田中秀治先生(国士舘大学大学院救急システム研究科教授) 

2012年5月6日(大和市保健福祉センター)

演題:心肺蘇生法の重要性について

大学で救命救急士の育成と心肺蘇生法の普及活動をしています

 ご紹介をありがとうございました。田中でございます。(拍手)。今日はこのようなすばらしい会にお呼びいただきまして、また皆さんのお役に立てればと思って参りました。
 私は今、ご紹介いただきましたが、国士舘大学に現在籍を置いております。国士舘大学というのはそういう大学だったかなと皆さん思われるんじゃないかと思います。私は10年ほど前に国士舘に移動するまでは、ずっと三鷹にある杏林大学の高度救命センターで救急医療を専門にやっていました。
 現在は救急救命士といって、皆さん119番をかけますと救急隊が来られると思います。その育成をしています。119番のスタッフは最近では医者が救急の現場で行う処置の半分ぐらいのことをやれるようになってきておりまして、非常に高度な医療を実践できるようになっています。そういったスタッフを4年制の大学で育成しているというのが私の主な仕事で、それとともに救急医療をやりながら、いろいろな形で心肺蘇生法というのを普及させていただいています。
 皆さんは身内の方、あるいはご本人が心臓の疾患をお持ちになられて、いざというときにどんなことをやるかというのは大体頭に入っておられるのではないかなとは思います。しかし、これがいざとなったときになかなか実践できるものではないと考えております。
 そういったことも含めまして、今日は前半の部分で最近非常に増えてまいりましたAEDについて、そして後半の部分ではその応急手当ての仕方について私のほうで説明をした後に、うちのスタッフにデモンストレーションをしてもらおうと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

70〜80年代の日本人の死因のトップは脳卒中から癌に変わってきました

 まず、最初は少しスライドを使ってご説明をしていきたいと思います。このスライドは日本人の『国民衛生の動向』という本からとってまいりました内容です。死因の変化と突然死の増加についてということです。
 1970年代というのは日本人の死因のトップは脳卒中と言われていた脳血管障害だったのです。ご存じのように東北地方で非常に塩の多いもの、あるいは塩分を含むもの、そして寒い気候ということが重なって脳卒中が多かったことがありました。これに関しては国が脳卒中センターというものをつくったり、あるいは研究を進めてだいぶ予防が進んできました。塩分の少ない食物をとる、あるいは血圧のコントロールをするといった対策で脳卒中自体は減ってきたのです。それに取ってかわってきたのが80年代ぐらいからナンバーワンになりました、がんとか悪性新生物による死亡です。
 これは私たちの身の周りでもがんによる死亡の方が増えてまいりましたし、こういったがんというものが多いというのは皆さん認識されてはいると思いますが、実はがんもだいぶ治るようになってまいりました。一生のうちに二つ、三つのがんを伴って生きている方もおります。私自身も実は30代のときに一度がんになりまして、1年ぐらい仕事ををすることができなかった時期がありました。
 そのような経験もありましたが、その後も救急医としての仕事が続けられるようになったということを考えますと、人生のうち、二つ、三つのがんを背負い込むというのはこれからの医療者としては当たり前かなと思います。そのときに私が感じましたのが、自分が病気になり、患者さんの立場になって約1年間、自分の大学病院に入院し、そこでいかに自分たち医療スタッフすべてが、患者さんの目線で仕事をしていないかということでした。それはその後の私の医者としての仕事には非常に役立っております。

現在は12万人の方が突然死、そのうちの50〜60%が心臓疾患です

 ちょっと話がずれました。がんの話は今日の主役ではなくて、実は1番は心臓疾患です。この心臓疾患は年間18万人近くの方がこれによってお亡くなりになられていると言われています。この数値は同じように心臓の突然死というところを選んでまいりますと、心臓かどうか原因は別として、突然死というのはこのように2005年から毎年のように増えてきているのです。この増え方というのは非常に急速に変化をしてきています。
 今日、私の前にお二人の非常に高名な先生方がご説明いただいたと思います。心臓疾患は今、日本人にとっては最も考慮すべき疾患になってきていると考えていいと思います。2011年には約12万人の方が突然死をされている。この中の恐らく心臓疾患だろうと思われる方というのが6万人を超えています。大体50%か60%の間ぐらいが心臓疾患が原因で突然死をなさっているということです。
 これは何とかしなければならないというのが私たち救急をやっている人間も考えていることです。といいますのは、毎日、救命センターというところで患者さんをお引き受けしていますと、その中に心臓疾患を原因として運ばれてくる方が非常に増えてきているのです。そういったことを考えますと、もう一歩手前で何か予防できないだろうかというのが私たちの考えであります。
 ご存じのように交通死亡事故はだいぶ減ってまいりました。ただ、最近は大きなバスの事故や子どもの通学中の事故がとり上げられていますが、交通事故による死亡は実は5000人を切りまして着実に減ってきています。昭和40年代ぐらいから、まさに交通戦争と言われた時代はそろそろ終えんを迎えています。日本の社会構造から考えて、交通事故というのは絶対になくなりませんが、今は病気によって亡くなるということが増えてきているという状況になっています。約12万人の方、特に1日350人近くの方が突然にその命を絶たれている現状があります。その原因の一つが冠動脈疾患と呼ばれる病気です。それは冠動脈という心臓を取り巻いている動脈の一部が狭窄を起こしている状態です。

