている方がおられるんです。どうしてそういう現象があるのかどうか聞きたいなというのが、このグループの先生に対する質問です。
南淵先生 いやあ、それは難しい質問ですね(笑)。禅問答のような、人間というのは一歩を踏み出しにくいということなんでしょうか(笑)。一歩踏み出してしまうと、2〜3歩ぐらいはそのまま行けるというようなことで、非常にうんちくの深い哲学的なお話ですね。茶化してはいけないんですけどね。
この歩くという日常の動作というのがやっぱり皆さんの感じていらっしゃる、自分の健康のバロメーターだと思います。走ったり、山登りが好きな人でも、毎日やっているわけではありません。とにかくそういう日常の、よく我々は医者になって、患者さんが病気だ、調子が悪いというようなときに、「布団の上げおろしができますか」とか、「つらいですか」とか聞きます。いまどき、あまり布団の上げおろしってないのかもしれませが、僕が医者になった20年ちょっと前はよくそんなことがいわれていました。それに類することです。つまり歩くということは。
やっぱりいろんな原因も考えられると思うんです。例えば脳の中枢神経系のパーキンソン病とかですね。ところが想像するところ、大変失礼な言い方ですが、その程度の状況であれば整形外科もあります、心臓ということもあるし、先生方はそれぞれの立場で判断される。神経内科の先生は「これは脳かもしれない」「パーキンソン病かもしれない」と調べたりしますが、なかなか答えが出てこなかったりする場合があります。
僕自身も「これは自分の範囲外だよ。そんなの知らないよ」というようなことをよく聞かれます。でも多分、この方はそういう専門のところに行っても、やっぱり同じように「いや、これは気のせいですよ」とか、ひどい医者は「年のせいだ」とか、もっとひどい医者は「それは手術を受けたせいだ」とかいって僕のせいにされたりするんですが、いろんなことがあったりします。
やっぱりそれはそれで一つの患者さんの自分で見るところの不都合というか、これは前と違う、何かひょっとしたら大きな病気が隠れてるかもしれないという、そういう視点というのは絶対間違いではないわけです。そういうことというのは、日ごろのかかりつけのお医者さんで足から頭までずっと全身を診て、あるいは話でもよく相談に乗ってくれるというお医者さんに診てもらう状況で、何か病気が疑われるのか、そうじゃないのかということで時間をかけて見つけていくしかないんじゃないかなと思います。
静脈の寿命はどの程度ですか?人間の寿命との関係は?
質問者F 私も南淵先生に手術をしていただきまして、心臓のほうは全く何の不安もなく暮らしております。お尋ねしたいのは、手術のとき使った静脈の寿命と、人間の寿命の関係です。静脈のほうの寿命は「あなた、せいぜい12〜13年だよ」と言われることが多いんです。それを聞いた人間は、「おれの寿命はあと12〜13年か」というふうに早とちりしてというか、考えてしまいがちです。やっぱり私も不安を持っているわけです。
果たして限りなく私たちの寿命は、静脈を使った人は12〜13年に近いのか。それとも一緒に使ってくださっている内胸動脈のほうが頑張ってくれて、生活をこれからしっかりと気をつけていけば、20年、30年と長生きできる可能性もあるものなのか、教えていただければと思います。
南淵先生 端的に申し上げれば、個人差があります。皆さん、ほんと千差万別であって、内胸動脈だからといって必ず長持ちするとはいえないし、静脈でもすごく長持ちする人のほうが実際には多いと思います。やっぱり悪い血管というのが目立ってしまうわけです。つまり静脈だけのせいで、手術の直後はものすごくよく流れていたのに、数年で詰まってきたというような人が、どうしてもお医者さんが診てても目立ってしまうわけです。
この中にはバイパス手術の患者さんがたくさんいらっしゃると思うんですが、多くの人はステントを入れていると思います。ステントを入れた結果、バイパス手術になっているわけですから、皆さんは間違いなく、「ああ、ステントは詰まるんだな」と思っているわけです。ところが世の中にはステント治療をやってずっと問題ない、ステントが埋め込まれるようになった12〜13年前にやって全く問題ないという人もいらっしゃるわけです。