本人も認識していない冠動脈疾患が若い世代に増えています

 この心臓血管の写真は、実はすでに3回フルマラソンを走られた後に、東京マラソンの第1回で心停止を起こされた方の血管です。この方は倒れるまで自分の心臓が悪いというのは全く認識をしていませんでした。ところがここを見ていただければわかりますが、99%近い狭窄があり、これが原因で走っている最中に心室細動というのを起こしてしまいました。これが今、日本人の体に起きていることなのです。
 この冠動脈症候群の危険因子というのは血圧が高い、高脂血症、喫煙、肥満、糖尿病、A型気質とさまざまなものがあります。年齢因子でやはり男性というのもかなりリスクとしては高い。そしてそれぞれの因子が軽い高血圧、軽い高脂血症というような状態で、軽いのが四つ合わさりますと、麻雀用語で言うと満貫というものになります。
 すなわち、それぞれ一つ一つがそんなに重篤なものでないにしても、こういった四つの因子が重なって――ここに「死の四重奏」と書いてありますが、動脈硬化の悪化、それによって起こる心臓疾患というのが最近若い世代に増えてきているのです。
 ではどういう世代がこういった突然の心臓疾患を起こしているかということです。40代から男性に多くなりまして、50、60、70代までは女性に比べると男性のリスクが約5倍から8倍といわれています。40代、50代の働き盛りの男性が突然死するリスクが結構増えてきているというのが今の日本の現状かと思います。
 先ほど申しましたように12万3000人の方が2010年に突然死を起こしています。この方々が社会復帰する率というのはどうかといいますと、5・4%。それでも随分よくなったのです。20年前は社会復帰する率が2%ということを考えますと、私が救急を一生懸命やっていたころですが、一晩に5人ぐらい心臓が止まった患者さんが来る。そのうちの5人といったら、20回ぐらい当直して1人か2人しか助からないという状況でした。

高度医療や設備、スタッフがそろっていても現場で処置ができないと助からない

 高度な医療、高度な設備、そして高度なスタッフをそろえていてもどうにもならないというものがございます。これは何かというと「時間」です。発作が起きて心臓が止まってから病院に運ばれるまでの間にどれだけ早く運ばれたかによって、その時間が変わってきます。もっと言えば、目の前で倒れた方がいたら、その場にいる方がどう処置をするかによって、食い止められることが多くあるということです。
 私が今、心肺蘇生教育に力を入れる理由がそこです。自分で患者さんを診ている限りその人は助けられるのですが、その手前にいる人たちは絶対に助けられないのです。なぜかというと、自宅まで私たちが往診に行っていたら到底時間が足りません。往診をする時間があれば救急隊が運んできたほうが早い。でも救急隊が運んできても病院まで30分はかかってしまう。そのようなことからやはり現場で処置をしてくれる方が必要だということを強く思うようになりました。
 寒い朝の歩行中に胸痛発作を起こされてそのまま意識がなくなり、心停止になってしまうという状態や、アルコールを飲んだ後にお風呂に入ったりシャワーを浴びたりしてそのまま心臓発作を起こす。あるいは若い人でもマラソン中に急に心臓に負荷がかかり、それによって心停止を起こすというようなことが多々あります。こういうのは今までの日本の食生活、あるいは運動量、そのほかいろいろなものの因子が重なり、冠動脈疾患というのが増えてきています。こういったものを現場で正しく処置をすることというのが救命率を上げる一つの方法になります。

心臓発作の75%が自宅で起きている 自宅用AEDが必要な時代です

 この12万件のうち、心停止がどこで起きているかということを調べてみますと、75%が自宅で起きているのです。ご承知のようにAEDと言われる機械が普及してきました。皆さん方が公共施設で倒れたり、あるいはこういう屋内、あるいは屋外でもそうですが、こういった施設ではAEDがずいぶん設置されるようになってきているので、倒れても間に合うのです。しまし、自宅の中にAEDを設置している方というのは非常に少ないのが現実です。
 米国ではドクターの処方せんがあればAEDを購入することはできるのですが、まだまだ個人で購入するには非常に高い機械です。30万円以上はしますのでなかなか難しいということがあります。ただ、この12万件のうちの75%が自宅で起きている事実を考えますと、自宅で何らかの応急処置ができる、すなわち家族の中で応急手当てをお互いにできるようにしておくことがものすごく大事なことだろうと思います。
 もう一つ、私は今、国の厚生労働省やほかの施設にもずいぶんお願いをしているのですが、AEDを自宅につけなければいけない人はもっと多いのではないだろうかと思います。そういった方々がつけられるようにもっとコストの安い、例えば1台が10万円を切るようなAEDがあった場合には、もっともっと助かる人が増えるのではないかといわれています。
 実はAEDが自宅にない理由の一つはコスト高がありますが、自宅用のAEDというのがまだ開発されていないところもあります。今、全世界では十数社のAEDメーカーがありますが、そのうちの主要メーカーに今、この自宅用AEDを早く開発しなさいということでお願いをして廻っています。

マラソン、サッカーなどスポーツ中の突然死も少なくない

 さてもう一つ、皆さんに知っておいていただきたいことはスポーツ中の突然死も決して少なくないということです。30代までの事故で一番多いのがランニングということをご存じでしょうか。40代を超えますとゴルフがナンバーワンになります。60代になるとゲートボールということで、どうもこういったスポーツが突然死を起こしやすいものだと認識をされています。若い年齢だけに考えてみると水泳やサッカーということになります。
 この新聞記事はマラソンをしている最中に3人が1日に亡くなったという記事です。マラソンをする際に心臓のぐあいが悪い方はマラソンにはあえて挑戦しないと思います。すなわちこの3人はいずれも走る前までは全く異常がなかった方々。それがマラソンを契機に亡くなっているのです。これは58歳の男性。レース中に倒れ、心筋梗塞で死亡というような記事です。朝、元気に「マラソンに行ってくるよ」と言った方々が心筋梗塞で亡くなる、これは避けなければいけないことだと私は思います。
 この動画を見ていただきたいと思います。これはスペインのプロサッカーのリーグです。この選手を見ていてください。彼がスローインを失敗して笑っているのですが、次の瞬間、彼は突然倒れてしまいます。チームドクターが心臓マッサージをしています。このときに実はAEDがFIFAのレギュレーションには入っていなかったために、AEDが設置されていなかったのです。そして彼はこのまま亡くなってしまいました。
 同じようなことがやはりプロサッカー選手のイングランドのリーグでもありましたし、ほかのリーグでもありました。これは4月に入ってからの話です。現在ではプロのサッカー選手でさえ、この心臓発作というものに関しては自分で守ることができないと言われるようになっています。
 皆さんも記憶に新しいと思います。昨年8月に日本のJ1で活躍していた松田選手が練習中に突然倒れられたということがありました。長野のほうでしたので信州大学に運ばれました。手は尽くされたのですが、残念ながら救命できなかったというようなことがございました。
 サッカーの選手でもそうですが、マラソンをやっている最中の突然死というのは最近どんどん増えております。5年ずつのスパンで見て調べてみますと、2000年から2004年までの5年間では37件、1年間に10人がマラソン中に心停止を起こしています。この2005年以降の5年間では54人、1年間に14人近くの方が心臓発作を起こされている。これは先ほどから申していますように、日本人の体自体あるいは心臓の血管自体が徐々に徐々に若い世代からもろくなってきているということを示しているのだろうと私は思います。
 日本臨床スポーツ医学会というところでは、2005年に学校関係者やスポーツのイベント会場のスタッフ、あるいは体育関係者などはAEDの使用ができるように教育を受けること、またスポーツの現場、学校の現場では5分以内にAEDができるような体制を整えることを提言しましたが、これは医師学会の提言なものですから決して日本全国に広まっているわけではありません。しかし、心あるスポーツの方々たちはこれを見て、徐々に徐々にいろいろな施設にAEDを設置することを勧めております。

99年は救急車を呼んで現場に着くまでに6.1分、今は8.1分です

 ところで皆さん、救急車を呼んだ場合にどのくらい時間がかかるかご存じでしょうか。この左側に書いてある数値が1999年のときに救急車を呼んだときの救急車が消防署を出てから現場に着くまでの時間を表しています。これが6・1分、そして現場から病院に行くまでの時間は27分だったのです。5年後には6・4分になりました。これが2009年には7・9分、そして今年は8・1分です。
 なぜ増えているかわかりますでしょうか。私はおととい、病院で当直をしていました。「のどが痛い」と言って救急車を呼んで来る若者がいたり、「コンタクトレンズが取れない、目が痛い」と言って救急車を使う人たちがずいぶんいるのです。さらに救急車は無料ですので何かあればといって呼んでしまう方々も多いです。最近では「目まいがあって歩けない」「腰が痛くて動けない」と、こういうような物理的に動けない方も救急車を呼んでいます。
 本当に救急車が必要なのか。一番大事なのは心臓の病気で突然倒れたり、あるいは脳卒中を起こしたりしたときに、いざというときに使われなければいけないのですが、時間が延びてきているのです。理由として、救急車の運行回数がとにかく右肩上がりに上がっているのです。でも市や県、国の予算は限られているので、救急車はこれ以上増えません。救急車を運行するスタッフも増えない。ということは、1台当たりの運行時間は長くなって救急車が現場に行ける時間はさらに延びてくるというような構造になっています。
 毎年毎年、救急車の出動回数が増えています。人口は減り始めているのにもかかわらず、救急車の運行回数が増えているというのは年齢が高齢化をしているということもあると思います。高齢化をして疾病を持っている方々が増えてきている。これは致し方ないことだと私は思いますが、無駄な救急車の利用はやめましょうとか、いろいろ今はキャンペーンがされていますが、こういったところからまず考えていかなければいけない。

高円宮殿下が亡くなってから、AEDが一般開放されるようになった

 病院までの時間が長くなり、現場に着く時間が長くなると、ますます現場で応急手当てをしなければならないということが、これから国民全部に義務づけられてくると私は思います。今の話はまた後ほど少しさせていただきたいと思います。
 皆さんご存じだと思います。高円宮殿下は大変スポーツに堪能な殿下で、宮杯といえば高松宮、高円宮と、スキーやいろいろなスポーツにカップの名前がついております。高円宮が亡くなられてから、ちょうど今年で10年になります。カナダ大使館でスカッシュをやっている最中に突然の心室細動に見舞われまして、そのまま、先ほどの選手と同じように意識がなくなりました。そしてカナダ大使館だったがゆえに救急車が到達できたのは22分後だったのです。
 もしアメリカ大使館だったらどうだったのか。アメリカ大使館だったら多分、今でもご存命だったと思います。その理由はアメリカ大使館には当時AEDが設置されていたからです。残念ながらカナダ大使館にはなかった。AEDがあるかないかによって命が助かるか否かが決まってしまったのです。このようにAEDというのは魔法の機械ではありませんが、あるかないかによって随分その人の運命が変わってまいります。
 結果としまして、このことを重く見た日本政府は、それまでずっとAEDを一般の人に解禁しようという循環器学会あるいは救急の学会からのアプローチにもかかわらず、時期尚早という判断をしていたのですが、このことによって一般開放されました。そしてAEDが今では一般国民が使われるようになっています。

AEDは心停止から5分以内に使うと助かる率が高い

 心室細動というのは心筋が細かくふるえて全身に血液が送れない状態です。心臓の血管の血液の流れが悪くなったり、あるいは止まったりしますとこういう発作が起こりやすくなります。これに対する治療は基本的にAEDを使うことです。このように心臓が小刻みに震えてしまいますと、心臓から脳へ酸素を送り込めません。血液というのは酸素を血液の中にいっぱい含んでいますので、結果的に心臓がこのように拍動するということは脳に酸素を送り込んでいるということです。
 先ほどのサッカー選手の心臓が、突然震え出したときに意識がなくなってばたんと倒れてしまったように、あのような形で心臓の動きが震え始めますと、大体10秒以内に意識がなくなってばたんと倒れます。それを見てほとんどの人は脳卒中を起こしているのだと判断されます。「胸が痛い」と言って倒れるよりも先に意識がなくなってしまうというのが心臓突然死のパターンとして挙げられています。
 このようにAEDを使って電気ショックを起こすことによって、この震えた状態をもとの心臓のリズムに戻してあげることができるのです。こういったような処置が実はAEDの効果であるわけです。AED(Automated External- Defibrillator)というのは自動体外式除細動器と言われていて、この頭文字をとってAEDと言われています。すでに日本国民のほとんどがAEDと言うとあれだなというのがわかるほど知名度が上がってきています。
 このAEDですが、最低でも発見から5分以内に使うこと。これが一番効果的な方法です。なぜか。先ほどの心臓の震えというのは5分、6分、7分とたっていきますと、だんだん震えが弱くなってきて、そのうちに震えがなくなってしまう。こうなってしまうとAEDは効果がないのです。震えているうちということで5分以内に使うことが必要です。
 ご承知のように救急隊を呼んだ場合には5分では来ません。大体10分以上かかります。ということは、救急隊が持ってくるAEDでは間に合わないということです。そこで先ほど言ったような自宅やいろんな公共施設にAEDを設置することということが大事になってきているのです。