僕も最近出た本の中に、10年以上全く問題ない、弾力性もあって非常によく機能している患者さんがいると書きましたが、実際そういう人もたくさんおられます。
それから、手術のときに使う静脈を見ても大分、分かります。静脈の壁がぶ厚くて、割とかちかちになっている人もいますし、あるいは非常に壁が軟らかくて弾力性がある、ぴょんぴょんとゴムみたいになっている人もいて、そういう人というのはものすごく静脈自体に活力がありますから、絶対長持ちするだろうなと思いますし、実際そうだと思います。動脈もそうですけど、静脈のほうがもっと人によって長持ちするか、しないか違うということです。
僕も動脈のほうが恐らく長持ちするだろうと思ってますから、大事なところに静脈は使わなくて、大事なところに内胸動脈を使う傾向があります。でも手術によっては大事なところに静脈を使ったほうがいい。それは静脈のほうが流れが非常に確実だからで、手術中に確実な血液の血流を担保できるんです。静脈のほうが確実に信頼できるわけです。流れているか、流れていないか、触ればすぐ分かります。非常に物理的にというか、目の前でこの手術はうまくいったなと分かるんです。
動脈というのはちょっと肉がかぶさってたりして、あるいは細かったりして、ほんとによく流れているかという直接のアピールが静脈より少ないのです。そういう意味で、心臓の動きがすごく弱くて、絶対確実に大量の血液を冠動脈に流さないといけないというような人にはこぞって静脈を使うようにしてます。ほんとにまれなケースですが、問題なく流れていた静脈が2〜3年して、中がかちんかちんの石みたいなものが詰まってきたというようなこともありますが、そんなによくあることではないということです。
他の手術を受けるのにワーファリンを止めてもいいですか?
質問者G 平成15年1月5日に南淵先生にお世話になっています。ちょっと変な話なんですが、私はいぼ痔ができちゃったんです。肛門専門の病院へ行って診てもらったところ、まずこの程度だったら手術しなくても大丈夫だと言われました。しかし手術をする場合には循環器の先生に、ワーファリンを飲んでいるので許可をもらってからでないとできないといわれました。今は酸化マグネシウムでコントロールして便秘にならないようにしています。このワーファリンをやめて何でもなかったら手術してもいいというような話も聞いたんです。何かあったらこっちが困っちゃうんですが、それをやめていいもんですか。
南淵先生 いや、分からないです、それは。分からないからお医者さんも悩んでいるわけです。循環器の先生に聞いたところ、循環器の先生に責任転嫁というか、保証しろというふうなことでいわれても、それは先のことは分からないです。何をするにもリスクはあるんですよ。
とにかくリスクなくして何も得るものがないというような、ちょっときつい言い方なんですけれども。そうやってどうなるか分からないということ、もし仮にそれをリスクだとするならば、リスクだとは限らないと僕は思います。人間はだれでも病気をする、しないに関係なしに将来のことは分からないわけで、生きていること、すなわち命あることがリスクという考え方もあります。
何かあったら不安だ、とそれは全くおっしゃるとおりなんですが、何事にしても何かあったら不安というのは尽きないと僕は思うんです。その先生の経験で、あるいは何かあったとしても対処できる、あるいは何かあるかもしれないと考えていらっしゃるというのはまだ素晴らしい先生だと思います。
その辺はやっぱりよく話をして、この先生は信用できそうだと思えば、そのお医者さんのおっしゃるとおりにすればいい。でも今のところ、手術をしなくていいわけです。もし手術することになったら、それは止めるのも、要するに「前門の虎、後門の狼」ですからね。止めてもリスクあるし、止めなくてもリスクがありです。いや、別にしゃれで言ったわけじゃないんですけどね、「後門の狼」って。(笑)
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