AED設置国は世界で日本が一番 日本は人を助ける国です

 日本は2004年以来、AEDの設置をしてまいりました。例えば空港、駅のホームの中、小田急線は必ず駅に一つずつAEDが置かれています。この町にはイトーヨーカドーにもあります。あるいはこの施設にもあります。というように、公共施設といわれているところにはかなりの設置がされました。特に愛知万博では期間中、大体300メーター置きにAEDが設置されました。これは羽田空港のターミナルです。ハートのマークがついているのが全部AEDが設置されているところで、おおよそ50メーターから100メーター間隔で設置されています。
 なぜかというと、空港だと飛行機に間に合わないといって走っていく人が多いわけです。それによって発作を起こして倒れてしまうといった方に使われるケースが、あまり新聞には出ていませんが、飛行機の中、空港を含めて年間十数例あるそうです。
 実際にこれは愛知万博で私が医療救護体制をお手伝いしたときの写真です。このように小さいカートがありまして、倒れた人のところに3分以内で到達できる体制をつくっていました。AEDを持って医師が駆けつける、あるいは警備員や地域消防の方々と協力して処置を行うということで、5人の方が愛知万博期間中に倒れられて、うち4人が見事に社会復帰されています。5人中4人が助かっています。
 2004年のAEDの一般使用が認められて以来、毎年大体8万台ぐらいずつ増えていまして、2012年には40万台を超えるだろうということになりました。40万台を超えると同時に、ここに赤丸で書いてありますように、心臓発作を起こしてAEDを使った人の1カ月後の生存率は8%ぐらいだったのが13%まで実は改善をしてきています。かなりの数が助かるようになってきています。
 もう一つ、このAEDの設置数というのは、日本はアメリカに追い越せということでこれまで一生懸命設置してまいりました。現在は人口密度で比べるとすでにアメリカを抜いています。アメリカに行かれた方もいるかと思います。アメリカの空港では結構設置されているのですが、それ以外の場所ではあちこちにAEDが置いてある国は実は日本が一番多いのです。
 これは世界中のこういった救急のドクターが集まるところの中で発表したデータではあるのですが、日本がこのAEDの設置、そして日本がAEDの設置に伴って行ってきた教育。これは世界に誇るべきものです。この10年間、経済的にはあまりぱっとしなかったのですが、日本で誇るべきものというのはこのAEDの設置、すなわち日本は人を助ける国であるということを世界中にアピールすることが今はできてきています。こういうようなことに、これからの日本の若い人たちが自信を持ってもらいたいと思っているところです。

AEDのことを知っている子が「倒れている」と救急隊に知らせてくれた

 もう一つ、東京マラソンで倒れた方の話です。実は私たちの国士舘大学では東京マラソンのときにこのように救急救命士のスタッフにAEDを持たせて自転車で42キロの間を走り回る、そして学生たちにはAEDを持って1キロごとに立っているということをやっております。国士舘大学の学生、救命士の学生や、大学のOBで今の現職で消防で働いているスタッフが1日180人ぐらい沿道に立ちまして、一人もマラソン中の死亡を起こさないというスローガンのもとに、このマラソン救護に参加しています。
 まず第1回目の先ほど心臓の血管をお見せした59歳の方です。この方が40キロ地点で倒れ、意識がなくなりました。すぐにスタッフが駆けつけて心臓マッサージとAEDを使用しました。この写真はわずかその3週間後です。この方は倒れてからAEDが使われるまで約3分、4分ぐらい。そして使ってから約7分で目を開けゴールしようとしたのでみんなで取り押さえたのです。そのくらい現場で倒れた方にすぐ電気ショックをしますと、もとに戻るのです。脳は低酸素になりませんのでそのまま目を開けて、「あれ、今、僕、寝てた?」というような状況ですぐ立ち上がります。ゴールするのを押さえて救急車に乗せたということです。
 実はこのエピソードの中で、すばらしい活躍をしたお子さんがいました。この子は小学校5年生で沿道で倒れた人を見ていたのです。この子がうちのスタッフに「あっちで人が倒れているよ」と何百メーターか走って教えてくれたのです。なぜこの子がAEDを知っていたのか。夏休みの課題で校長先生にAEDのことを調べてみましたという自由研究を彼は出していたのです。
 一度も心臓マッサージをしたことがない、一度も自分でだれかに教えてもらったことがない子が、自由研究で勉強してこの中のヒーローになった。この後、学校に行きまして彼には金メダルをあげました。こういったことがまだまだ日本人の子でもできるのです。もっともっと若い世代に僕らは期待していいのかなということがわかりました。

心臓マッサージすると、低酸素にならないので脳に障害が起きない

 2年後の東京マラソンでタレントの松村邦洋さん――今日も昼の「アッコにおまかせ!」に出ていました。またずいぶん太ってきましたけど、彼は倒れまして、彼こそ本当に1分で心臓マッサージをされているのです。残念ながらかなり肥満体なもので脂肪がだいぶついていました。電気ショックが心臓までなかなか伝わらずに、2度の電気ショックを機械がしています。ただ、7分間、心臓マッサージをずっと続けていました。
 この写真は彼と1年後に会ったときの写真です。倒れた当初、自分はコメディアンで、命が助かって大変感謝している、AEDのことについて何でも協力するよと言っていたのですが、その後ちょっと話をしてみたら、事務所がコメディアンがこういうことをやってもらってはとても困るということで、残念ながら協力してもらえませんでした。
 それにしましてもこの動画は、彼の心臓が止まって7分間心臓マッサージを受けた12日目の記者会見の模様です。見ていただければわかりますが、7分間心臓マッサージを受けた人が12日目でこうやって普通にしゃべっているのです。なぜかというと、心臓マッサージをきちんとしていますと脳に酸素が回っていますので低酸素にならない、すなわち脳の障害が起きないのです。
 私たちが心臓マッサージをするというのはもちろん心臓をもとに動かすということが一つですが、心臓が震えていたりしている間にも脳に酸素を送り込んでいくことが大事な仕事なのです。彼がこうやって記者会見してつまらない冗談を言えるようになったのも、心臓から出ていく酸素をずっと維持し続けたということです。12日目にこうやって記者会見ができるということが、心臓マッサージがちゃんとできていた証拠です。
 彼は140キロあった体重を40キロ落としてこのマラソンに臨みました。前の年に実は1分のタイムオーバーで関門を越えられなかった。それが悔しくてだいぶ頑張って走っていたのです。オーバーペースになって実は倒れてしまったというのがあります。マラソンで倒れられる方の特徴は、実はオーバーペースというのがあります。自分の体が元気だと思っている人ほど危ないです。
 心臓の病気を持たれている方々というのは、よく先生方の言うことを聞いて、そして着実に従っている。こういう方にかんしてははあまり心配要らない。逆にそういったことを全く意識しない一見元気な方々のほうが問題なのです。

救急隊は何分かかるか分からない 運に任せるより自分で備えることが大事

 今年の東京マラソンも私たちはサポートしていますが、この番号の方とAEDを使ったというのを見ていただければわかりますが、今年も1人助かりました。私たちはこういうマラソンレースのサポートを、大学で救命士と一緒に年間50レース弱やっています。今までに私たちのサポートで、心停止になった方13名中12名までが救命されています。そのうち11名は全部社会復帰。一番の著効例というのは先ほどの方よりも短い時間で、倒れて1分で電気ショックをしました。目の前で倒れた方がいて、すぐに心臓マッサージを始めて電気ショックをしたらすぐに目が覚めまして、そのまま本当に走っていこうとしたのです。
 というように心臓発作に関してのAEDの効果というのは非常に大きいのですが、これが5分たったり、10分たったりすると全く効果はないのです。5分、10分で現場に医師が行けるかというと、そういうような体制を引いてない限りは全く無理なのです。救急隊も行けるかというと、自宅でそうなったときも救急隊は行けないです。たまたま近くに消防署があるとかというお宅であれば可能性はあります。だけどその救急車がどこか外へ出ていて遠いところにいたら、それこそ何分かかるかわからない。となると、運に任せるよりも、やはり皆さんご自身で備えていただく、あるいは家族の方に一緒に備えてもらうということが私は大事だろうと思っています。
 もう一つ、子供たちにも実はこういう危険性があります。学校における突然死。これは心臓震盪(しんとう)という、けがです。野球のボールなどが胸にどんと当たりますと、そのショックでさっきと同じように心臓が震え出してしまいます。不幸なことにこの外傷は心臓が全く悪くない子供の上に起こるのです。元気な子供でサッカーをやっていたり、野球をやっている子供たちの胸に強くボールが当たりますと起こります。野球のボールとか、ホッケーとか、サッカーとか、空手。こういったもので起きてきます。

助かるかどうかの差は、教育されているかどうかの差です

 最近、ミズノではこういうプロテクターをつくって、そういう衝撃をやわらげようとしています。ごらんいただきたいのは、これは空手の試合で子どもが倒れる動画です。こっち側の選手の胸のところを見てください。すぐに突きが入ります。――今、入りました。この後、彼はこのまま心臓震盪を起こして倒れてしまうのです。こういうようなことが学校の中で、あるいは子供たちがスポーツをやっている最中に起こる。これは何とかしなければいけないです。実はこの審判の方々はすぐに心臓マッサージをするわけでもなく、ちょっと顔をたたいたり何だりして、結局この子は亡くなってしまっているのです。
 私たちは空手の試合のサポートもしています。この前も極真会の試合で中学校2年生が胸に突きが入って心臓震盪を起こした。すぐに電気ショックしてもとに戻ったというケースもあります。こういうものこそ、本当にAEDを準備しておかなければならないということです。
 先ほどのサッカーのことといい、この心臓震盪は、かなりショッキングな画像なのですが、こういったときにいかに慌てずに応急処置ができるか。こういったことがその人たちの人生を決めます。彼は高校野球の選手でピッチャーだったのです。このピッチャーライナーを胸に受けまして、そのまま倒れたのです。
 たまたまこの救急救命士の人が――この日はユニフォームを着ていますけど、非番の休みの日でこの高校野球を見ていたのです。そして胸にボールが当たって倒れたものですから、すぐグラウンドへ出ていって彼がAEDを使いました。実はこのAEDというのはこの学校に前日か前々日にOBが寄付したばかりでした。そういうような運のいい子もいるのです。
 逆に子供の中で中学校の体育でサッカーをやっていて、ゴールキーパーでボールを取り損なって胸に当たってそのまま心臓震盪で倒れた。倒れた子供の周りの子供たちも、「どうしたらいいだろう、先生を呼んでこよう」というようなことで、わらわらとしてて結局すぐ処置できなくて亡くなってしまった子もいます。
 逆に高校のサッカー部で心臓マッサージのトレーニングをクラブでやったところ、そこは同じようなことが起きて、すぐに友達の胸を押し始めた子がいたり、あるいはAEDを取りに行ったり、先生を呼びに行ったりということをしたところでは実はその子は助かっている。この差は何だろうか。心臓の病気も何もない子供が学校で元気にスポーツをやって倒れてしまう。助かるかどうかの差は教育をされているかどうかです。
 実は中学校あるいは高校では授業として心臓マッサージを含んだAEDのトレーニングをすることになっています。この法律を私はずっと調べてきましたら、昭和33年以降、全部の方が――AEDはその当時はなかったですが、応急手当てをしなければいけない、学んでいなければならないのです。――後藤さんいかがですか、高校でやったことはありますか?
 後藤 ないです。
 田中先生 ないですね。何でなんでしょう。
 後藤 重要性が理解されてなかったということでしょうか。
 田中先生 そうですね、あと教えられる先生がいない。専門の先生ではないということです。AEDを指導する、あるいは心臓マッサージを指導できる先生というのは、ライフセービングとか、もともと体育学部でそういうのを習ってきたという人以外にはできないというのが私たちの研究で明らかになっています。
 AEDはもう2010年には32万台になりまして、2011年には40万台を超えます。日本のAEDはどんどん増えています。これに果たして教育が追いついていっているのかというと多少実は疑問があります。

救急隊が来るまで倒れたそばにいる人たちが救命するしかない

 先ほど申しましたように、救急車が到着するまでには8・1分というのが公式データです。国が出しています。ところが、この8・1分は実は消防署を出てから現場に着くまでです。ということは、消防署はたとえば、大和の消防署から出てこのセンターに着くまでの時間だけを8・1分と言っています。実はこの前には119番で、「今、人が倒れています」と電話して、「わかりました、じゃあ救急車を向けます」と言って、さらに救急車へ指令を出して「行きなさい」というまでに3分間、実は時間があるのです。もうこれで11分です。
 現場に着いた救急車が「どこですか、倒れている人は」と言って、さらにAEDを貼るまでに大体2分といわれています。ということで、これでもう13分です。ですから119番をしたときに、救急車が来るというのは平均13分というふうに考えていただいていいと思います。その間にもし何か急変したら処置をしなければいけないのはそのそばにいる人たちです。それ以外だれもやってくれない、あるいは周りにいる人たちがその人を助けてあげるということを実現していかなければ、これから救急車の到着時間はますます長くなってきます。恐らく今年あたりは8・3分、8・5分となってきて、救急車を呼んでもなかなか来ないというのがだんだん常識になってきます。
 だったらお互いに処置をしましょうということで、先ほど私が東京マラソンやいろんなマラソンの例を示しましたが、迅速に処置をする体制をつくっていれば助かるのです。AEDがあれば助かる人がいっぱいいるのです。そして的確に処置を行えば後遺症なく回復する可能性は松村さんで証明されています。そしてだれがやるかというと倒れた人のそばにいる皆さんです。これがやはり大きな役割を持っているということを考えていただきたいと思います。

救命の4つの連鎖=電話→心臓マッサージ→AED→救急隊

 これは国が出している「救命の連鎖」といって応急手当てをする流れです。このうちの四つ、輪があります。倒れた人を見たらすぐ電話しましょう、通報しましょう。その後に心臓マッサージとAEDをやりましょう。救急隊が来たら救急隊のいろんな処置をしてもらって専門の病院に運んでもらいましょうという、この四つの流れがしっかり結びついていくことが重要です。この最初の三つは実は一般市民の方が行うことです。すなわちプロの仕事人はこういう現場にはあまりいないのです。
 平成22年の突然の心停止の総数は12万人です。12万人のうち、心臓を悪くして突然に倒れられる方が53%。このうちだれかが目撃しているという人たちの数は、目撃してないという人たちよりも少ない。自宅で倒れている場合はだれも気がつかない場合もあります。こういうのをできるだけ減らしていかなければなりません。だれかがその倒れた現場を見て、すぐに応急手当てを始めることによって処置をした場合のほうが、処置をしない場合、目撃がない場合に比べて助かる率は非常に高いです。
 もう少し詳しく言います。何もしない場合だったら5%しか助からないのですが、心臓マッサージだけをしますと約倍の10%助かるようになります。さらにAEDを使用すると約9倍の45%助かるのです。心臓マッサージだけでも駄目ですが、AEDと心臓マッサージが組み合わされますと、助かる確率はこんなに高くなるのです。ということをご理解いただいた上でご準備いただくことが必要だろうと思います。

国民全部がAEDを使い、応急処置のできる教育が必要

 だれがこういった処置をするかというのを1年間調べてみました。3分の1が医療従事者です。人が倒れたというときにすぐに出ていって、「じゃあ私やります」と言える人というのは普段からやっている人たちが多いです。警察官、消防士、医師、看護師といったような方です。隣にいる人や友人というのも多くて、家族が少ないのです。私は何とか家族をもっと多くしてあげたいと思っています。そのためには国民的な教育、国民全部がこういうことができる教育が必要だろうと思います。まだまだ自宅で倒れても、家族の方が処置できないということを何とかしなければいけない状況だと思っています。
 AEDを使った場所ごとによって効果を見ていきます。実は学校と体育施設が非常に効果的なのです。この赤で示しているのは助かった率、あるいは1カ月後の社会復帰をしている率です。それを見ると体育館や学校だと助かる率は非常に高い。なぜかというと体育館にも学校にもAEDが必ずあるからです。AEDがあるがゆえに助かる率が非常に増えているのです。ところが病院にはAEDがあるのですが助かる率はあまり高くない。自宅でも同じです。発見する人が少ない。そういったようなことが自宅では多くあるようです。
 冒頭で私が申し上げたように、これからもっともっと家庭用にそういった処置のできる機材、あるいはご家族の方々が応急手当てをするということを広めていくことが必要です。今、応急手当てを普及する一つの障壁になっているのは、だれか知らない人が倒れていたら何かやってちょっと失敗したら困るという日本人の国民性というのでしょうか。だれかに処置をするということに関する法的な不安、あるいは応急手当ての仕方がわからないからという不安、そんなことがどうもアンケートで出てきています。

刑法や民法では救命処置(応急手当)は違法性を問われない

 これをアメリカ人に言いますと、どういう反応をするか。「やり方知らなくてもおれできる」と必ず手を挙げるのがアメリカ人。できていてもやらないというのが日本人というふうに大体の国民性というのが出てくるように思います。
 中国に行きますと、よく最近テレビに出ていますが、下手に処置をすると後で訴訟を起こされて何で処置をしたんだといって罰則を受けるというようなことも起きているようです。あるいは宗教的な理由から、外に倒れている人を直接女性が触れてはいけないという国もいっぱいあります。日本は幸いそういう宗教的な問題もいろいろな問題もありませんので、大いにもっともっと人を助ける国であってもいいのかなと思います。
 皆さん、ご存じでしょうか。救命処置をする際に一般の方を守っている刑法37条。応急手当ては社会的相当行為として違法性を問われず、故意もしくは重過失がなければ法的責任は問われないとなっています。民法698条でもほぼ同様の文面があります。何を意味しているかというと、応急手当てをして心臓マッサージをして肋骨がぽきっと折れた。その人が元気になって助かって挨拶に来て「助けてくれてありがとうございます。でも医療費がこれだけかかったのでどうぞ払ってください」ということにはなりませんということです。民法でも刑法でも正しい処置をしている限り、全く違法性は問われないということがはっきりと示されています。
 こういう法律があったことは皆さんご存じでしたか。やはりこの救急処置を保護する法律があまりにも知られていないのが問題です。もっともっと知られるべきだと思いますし、こういったことを学校で教えてほしいのです。応急手当てをしたらだれかに損害賠償で訴えられるんじゃないかということを否定するには、やはり法的なこういう正式な文面をちゃんと理解する必要があると思います。
 これを見ていただくとわかるのですが、私が「AEDはどこにありますか」と学校に行って必ず聞くと、警備員の方が「AEDは大事ですからね」とかぎを締めて倉庫に置いてあるんです。(笑)これではAEDを使って助けられないです。最近では学校に入った正面の下駄箱とか、一番倒れやすい校長先生の横に置いておく。これが鉄則です。大体そういうところに置いていただいています。
 AEDは実は設置されている場所によっては昼しか使えないところが結構多い。学校もそうです。夜、閉まっていますから、学校にいくら設置してあるといっても、とりに行ったときに夜の時間とか朝の時間は使えません。昼は結構使えるんだけどというところが多い。こういうことによってミスマッチが随分起きています。

学校では手作りのAEDトレーナーを試作して使っています

 私は今、こういうことを解決するためには教育しかないだろうと思っています。学校の中でこういうふうに一人一体、人形を使ってAEDを使ってやるトレーニングを始めています。――こんな感じです。段ボールを繰り抜いて、そしてこういったAEDのトレーナーを試作してつくっています。なぜかというと、心臓マッサージをする機械というのは非常に高いのです。学校でこういったものを買ってくださいと言っても、1台10万円とか20万円します。私が開発したのはこれだと1500円。1人1台ぐらい使えるようにトレーニングができるのです。
 学校の普及を阻害している一つの原因がやっぱりこういう教材が高いということであって、こういうものを地域の企業とかそういったところが、うちの地域の小学校とか中学校、高校で勉強してほしいということで寄付してもらうとか、そういうようなアプローチをぜひしたいと思っています。
 実際にこれは小学校でこういうことをやっている、トレーニングをしているところです。子供たちは一生懸命やって非常に上手です。これは小学校5年生です。小学校5年生、6年生がこういう形で応急手当てをやるようになりますと、大変上手に1時間ぐらいのトレーニングで簡単にできるようになります。これからは国民教育として、義務教育内に小学校、中学校、高校で応急手当てにAEDを使おうということで、家庭内でもそれを子供たち中心に広めていってもらう。自宅の中で何かあったときには子供たちがこういうことをやるということで、学校での教育を自宅に持って帰りましょうということを提唱しています。こんなことが将来できて日本全国の学校でこういうことができるようになると大変よろしいのではないかなと思っています。
 私たちは救急の場は命の教育と言って、日本を背負って立つような子供たちに命を助けるということ、あるいは命を大事にするということをこういった救急の処置を通じて学んでもらおうということでやっています。
 ではこれから具体的に人が倒れたときにどんな処置をするかということをやってみます。
 応急手当てというと難しいように思いますが簡単です。倒れた人がまず意識があるかどうかを確認してください、そして意識がなければAEDを持ってきてください、そして応援を要請してください、119番を呼んでくださいと、この三つを周りの人に大きく言っていただければと思います。
 次にやることはこの人が息をしているかどうかを見ます。息をしてなければもう心臓停止と考えて、すぐに心臓マッサージを始めます。こんな流れを皆さんに見ていただきたいと思います。
 今日は国士舘大学の学生に最後に少しデモンストレーションをしてもらおうと思います。では檀上のほうにお願いします。大きな声で自己紹介をお願いします。
 高原 国士舘大学3年生の高原と申します。よろしくお願いします。(拍手)
 隈元 同じく3年の隈元です。よろしくお願いします。(拍手)
 田中先生 それではどんな状況ですか。
 高原 ここの近くにあるイオンモールでお店の中で60歳ぐらいの男性が倒れたという想定でやりたいと思います。
 田中先生 はい。たまたま君たちがそこを通りかかったということですね。じゃあお願いします。

心臓マッサージ開始

心臓マッサージの交代(1〜2分で交代するのがよい)

マッサージをしている最中にAEDが到着しました

AEDの使い方の説明


 ━━デモンストレーション開始    
 高原 イオンモールの外で人が倒れているのを発見しました。まず安全の確認をします。周囲の状況、よし。もしもし、わかりますか、わかりますか、わかりますか。反応ありません。すみません、だれか来てください。
 隈元 はい、どうしましたか。
 高原 この方の意識がありません。あなたは119番と多くの人を集めてきてください。
 隈元 はい、わかりました。
 高原 あなたはAEDを持ってきてもらってよろしいですか。
 後藤 わかりました。
 高原 では、呼吸の確認をします。1、2、3、4、5、6。呼吸がありません。意識がないので胸骨の圧迫を開始します。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……。
 隈元 消防に電話します。119番。
 田中先生 はい、大和市消防です。火事ですか、救急ですか。
 隈元 救急です。
 田中先生 今、あなたの電話をしている場所は何市何番地ですか。
 隈本 大和市のイオンモール。ショッピングセンター・イトーヨーカドーの入り口の近くです。
 田中先生 はい。どんな状況でしょう。
 隈元 人が倒れていて呼吸と意識がないので、今、胸骨圧迫を行っています。
 田中先生 わかりました。それではすぐ救急車を向けますので、このまま電話を切らずにお待ちください。今、どなたか応急手当てをしていますか。
 隈元 今、1人、胸骨圧迫をしています。
 田中先生 わかりました。胸骨圧迫をしたことがあるんですね。
 隈元 はい。
 田中先生 じゃあそのまま続けてください。
 隈元 はい、わかりました。(胸郭圧迫している人に)119番に電話しました。
 高原 ありがとうございます。代わっていただけますか。
 隈元 はい、わかりました。
 高原 じゃあ1、2、3で行きます。1、2、3……。
 田中先生 今のように心臓マッサージを一度始めたら切らさない事が大事です。もう、すぐAEDがきます。
 高原 AEDがきました。まずAEDのふたを開けます。そしてスイッチを入れます。(ピーの音)
 田中先生 AEDはまず電源を入れてパッドを貼るということ。それから音声に従うということが必要です。(「音声」ランプが点滅しているソケットにパッドのコネクターを接続してください。)
 高原 胸の回りを確認します。貴金属なし、体毛なし、ペースメーカーなし、貼付薬なし、汗・水なし。(「音声」コネクターを接続して下さい。コネクターを接続してください)
 田中先生 パッドの位置は1枚目が右肩のあたり、2枚目が心臓の下ぐらいのところの位置にします。(「音声」心電図を解析中です。体に触れないでください。)
 高原 解析中です。触れないでください。
 隈元 はい。(「音声」ショックが必要です。充電中です。体から離れてください。)
 高原 離れてください。ショックします。(「音声」ショックを実行します。オレンジボタンを押してください。)
 高原 ショックボタンを押します。皆さん、離れて。ショックを開始します。(「音声」ショックが開始されました。一時中断中です。直ちに胸骨圧迫と人工呼吸をしてください)
 高原 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。1、2、3、4、5、6、7、8、9、20。
 田中先生 一回胸を押し始めましたら、それを続けます。今は人工呼吸はあまり重要ではなくなってきています。知らない人に人工呼吸をするのもなかなか大変ですから、胸を常に圧迫し続ける。これを交代で約1分ぐらいずつに隣の人と代わっていただけるといいと思います。
 高原 手足が動き始めました。呼吸の確認をします。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。
 田中先生 体が動いたり呼吸をし始めたりしたら、それは回復のサインになります。
 高原 呼吸があるので体を横に向けて窒息を防ぎます。そして救急隊を待ちます。
 隈元 ピーポー、ピーポー。救急隊です。
 高原 イオンモールで60歳ぐらいの男の人が倒れていまして、胸骨圧迫を絶え間なく続けていました。電気ショックを一回行って手足が動いて呼吸もありましたので体を横にしています。
 隈元 はい。ありがとうございます。救急隊が引き継ぎます。
   
 はい。ありがとうございました。ご苦労さまでした。(拍手)今のように、一回心臓マッサージを始めましたら、救急隊やドクターに引き継ぐまではずっと続けるということが大事です。とにかくまずは人工呼吸とかいろんなことを考えずに、胸の前をしっかり押し続けること。そして疲れたらすぐに隣の人と交代をする。そのために最初にいっぱい人を呼んでおいて1分ごとに交代をすることが大事です。
 私が例えば2分やるといっても結構大変です。やったことのある方はわかると思いますが、2分やるだけで自分のほうの心臓がおかしくなりそうになるので、そのときはもっと短い時間でも結構です。40回でも50回でも自分が疲れたら「交代、次をお願いします」と言って次の人が間髪入れずに代わる。また少し休んだらまた代わるということで、そういった交代でやるということと、かなりしっかり押すことです。両方の手をしっかり伸ばしていただいて、強く肩で押していただく。手で押すというよりは肩で押すのです。もう一回やってもらっていいですか。前に出てください。
 ━━胸骨圧迫のデモンストレーション開始    
 田中先生 両方の手を重ねてしっかりそのまま置いて強く押すのです。一見簡単そうに見えますが、ひじを曲げずに真っすぐ、この三角形を崩さないままに押していただくということです。疲れたらすぐに間髪入れず交代をします。
 高原 すみません。疲れたので代わってください。2分位で代わります。
 隈元 はい、わかりました。1、2、3。
 田中先生 はい。こういうような感じです。また疲れたら交代してもらいます。
 隈元 すみません。疲れたので代わってください。
 高原 はい、わかりました。
 隈元 1、2、3でお願いします。1、2、3。
 田中先生 常に胸を押していますと脳に酸素が行き続けています。脳に酸素が行くだけではなくて、実は自分の心臓にも酸素が行って、それだけでも心臓の震えが長く続くことがあります。AEDが来る、来ないにかかわらず、まず心臓マッサージをしっかり続けるということが大事です。
 そのうちに人工呼吸ができる人が出てきたり、あるいは機械を持っている人がいたりとかということで、だれかが少し処置に入るというようなことがいわれています。
 ━━デモンストレーション終了
 ということで、今日はこのデモンストレーションを含めましてどういうことをやるのかということをお話しました。AEDは簡単な機械ですが、やはりちゃんとしたトレーニングをしなければいけません。近くの消防署や日赤さんに協力していただいてこういう使い方をしっかり覚えておくことが大事ではないかなと思います。どうもご清聴をありがとうございました。(拍手)